ドアがどーんと開く。
いや実際には自動ドアなのでシュッと開いただけだけど。
でも気持ちのうえでは『どーん』だ、まちがいない!
右見て「うわあ!」、特選キャラクターグッズコーナーのお目見えだ。あるある、あの人気アニメも人気特撮も、TVゲームの最新作も!
左見てまた「うわあ!」、おもちゃ付きのお菓子がずらり、自転車やスケボー、乗り物まで控えているではないか!
そして正面またまた「うわあ!」、いいや今度は「うわあああ!」くらいにしてもいい。
ディスプレイされていたのだ。このシーズン一押し作品――
『魔法少女ミスティックエール』の立て看板、ヒロインの『エール』ちゃんが!!
「……すごいのれす」
見帰り沼の コトコは圧倒されたように立ちつくしていた。がま口財布を握る手に力がこもる。
等身大のタテカンなのだ。エールの背丈はコトコよりいくらか高いくらいだった。手をさしのべてにっこりと、きらきらした目でほほえんでいる。ピンクを基調に淡いパープルとブルーをちりばめたドレスライクな衣装、頭の左右と胸に、かわいらしいリボンをあしらっている。
もしかして、とコトコはつぶやいた。
「とーのこと、まっててくれたのれすか?」
エールの顔の横にはフキダシがあり、「いらっしゃいませ! おもちゃのハローニャックへ☆」と書いてあるからだ。
「キュートっすねぇ~」
コトコの真後ろ、やや高い位置から声がした。
後藤 杏那(ごとう・あんな)は身をかがめて、
「えーと、『変身ステッキ(ミスティッククラウンつき)本日入荷』って書いてあるっすよ。一安心っす」
とエールの胴に貼られたチラシを読み歯を見せて笑った。あんなは本日の保護者役だ。頭頂が黒くなりつつある茶髪、小豆色のジャージにジーンズ、ブーツカットのスニーカーというちぐはぐな格好だがそれなりにまとまって見える。さすがにコトコの母親には見えまいが、「姉です」でじゅうぶん通りそう。
ことの発端は本日、たまたま桐太の家に遊びに来ていたコトコがあるアニメを観たことにある。
テレビをつけたら偶然はじまったのである。春休み午前中のキャッチアップ再放送だったようだ。『魔法少女ミスティックエール』、コトコにとってははじめてみる番組だった。桐太も「女の子向けのアニメだよな」くらいの認識しかなかった。
とくに期待もせず漫然と観始めただけなのに、まもなくコトコはエールに魅了されてしまった。
ポップな色使い、シーンごとにトレーディングカードにできそうなほど良質な描写はもちろん、夢と希望をベースとしつつ、さりげなく現実の社会問題を織り込んだストーリーも抜群にクオリティが高い。本作は昔のアニメの続編らしいしすでに第三話くらいだったが、そんなことは問題にならなった。
「へんしんすゆ、すてっち(ステッキ)が、ほしーのれす!!」
終わるや否コトコはそう言って、ふんすと激しく鼻息をついたのだ。番組の合間合間のCMもちゃんと観たことによるある種必然の展開だった。
「えーでもどうするの?」
「かいにいくのれす!」
まあ絵空事だよねと思っていた桐太に、お守(も)り役のあんながあっさりと言った。
「なら行くっすか? 今から」
春休み期間中だし賑わってるっすかねえ、とつぶやきつつあんなは、もうスマートフォンでスイスイとおもちゃ屋の情報を探しはじめていた。
かくて山越え谷越えは大げさにしても、バスにゆられて三人は、この大型玩具店ハローニャックにたどり着いたというわけだ。
「ところで桐太君は?」
「にーに?」
あんなとコトコはきょろきょろする。店まで一緒に来た
比嘉 桐太(ひが・とうた)の姿が見えなくなったのだ。
間もなく見つかった。
「……」
諸葛孔明に会えた劉備のような、というたとえはもちろんコトコにはわからないが、探していた人にようやくめぐりあえたという喜びと緊張感に満ちた表情で、桐太は特選キャラクターグッズのディスプレイに釘付けになっていたのである。
「つみきれすか?」
「ううん、ブロック。NYAGOって言うんだよ」
精巧な、けれども大胆なアレンジのされたブロック構築物が展示されていた。スーパーヒーロー実写映画の再現らしい。ケースの内側には組み上がった例として、ブロックで作られた秘密基地に、やはりブロック製のステルス飛行機、そしてブロックのヒーロー&ヴィランたちがそろっている。飛んだりパンチしたり武器を発射していたりしてにぎやかだ。決戦場面のはずだが、みんな表情がコミカルなので楽しげに見えた。
「にーにはこれ、ほしいのれす?」
「うん……」
語尾が濁っているように聞こえたのは気のせいだろうか。
「ひゃー、しかし最近のオモチャ屋ってのは大きいっすねー」
フロア全部がこの店、『おもちゃのハローニャック』だと知って、あんなは手を額にかざしてかなたを見る。
「半日くらい平気ですごせそうっす」
本当に、それくらいすごせるかもなのだ。
資金もある。コトコのがま口財布のなかにはお年玉でもらってとっておいたもの、光り輝く高額紙幣がぽんと一枚おさまっているのだから。
☆ ☆ ☆
昨年オープンしたばかりのこの店、前に来たときは途中で体力が切れすべて回れなかった。
見尽くせなかった。口惜しい気持ちである。
だが臥薪嘗胆、再訪を期し数ヶ月、
「ハローニャックよ、私は帰ってきたあ! ……とでも言うべきでしょうかね」
こういうときは、と言って
三佐倉 千絵は連れを振り返った。
さっさと入ればいいものを、入り口のところでためらっているのは、やはり相手が巨大すぎるからだろうか。
それとも単に、千絵も千絵なりに昂ぶっているだけだろうか。おもちゃの王国入りを前にして。
☆ ☆ ☆
たくさんの『申し訳ありません』と『調べてきます……少々お待ち下さいませ』をくりかえした結果、接客に向かないという審判がくだされた。
濃いブルーのシャツにネクタイ、『おもちゃのハローニャック』の制服である。女性用だとXLでもつっぱるので、彼女は男性用のシャツを着ている。
さもありなん彼女の背丈は、並の男性を優に上回る。すらりとしており麗しい目鼻立ちに豊かなブロンド、モデルでもやればいいものを、「表に出るような仕事はちょっと……」と彼女は少しでも背丈を小さく見せるように猫背で、黙々とプレゼント用購入物のラッピング作業をしている。眼鏡をつけ帽子をかぶって、ただ黙々と手を動かしていた。
でもこれでいいのだ、こういうのが一番おちつくらしいから。
なお彼女の名札に書かれた名前はキリル文字なので、一般のお客さんにはちょっと読めない。
☆ ☆ ☆
探検のときがきた! 密林に分け入るように広大な店内をめぐろう。
試遊の準備はOKか?
トイレの位置は確認したか?(広いだけにけっこう切実な問題)
目当てのステッキにたどり着くまで、幾多の誘惑を振り切れるという自信は?
赤ちゃんコーナーに迷い込むなかれ!
さあ踏み込もう! おもちゃ屋さんに!
行こう!
リクエストありがとうございました! 大変長らくお待たせしました。桂木京介です。
見帰り沼の コトコ様のプライベートシナリオをお届けします!
本作はコトコ様のご希望もあって、飛び入り枠も5人分ご用意しました。コトコ様たちとかかわらなくとも、大きなおもちゃ屋を探検するというお話として楽しんでいただきたく思います。
シナリオ概要
日にちは特定しませんが本日は春休み期間中です。
昨年開店したという郊外型の巨大おもちゃ屋『おもちゃのハローニャック』を探検します。
大量入荷大量販売で価格を下げるという方法でにぎわっているようで、ものによってはインターネットで探すより安く購入できるでしょう。
中には休憩コーナーや赤ちゃんルームもあるようです。
試遊コーナーもたくさんありますので楽しんでいって下さい。
『魔法少女ミスティックエール』
1月にはじまったばかりの新作アニメ、かつて放映され大人気を博した『魔法少女ミスティックアリア』の正統派続編です。といっても世界観が同じだけでキャラクターは一新されており、対象年齢の子どもたちには純粋な新作として受け入れられています。『アリア』時代に魅了されたかつてのファン(大きなお友達)からの評価も高いようですね。
変身ステッキは人気アイテムです。この日はちょうど入荷されたばかりなので在庫も安心ですよ。
NPCについて
●後藤 杏那(ごとう・あんな)
元ヤンキーのキャバ嬢(源氏名『あんな』は本名なのでした。店では『現役大学生』という設定ですが本当は高校も出ていません)。
誰に対しても「~っす」という彼女なりの敬語で話します。あっけらかんとした性格で、同じアパート階下の桐太にとっては姉がわりです。
オモチャをまったく買ってもらえない子ども時代を送ったので、桐太たちには悲しい思いをさせたくないと内心思っています。
●比嘉 桐太(ひが・とうた)
小学一年生。あんなと同じアパートの住人でコトコの友達です。一時失業していた母親が定職に復帰できたのでお祝いとしていくらかのお小遣いをもらっています。
本当はブロック玩具(NYAGO)のアメリカンスーパーヒーローセットがほしいのですが、彼の手持ちはそれほど多くないのでヒーロー単体かヒーローの乗り物のどちらかひとつを購入するのがせいぜいです。どちらにするか非常に悩むと思います。
●三佐倉 千絵(みらくら・ちえ)
ホビーショップ『クラン=G』の看板娘です。この4月から中学生になります。『クラン=G』ではプラモデルも扱っているので、この『ハローニャック』ともかぶる部分があります。
本日は店長(父親)が『クラン=G』にいるので「敵情視察」と称して市場調査にやってきました。友達と来店したという体裁をとっているかもしれません。
年齢のわりには落ち着いていますが、実は電動キックボードがちょっと欲しかったりします。
●とても背の高い女性店員さん
身長190センチくらいあるでしょうか。金髪碧眼でとても目立つ容姿の女性アルバイト店員です。
背丈にコンプレックスがあるのか猫背気味で、大きな眼鏡をかけています。接客がしどろもどろになりがちなので主としてラッピングを担当しているようです。ロシア語と英語ができるので通訳をすることもあります。
(過去作品に登場してきたあるキャラクターです……ってバレバレですか)
NPCについても、登録NPCであれば100%登場できると思います。(野々 ののこあたりは普通におもちゃ屋が好きですし、レベルの高いTVゲームや列車模型など、大人向けコンテンツも盛りだくさんです)
未登録NPCでもほぼ登場します。誘って一緒に遊んだり、偶然出会ってそのままデートみたいになったりすることでしょう。
身を隠していたり警察の保護下にいるようなNPCの登場はかなり苦しいですが……考えさせて下さい。
それでは、次はリアクションで会いましょう!
桂木京介でした。