おもちゃ屋さんに行こう！｜リアクション

おもちゃ屋さんに行こう！

　もう出てたんだ！？
　まゆらは驚いた。ビデオゲームのコーナー、新作ソフトの試遊台に『新★魔法少女大戦！』が置いてあったのだ。
　その名の通り本作は、日本の歴代アニメから作品の垣根を越えて魔法少女だけをピックアップしプレイアブルキャラクターにすえた対戦型格闘ゲームだ。
　まゆらが生まれるより前の古典的作品から最新作まで、ヒット作品ばかりではなくマニアックなキャラクターも登場させたゲームで、可能な限りオリジナル声優を使い技も再現、爆発的ヒットとまではいかずとも一定の人気がある。
　最近は「これ魔法少女だったっけ？」というような作品のスーパーヒロインやまさかの海外作品キャラクター、まったく無関係のアニメ内で描かれた劇中劇の魔法少女まで登場させており、なんだかんだいって新作が出るたび話題になっている。
　今回の目玉は、目下ブレイク中『ミスティックエール』の初参戦だ。『ミスティックアリア』の主人公ミスティにいたっては、従来からのオリジナル版、コスチュームと技が変更された『ミスティックエール』登場版の両方が参戦、うわさでは、両者のいいとこ取りみたいなハイブリッド版も隠しキャラクターとして用意されているらしい。
「これはやらずに帰れないよね……」
　格闘ゲームは得意ではないのだが、まゆらは迷わず列に並んだ。
　しばらく待って順番が来て、よし、とコントローラーを取ったところ、
「あっ」
「落合さん！？」
　対戦相手のコントローラーを握ったのは千絵だった。
「また会ったね」
「会いましたね」
　これは運命だ。そう考えて対戦モードに入った。
　迷わずまゆらはオリジナル版ミスティを選択する。
「ならば」
　千絵はそれを見てから、二代目ミスティ（エール）にカーソルを合わせたのである。
「手加減しないよ……と言いたいところだけど、あたし格ゲー苦手なのよね。技を出すので精一杯」
「ご安心ください、私も五十歩百歩です」
　かくして『ROUND１　ファイッ！』がはじまったのである。
「春はわた……え？　出ない」
　画面中、ミスティのステッキが空を切った。そればかりか、ふわっと変なジャンプまでしてしまう。必殺技のコマンド入力に失敗したのだ。しょうがないから自分で言う。
「春は私の大好きな季節だもんっ！」
　カウンターとばかりに千絵が叫んだ。
「ミスティックシュート！」
　これも技のつもりだったのだろう。実際は出ていないが。画面のエールはやっぱり変なジャンプになってへろりと浮いただけだった。ボードゲームやTCGの天才三佐倉千絵も、格ゲーの力量においては平均をずっと下まわるのだ。
「クリムゾンスプラッシュ！」
「先輩、私やります！」
「私に見せて！　あなたの勇気！」
「クラウン装着！　エナジー全開……光よ！」
　以上、全部技を出しているつもりになっているだけで、互いに見当違いの魔法攻撃やかすりもしないキックを出しているだけのふたりのやりとりである。おそらくゲームに含まれていない音声もあることだろう。
　だがそれでいい、楽しいから！
　もともと千絵もアニメ声（実はある声優の声真似が得意）、まゆらにいたっては卵とはいえ本職なのだ。リアル音声飛びかうこのやりとりが耳を引いたか、周囲に二人、三人とつぎつぎと人がやってきて、いつしかギャラリーの集まりができていることに、まゆらも千絵も気がつかない。
　結局、二本先取してまゆらが勝利した。いずれもあまりバトルらしいバトルにはならずタイムアップで。それでもゲームが与えてくれるものを存分に満喫したように思う。
　ああ遊んだ遊んだ、とコントローラーを置いたところで、ようやくまゆらは多くの観衆にかこまれていることに気づいて面食らったのである。
「え！？　なになに！？」
　自然発生的に拍手まで起こって赤面する。しかも千絵が、
「こ……こちら期待の新人声優、落合まゆらさんです！」
　とっさにそんな紹介をしたものだから、ますます紅潮するほかないのであった！

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