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ンモ～っ♪ 新春☆初夢フェア２０２１！ ～茄子編～
人工芝がちくちくと素足の裏に触れる。
プールサイドに敷き詰められた滑り止めの感覚は、嫌いではなかった。息が切れるまで泳いで、温い水の中から照りつける真夏の日差しの下へと出てきた際であれば、暖かい人工芝の感覚はむしろ心地が良かった。
黒髪をきっちりと覆っていたプールキャップをゴーグルと共に外す。額に貼り付く前髪を片手にかき上げ、水上 桜は息を吐いた。
水に冷えた肌とは違い、存分に泳いだ後の体内は熱を孕んでいる。吐き出した息は太陽に熱せられた空気と同じほどに熱かった。
水の伝う頬を掌で擦る。
(……さてと)
木立に囲まれているがために蝉の声がうるさい学校のプールを眺めやる。夏の朝いちばんから始まった水泳部の練習は、太陽が真上に至る間際に終了した。本格的に暑くなる前に帰るなり屋内に避難するなりせよとの顧問の先生の言葉を受けて、プールサイドに人気はない。
(そろそろ帰るか)
それとも食堂でランチにした後、もうひとつ別に所属している家庭科同好会に顔を出してみようか。夏休みの平日の午後とは言え、きっと誰かしらが何かしら作業しているはずだ。
(んー……)
入道雲の沸き立つ夏空を眺める。それとも、キャットロードあたりを歩いてアクセサリー作成のための素材を探してみようか。ランチは通りがかりのハンバーガーショップやカフェに飛び込んでみてもいいかもしれない。この時間帯であれば、駅前に移動販売のキッチンカーも来ている頃だろう。
(タピる？)
流行が去ってしまう前に流行に手を出してみるのも、女子高生ならではの遊びな気もする。
(タピっちゃう？)
心のうちに呟いた自分の言葉が面白くて、くすり、笑う。
細めた瞳に、太陽の光をきらきらと反射するプールの水が目に入った。煌めく光に誘われるように、誰もいないプールの前に立つ。飛び込み台の上にぺたりと座り、爪先に水を引っかけて飛ばす。
真ん丸の水珠が跳ねあがる。太陽の光を受けて白銀に輝き、いくつもの王冠を水面に作っては消える。
(んー)
飽きずに何度も何度も水を跳ね上げ、水珠の落ちる水面を見つめる。あの透明で綺麗な丸を作るには、何の素材がいいだろう。
(硝子？ レジン？)
モールドにレジンで作るとして、何色を差せば綺麗な水色が出来るだろう。
考え考え水で遊んでいるうち、太陽にジリジリと照らされた頭が熱くなってきた。
(んー)
ゆらゆらと光を揺らして踊る水面を眺めたまま、頭から水に突っ込む。自分自身が水珠になった気分で水の中に潜る。くるりと体勢を整え、プールの底から水面を仰げば、光の舞う水面はまるで流氷の下に潜り込んだかのような模様を描いていた。
(それか、鰯雲？)
秋雨の前触れでもある雲を実際に見上げるには、もう少し待たなくてはならない。
こぽ、と唇の端から空気の珠が零れて水中を昇って行く。
銀色の光を帯びて輝く空気に手を伸ばす。掴んでも掴めない空気を目で追う。
(綺麗……)
胸の中の空気をぜんぶ水中に吐き出して、その空気と一緒に水面から顔を出す。勢いよく夏の空気の中に飛び出して、力の限りに水を掻いて蹴って、泳ぐ。
プールの端にタッチして、それでは足りない気がして水中にくるりとターン。誰もいないプールの真ん中をひとりじめして往復する。気まぐれに泳ぐのをやめて仰向けにぷかりと浮かんでも、今は誰にも叱られない。
キャップに納めないままの長い黒髪がゆらゆらと水に遊んでいる。
見上げた太陽が眩しくて黒い眼を細めれば、自然と口元が綻んだ。
(普通だ)
何にもおきない、どこまでも普通な女子高生の夏休み。
(普通だ！)
それだけのことが何より嬉しくて、桜は水に浮かんでくすくす笑う。神魂の影響によるフツウも、悪魔による異変も、時の特異点の発見も、何にも起きない、何にも邪魔されない普通の日。何の予定もないちょっぴりの退屈なんて、自分と夏休みの力で吹き飛ばしてみせよう。
次の瞬間にはナニカ起こるかもしれないけれど、それでも今は、今この瞬間は、普通も普通な時間を過ごせている。
寝子島のフツウによくよく巻き込まれるがゆえにフツウを嫌う普通な女の子であるところの桜は、元気いっぱい意気揚々とプールからざぶりと上がる。プールサイドの人工芝の感覚を楽しみ、いつも通りの冷たいシャワーと消毒液の臭いになんだかちょっと笑う。
(普通の、夏休みの一日)
さあ、どうやって過ごそうか。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2021年01月03日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年01月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年01月10日 11時00分
