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- 00月00日生 00歳
- AAA000000
おもちゃ屋さんに行こう！
自家用車があればさほど苦労することもなかろうけれど、バスで行くのはいささか手間どる。あまり本数が多くないわりに、乗り継ぎする必要まであったりするから。
でも、そこまでする価値はあったと佐藤 英二は確信している。
うたた寝しかけて目が覚めて慌ててバスから飛び降りて、目の当たりにした光景に声が出た。
「さすがハローニャック……すごい大店舗！」
まるでそびえたつ孤高の城塞、けっして広くはない寝子島に、よくぞこれほどの玩具店を用意したものだ。立体駐車場をそなえた重厚な店がまえ、何本も支柱があって、ゲームに出てくる王宮みたいな旗すらはためいている。赤・青・白のトリコロールに彩られた建物は鮮やかすぎて現実味があまりなく、万博のパビリオンかと見まがうほどだ。
近づいて見てもやはり巨（おお）きい。
入口脇のプレートに『運行予定：本日は通常通りです』と記されているからなにかと思えば、なんと店内メリーゴーランドの運行についての説明だった。店内にメリーゴーランドだって！？
まるで観光地だ。あとで知ったのだが実際、最近は観光バスのルートに組み込まれたりもしているらしい。
これは品揃えに期待してよさそうだ。さっそく入ってみよう。
はやる気持ちを鎮めるように、肩の鞄の紐に手をあてて英二は『ハローニャック』の入り口をくぐった。
◆-◆-◆-◆
少しもじっとしていない。
世の中が、だ。落合 まゆらの周囲の。倍速再生ボタンが押されているのではないかと思ってしまう。
つい先日までは記録的豪雪を含む大寒波、ずっと冬将軍が君臨するのかと思っていたのに、気がつけば雪は溶けすっかり過去の書き割りと化し、春は順調に訪れた。
あとで知った話だが、あの豪雪の日に河原で発砲事件があったという。まゆらは雪中遭難しかけたのだ、下手すれば自分がそれに巻き込まれていたかもしれないと思うとゾッとする。
じっとしていないといえば、声優としてのまゆらも激動の日々を過ごした。
ついに『その日』は来てまたたく間に去った。
アニメ『春の音を奏でるのは君』、第一話の収録だ。
まゆらの出番はいわゆるガヤ、役名もなければギャラも出ないその他大勢として、自分と同様の新人声優の群れにまじって物語のBGM的にぎやかしを行ったのである。
さすがプロの現場、学校とはまるでちがっていた。出演者もスタッフもきびきびしており、とりわけヒロイン役の声優はまさしくカリスマ、輝くオーラを帯びて見えたものだ。まゆらは幸運にも彼女とごく短く言葉を交わすことができたものの、緊張のあまりなにを話したか覚えていない。というか、その日スタジオであったことのほとんどを覚えていなかったりする。
あの日の自分はまるで、大都会に連れてこられた森の子リスだった。見るもの聞くものすべてにおっかなびっくりで、ちゃんと息をしていたのかどうかすら怪しいと今でも思っている。
それでも仕事が認められたのか単に誰でもできる業務だということか、まゆらはその後も呼び出され第三話までガヤ出演することができた。毎回子リスちゃんに変身しつつ。
これまでアニメを観ていてガヤに注目したことはなかったが、以来まゆらはずっと、本編同様の集中力をもってガヤを聴くようになったものだ。
うう、でも……。
まだアニメ本編は放映されていない。だからまゆらは自分の出演シーンを確認できていないのだった。
単なるガヤ、どの出演場面も数秒ずつで当然ノンクレジット（一応『協力 寝子島アニメーション学院』とは出るらしい）といっても、自分の声が全国に流れるのである。遠くない未来に。
とんでもないミスをしてたらどうしよう。
そのせいで本編の印象が悪くなってたら……。
ロクでもない考えが、脳内をぐるぐるとブラウン運動しまくっている。
ダメダメ、とまゆらは自分の頭をポカポカ叩いた。
昨日は三回目の収録だった。そのせいかまゆらは本日、せっかくの休みなのに朝から同じことばかり考えているのだった。じたばたしているのに前に進まない進めない。そうだ、あれに似ている。ペットにされたリスが回している滑車だ。
こういうときはどこにか外に出かけるに限る。
さっそくまゆらは身支度をして、築推定５０年のアパートを出た。
いつの間にやら寝子島駅前に着いたものの、無目的に出たものだから行くあてもない。
さてどうしようかなと思ったところで、まゆらは見覚えのないバス停留所に行き当たった。駅前のロータリーの一角だ。
赤と青、白でペイントされたちっちゃなポールだった。こんなのあったかなと見てみれば、こう書かれておりポスターも貼られている。
『ハローニャック行き☆無料シャトルバス』
あっ、これ知ってる。
昨年『おもちゃのハローニャック』なる大型玩具店がベイエリアにできたはずだ。ちょっと交通の便が悪いところにあるので一度も訪れていなかったが、送迎シャトルバスが出ているとあれば話は別、無料とあればなおさらだ。
すでにバス停には人の列ができている。
到着時刻を確認しようとスマホを取り出すより早く、フランス国旗風のバスがロータリーにすべりこんできた。
でも、そこまでする価値はあったと佐藤 英二は確信している。
うたた寝しかけて目が覚めて慌ててバスから飛び降りて、目の当たりにした光景に声が出た。
「さすがハローニャック……すごい大店舗！」
まるでそびえたつ孤高の城塞、けっして広くはない寝子島に、よくぞこれほどの玩具店を用意したものだ。立体駐車場をそなえた重厚な店がまえ、何本も支柱があって、ゲームに出てくる王宮みたいな旗すらはためいている。赤・青・白のトリコロールに彩られた建物は鮮やかすぎて現実味があまりなく、万博のパビリオンかと見まがうほどだ。
近づいて見てもやはり巨（おお）きい。
入口脇のプレートに『運行予定：本日は通常通りです』と記されているからなにかと思えば、なんと店内メリーゴーランドの運行についての説明だった。店内にメリーゴーランドだって！？
まるで観光地だ。あとで知ったのだが実際、最近は観光バスのルートに組み込まれたりもしているらしい。
これは品揃えに期待してよさそうだ。さっそく入ってみよう。
はやる気持ちを鎮めるように、肩の鞄の紐に手をあてて英二は『ハローニャック』の入り口をくぐった。
少しもじっとしていない。
世の中が、だ。落合 まゆらの周囲の。倍速再生ボタンが押されているのではないかと思ってしまう。
つい先日までは記録的豪雪を含む大寒波、ずっと冬将軍が君臨するのかと思っていたのに、気がつけば雪は溶けすっかり過去の書き割りと化し、春は順調に訪れた。
あとで知った話だが、あの豪雪の日に河原で発砲事件があったという。まゆらは雪中遭難しかけたのだ、下手すれば自分がそれに巻き込まれていたかもしれないと思うとゾッとする。
じっとしていないといえば、声優としてのまゆらも激動の日々を過ごした。
ついに『その日』は来てまたたく間に去った。
アニメ『春の音を奏でるのは君』、第一話の収録だ。
まゆらの出番はいわゆるガヤ、役名もなければギャラも出ないその他大勢として、自分と同様の新人声優の群れにまじって物語のBGM的にぎやかしを行ったのである。
さすがプロの現場、学校とはまるでちがっていた。出演者もスタッフもきびきびしており、とりわけヒロイン役の声優はまさしくカリスマ、輝くオーラを帯びて見えたものだ。まゆらは幸運にも彼女とごく短く言葉を交わすことができたものの、緊張のあまりなにを話したか覚えていない。というか、その日スタジオであったことのほとんどを覚えていなかったりする。
あの日の自分はまるで、大都会に連れてこられた森の子リスだった。見るもの聞くものすべてにおっかなびっくりで、ちゃんと息をしていたのかどうかすら怪しいと今でも思っている。
それでも仕事が認められたのか単に誰でもできる業務だということか、まゆらはその後も呼び出され第三話までガヤ出演することができた。毎回子リスちゃんに変身しつつ。
これまでアニメを観ていてガヤに注目したことはなかったが、以来まゆらはずっと、本編同様の集中力をもってガヤを聴くようになったものだ。
うう、でも……。
まだアニメ本編は放映されていない。だからまゆらは自分の出演シーンを確認できていないのだった。
単なるガヤ、どの出演場面も数秒ずつで当然ノンクレジット（一応『協力 寝子島アニメーション学院』とは出るらしい）といっても、自分の声が全国に流れるのである。遠くない未来に。
とんでもないミスをしてたらどうしよう。
そのせいで本編の印象が悪くなってたら……。
ロクでもない考えが、脳内をぐるぐるとブラウン運動しまくっている。
ダメダメ、とまゆらは自分の頭をポカポカ叩いた。
昨日は三回目の収録だった。そのせいかまゆらは本日、せっかくの休みなのに朝から同じことばかり考えているのだった。じたばたしているのに前に進まない進めない。そうだ、あれに似ている。ペットにされたリスが回している滑車だ。
こういうときはどこにか外に出かけるに限る。
さっそくまゆらは身支度をして、築推定５０年のアパートを出た。
いつの間にやら寝子島駅前に着いたものの、無目的に出たものだから行くあてもない。
さてどうしようかなと思ったところで、まゆらは見覚えのないバス停留所に行き当たった。駅前のロータリーの一角だ。
赤と青、白でペイントされたちっちゃなポールだった。こんなのあったかなと見てみれば、こう書かれておりポスターも貼られている。
『ハローニャック行き☆無料シャトルバス』
あっ、これ知ってる。
昨年『おもちゃのハローニャック』なる大型玩具店がベイエリアにできたはずだ。ちょっと交通の便が悪いところにあるので一度も訪れていなかったが、送迎シャトルバスが出ているとあれば話は別、無料とあればなおさらだ。
すでにバス停には人の列ができている。
到着時刻を確認しようとスマホを取り出すより早く、フランス国旗風のバスがロータリーにすべりこんできた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2020年12月29日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年01月05日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年01月05日 11時00分
