にゃんぴーす！２～宝を手に入れよ！～｜リアクション

にゃんぴーす！２～宝を手に入れよ！～

　　　６

　猫と獣人は、距離を取りながら、睨み合いを続けた。
　右回り、左回り、右回りとぐるぐる回りながら、間合いとタイミングを測る。
　最初に動いたのはニャッドだ。地面を蹴り、一気に距離を縮める。鋭い爪が顔を襲うが、それを僅かな動きで避けた幸次はカウンターで右腕を繰り出した。
　しかしニャッドはその腕を前足でがっちり掴むと、それを軸にぐるりと回転し、上に乗ってしまった。
　ニャッドは幸次の腕を蹴り、彼の顔面目掛けて爪を振り下ろす。
「――ッツ！！」
　鮮血が飛び散り、瀬莉の悲鳴が上がった。龍樹は声を張り上げて応援し、巧は気絶しそうになっている。
　着地したニャッドは、爪をぺろりと舐めた。
「デカくてもノロかったら意味ないにゃ」
　幸次は二～三歩よろめき、手で鼻の頭を拭った。手の平が真っ赤に染まった。
　勇敢な人間だとは言えない。ごく普通の、のんびりとした性格だと幸次は自認している。それでも、今ここでふんばらないといけないと思っていた。
　もし、この蔓がにゃんぴーすでそれをニャッドたちに渡したら――そして、ニャッドたちが他の猫を支配するために使ってしまったら。そんなことになったら、幸次の大切な「花遊（かゆう）」もどうなるか分からない。
　そんな危険は、冒せない。
　幸次は両手を地面に付けた。ニャッドは笑った。
「また、それにゃ？」
　幸次は答えず、力いっぱい地面を蹴った。一瞬でニャッドの正面に辿り着く。がばり、と立ち上がった幸次にニャッドは、
「二度も同じ手が通じると思うにゃ！」
と、再び幸次の顔目掛け、爪を繰り出した。
「――思ってないよ」
　そう告げる幸次の頭には、猫の耳はなかった。人間の顔だった。
　頭上の拳がぱっと開き、さらさらと粉が零れ落ちる。
「こ、これは――！！」
　見る見るうちにニャッドの片目が蕩け、身体から力が抜けていく。
「キャプテン！？」
　ごろんごろんと地面に身体を擦り付ける船長を見たニャリファドは、駆け寄ろうとした。
　しかし横から何かがぶつかり、転がりそうになるのを、辛うじて堪える。
　それは、小さなロボットだった。――龍樹のカプセルギア「ムテン」だ。
「男同士の勝負だぞ！」
　龍樹は叫んだ。神聖な一対一の勝負に、水を差すことは許されない。
「卑怯な真似をしたのはそっちにゃ！」
「道具を使ってはならない、とは約束してないからね」
　ハンカチで鼻の頭を押さえ、幸次は言った。
「またたびだよ。死んだりはしないから、心配ない。ちょっと効き目強いから、正気に戻るには時間かかるかもしれないけど」
　でも、と幸次は続けた。「俺の勝ちだね」
　ニャリファドは幸次を睨みつけた。こんな勝負は認めたくはない。ニャッドが負けたとも思わない。
　だが幸次の言うように、前以て勝負の条件を決めておかなかったのは、こちらの落ち度だ。何より、ここで抵抗するメリットがない。ニャッドと共に戦うならともかく、自分一匹では幸次に勝てないだろう――。
　黒猫海賊団の副船長は、そう判断した。
「――分かったにゃ」
　ニャリファドの答えに、幸次はほっと息をつく。
「約束だからね。さっき受け取った蔓も、置いていってくれ」
　ニャリファドは、にやりとした。
「バレてたかにゃ」
　ニャリファドが前足を開くと、はらりと蔓の切れ端が落ちた。ニャッドとハイタッチしたときに、受け取ったのだ。
「こんな結果になったけど、よかったら寝子島に残らないか？　ここなら、黒猫が不吉だなんて勝手なことを言う奴らはいないよ」
「――さあ、それはキャプテン次第にゃ」
　そう答えたニャリファドは、ニャッドを背負うと、他の黒猫たちと共に去っていったのだった。

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