＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ｜リアクション

＜天穹＞枯れ行く花に、甘露を捧げよ

序：天帝の庭へ

「これが……」
　見た事もない花々が咲き誇ろる『天帝の庭』を眼にし、八神修は息をのんだ。確かに植物について色々知識はある方だと自負してはいるが、そこに生えているものはどれも見た事が無かった。
　大木の下では、大きな白い獅子のような生き物が寝息を立てている。藍音はその身を瑠璃色の龍に変え、いつでも相手に出来るように観察している。
「何から採取する？　今回必要な物は４種類なのでしょう？」
　そう問いかけたのは仙藤紫。集まったのは４人の冒険者とツムジの５人だ。効率よく必要な物を揃えるにはどう動くべきか、話し合いたかった。
「空飛ぶ金色の卵を、捕まえに行こうと思っている。あとは聖獣の鱗を取るのも考えている。他にも手が足りないところに加勢するつもり」
　恵御納夏夜が眼鏡をかけ直しながら答える。その表情は何時になく真剣なように思えた。
（天狼族の力には何度も助けられたけど、浄化が間に合わないほど、負の感情を引き受けていたなんて……）
　その真実に酷く胸が痛む。だが、まだ決まったわけではない。彼らを救うチャンスはこうして巡ってきたのだから。
（ライメイを第二の呪皇になんてさせない。天狼族や禊の為にも霊薬の材料、何としても確保するよ）
　夏夜は僅かに手を握り締めた。
「僕は動く桃の木から樹液を取ろうと考えている。あと恵御納同様空飛ぶ金色の卵を……かな」
　サキリが夏夜を見、軽く頷く。修はそれをメモしながら紫へと視線を向けて問う。
「私は、まず、難易度が高いと思われる聖獣の鱗の調達から……と考えているわ。その後星屑の欠片を集めるつもりよ」
「奇遇だな。俺もそう考えていた」
　修が僅かに目を見開くと僅かに微笑む。夏夜は少し考える。このままだとサキリ一人で動き回る桃の木を相手にしなくてはならない、と。
（僕も彼を手伝おう）
　夏夜は一つ頷いた。
　と、その時だ。鈴が転がるような音がしたかと思うと、金色の卵が空を飛んでいた。卵から生えたクリーム色の翼を風に乗せ、楽しそうに飛んでいる。
「「アレが！！」」
　サキリと夏夜が同時に叫ぶ。２人は目配せすると、同時に走り出した。
「こっちは任せて！　鱗を頼んだよ！！」
「ああ、任された。そっちは頼んだよ」
　サキリの言葉に修は手を振って答える。傍らの紫は既に眠る獣の傍により、観察を始めていた。
（この鱗、抜けばいいの？　それとも……）
　不思議に思い藍音へ問いかけるとどちらでもいいらしい。それを考えると少しでも痛みの少ない方法を取りたいものである。紫は、少し離れた場所から獅子を見つめ、よく観察してみる。
（眠りが深いのか浅いのかはわからない。しかし仮に深かったとしても鱗を２、３枚取る以上、その痛みで気づかれるとみていいだろうし、それ以前に何者かが近づく気配で感づかれるかもしれないわね）
　だからと言って下手な小細工が効くような相手でもないだろう。そして紫のろっこんでは明らかに今の状況では役に立たない。彼女は表情をほんのりと険しくする。

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