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ンモ～っ♪ 新春☆初夢フェア２０２１！ ～茄子編～
ゆらり、赤い光が夜道を照らす。
月影の竹林の砂利路に提灯の火が這う。這って跳ねて、横たわる。
月光の蒼銀を黄金の双眸に映して猫頭が笑う。ニャア。
未だ人のかたちを有する手にした提灯を掲げ、三毛猫の頭に灰鼠羽織姿の人間の体をしたナニカが歩いて行く。
猫と人のかたちした物の怪が行くは、人の里かあるいは妖の界隈か。
痩せた男のかたちした腕が持ち上がる。『猫』の一文字記した提灯の光が照らし出すのは、竹林の向こう、赤く紅く燃え上がるが如く咲き乱れる曼殊沙華の花畑。
空に白く輝く月の光を圧して、赤い花園が広がっている。
地を埋める赤い花をふたつに裂いて延びるのは、白い玉砂利の路。路の左右には、誰とも知れぬ人間の名を記した行灯が並ぶ。
「……」
男の名、女の名。子の名、翁の名、媼の名。ひとりひとりの名が記された行灯の中の蝋燭をひとつひとつ丁寧に丹念に、化け猫は吹き消して行く。ひとつ吹き消してはニャアと笑い、ひとり消してはニャアと嗤う。
曼殊沙華の赤い色ばかりが揺蕩う月影に、ひとり踊る化け猫の足元に、月影の色よりも深い色した影が落ちた。小首を傾げる化け猫の目前で、影は音もなく凝り、盛り上がり、やがて長い黒髪の痩せた少女のかたちを作る。
ニャア、と笑う化け猫に、少女は髪に隠れがちな白い面の中で唯一見える口元をにっこりと笑みのかたちにした。にゃあ、と唇のかたちだけで言ってみせて、おもむろに病的にまで痩せた腕をもたげる。
月の光にさえ染まらぬ闇の色帯びたその指先に作るのは、猫の耳。
両のひとさしゆびで作った猫の三角耳を艶やかな黒髪に覆われた頭に乗せ、少女の亡霊は楽し気にくるりと宙に舞った。そうして、まるで昔からの定位置のように化け猫の傍らに添う。猫と人の混ざり合う首の後ろから細い両腕を回し、くすくすと笑う。
触れ得るはずのない少女の呼気が、髪が、冷たく細い腕が、己の首筋にまとわりつくような感触があまりにくすぐったくて、少女の笑う声が耳に甘くて、猫は笑う。
「……ふふ」
自分の笑う声で目が覚めた。
開けた瞼の下の眼に映るのは、見慣れたいつもの自室。
布団に肘をついて起き上がる。長身痩躯の背を丸め、化け猫の皮を被っていたはずの自分の顔を両手で覆う。
冷えた指先に触れるのは、一房の毛にも覆われぬ人の肌。僅かに生えた無精髭が掌を刺して、久須部 紀伸は唇を小さく歪めた。
「おっと」
つい先ほどまで脳内を占めていた奇妙な夢が気怠い残滓だけを残して去ろうとしていることに気づいて、慌てて枕元の眼鏡を手探りに探してかける。
輪郭を取り戻した視界に探すのは、サイドチェストに置いたスケッチブックと鉛筆。仕事道具を手にするなり、窓の外の早朝の闇にも分厚いカーテンの作り出す闇にも構わず、白い紙に鉛筆の黒を走らせる。
夢に見た景色が脳の虚空に消えぬ間に、絵筆で以て紙の上に縫いつける。
指先に触れた猫の頭部の毛の艶やかさを、猫の顎と喉仏を分ける毛並みと人の肌の奇妙なぬくもりを、手にした赤い提灯の火の熱を、草鞋の爪先に触れた曼殊沙華の花弁の冷たさを、忘れぬうちに、忘れぬうちに──
脳味噌の襞の何処かに紛れ込んでしまおうとする幻影を指先に掴み取り、鉛の粉に溶かし込む。目玉に捉え得るかたちにする。絵にしたい。誰の眼にも見えるものに、せめてもしたい。それがどれほど怪奇なものと捉えられようが、それは構わぬ。
描かねばならぬ。まなこに捉えられるかたちにせねばならぬ。
鬼に憑かれたかのごとく、鬼を信ずる狂者の如く、描く。
(……ああ)
一身に筆を動かしていた手が、僅かな迷いを覚えて止まった。
(私は)
夢に見たあの光景を狂いなく描き切れているだろうか。
連ね重ねる線を瞬きひとつ惜しんで見据えていた薄墨の瞳がゆるりと瞬く。知らずいつか止めていた呼吸が戻り、薄い胸が上下する。
夢に見た物の怪を描いた画用紙に、ナニカが触れている。
膝に置いたスケッチブックに掛かる、己のものではないナニカの手の重さに気づいて、紀伸はもう一度瞼を上下させた。上げたまなざしの先に映るものはいない。ただ、ナニカの気配がある。
ぱさり、紙の上に軽いものが落ちた気がした。それはたとえば、痩せた少女の長い黒髪のような、ナニカ。
「そう、──そう、でしたね」
己の絵を覗き込んで来るようなその気配に、紀伸は淡く微笑む。鉛筆を動かす。提灯を手にした化け猫の傍らに描くは、黒髪の少女。指で頭頂部に三角の猫耳をつくってにっこりと笑う、痩せた少女。
「ひなたさん」
己が名付けた不可視の少女の名を呟けば、少女は小さく笑った気がした。
月影の竹林の砂利路に提灯の火が這う。這って跳ねて、横たわる。
月光の蒼銀を黄金の双眸に映して猫頭が笑う。ニャア。
未だ人のかたちを有する手にした提灯を掲げ、三毛猫の頭に灰鼠羽織姿の人間の体をしたナニカが歩いて行く。
猫と人のかたちした物の怪が行くは、人の里かあるいは妖の界隈か。
痩せた男のかたちした腕が持ち上がる。『猫』の一文字記した提灯の光が照らし出すのは、竹林の向こう、赤く紅く燃え上がるが如く咲き乱れる曼殊沙華の花畑。
空に白く輝く月の光を圧して、赤い花園が広がっている。
地を埋める赤い花をふたつに裂いて延びるのは、白い玉砂利の路。路の左右には、誰とも知れぬ人間の名を記した行灯が並ぶ。
「……」
男の名、女の名。子の名、翁の名、媼の名。ひとりひとりの名が記された行灯の中の蝋燭をひとつひとつ丁寧に丹念に、化け猫は吹き消して行く。ひとつ吹き消してはニャアと笑い、ひとり消してはニャアと嗤う。
曼殊沙華の赤い色ばかりが揺蕩う月影に、ひとり踊る化け猫の足元に、月影の色よりも深い色した影が落ちた。小首を傾げる化け猫の目前で、影は音もなく凝り、盛り上がり、やがて長い黒髪の痩せた少女のかたちを作る。
ニャア、と笑う化け猫に、少女は髪に隠れがちな白い面の中で唯一見える口元をにっこりと笑みのかたちにした。にゃあ、と唇のかたちだけで言ってみせて、おもむろに病的にまで痩せた腕をもたげる。
月の光にさえ染まらぬ闇の色帯びたその指先に作るのは、猫の耳。
両のひとさしゆびで作った猫の三角耳を艶やかな黒髪に覆われた頭に乗せ、少女の亡霊は楽し気にくるりと宙に舞った。そうして、まるで昔からの定位置のように化け猫の傍らに添う。猫と人の混ざり合う首の後ろから細い両腕を回し、くすくすと笑う。
触れ得るはずのない少女の呼気が、髪が、冷たく細い腕が、己の首筋にまとわりつくような感触があまりにくすぐったくて、少女の笑う声が耳に甘くて、猫は笑う。
「……ふふ」
自分の笑う声で目が覚めた。
開けた瞼の下の眼に映るのは、見慣れたいつもの自室。
布団に肘をついて起き上がる。長身痩躯の背を丸め、化け猫の皮を被っていたはずの自分の顔を両手で覆う。
冷えた指先に触れるのは、一房の毛にも覆われぬ人の肌。僅かに生えた無精髭が掌を刺して、久須部 紀伸は唇を小さく歪めた。
「おっと」
つい先ほどまで脳内を占めていた奇妙な夢が気怠い残滓だけを残して去ろうとしていることに気づいて、慌てて枕元の眼鏡を手探りに探してかける。
輪郭を取り戻した視界に探すのは、サイドチェストに置いたスケッチブックと鉛筆。仕事道具を手にするなり、窓の外の早朝の闇にも分厚いカーテンの作り出す闇にも構わず、白い紙に鉛筆の黒を走らせる。
夢に見た景色が脳の虚空に消えぬ間に、絵筆で以て紙の上に縫いつける。
指先に触れた猫の頭部の毛の艶やかさを、猫の顎と喉仏を分ける毛並みと人の肌の奇妙なぬくもりを、手にした赤い提灯の火の熱を、草鞋の爪先に触れた曼殊沙華の花弁の冷たさを、忘れぬうちに、忘れぬうちに──
脳味噌の襞の何処かに紛れ込んでしまおうとする幻影を指先に掴み取り、鉛の粉に溶かし込む。目玉に捉え得るかたちにする。絵にしたい。誰の眼にも見えるものに、せめてもしたい。それがどれほど怪奇なものと捉えられようが、それは構わぬ。
描かねばならぬ。まなこに捉えられるかたちにせねばならぬ。
鬼に憑かれたかのごとく、鬼を信ずる狂者の如く、描く。
(……ああ)
一身に筆を動かしていた手が、僅かな迷いを覚えて止まった。
(私は)
夢に見たあの光景を狂いなく描き切れているだろうか。
連ね重ねる線を瞬きひとつ惜しんで見据えていた薄墨の瞳がゆるりと瞬く。知らずいつか止めていた呼吸が戻り、薄い胸が上下する。
夢に見た物の怪を描いた画用紙に、ナニカが触れている。
膝に置いたスケッチブックに掛かる、己のものではないナニカの手の重さに気づいて、紀伸はもう一度瞼を上下させた。上げたまなざしの先に映るものはいない。ただ、ナニカの気配がある。
ぱさり、紙の上に軽いものが落ちた気がした。それはたとえば、痩せた少女の長い黒髪のような、ナニカ。
「そう、──そう、でしたね」
己の絵を覗き込んで来るようなその気配に、紀伸は淡く微笑む。鉛筆を動かす。提灯を手にした化け猫の傍らに描くは、黒髪の少女。指で頭頂部に三角の猫耳をつくってにっこりと笑う、痩せた少女。
「ひなたさん」
己が名付けた不可視の少女の名を呟けば、少女は小さく笑った気がした。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2021年01月03日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年01月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年01月10日 11時00分
