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ンモ～っ♪ 新春☆初夢フェア２０２１！ ～茄子編～
カチリ、と鍵の開く音がした。
「……よし」
頬を伝い、顎で滴となって落ちそうだった汗を手の甲で拭い、渥美 ニナは唇に笑みを刻む。
「それじゃ、開けますよ」
古い錠前のその癖と言うべきかその為か、意外と苦労させられた『宝箱』の蓋に一度手を掛けてから、
「っと」
ニナは周囲で興味津々に覗き込んでいたこどもたちを振り返った。
『宝箱』を海岸で発見したのはこどもたちだ。好奇心に駆られてこどもたちを助けるかたちで『宝箱』の鍵を開きはしたものの、
「宝箱を一番に開く権利はあなたたちに、……あれ？」
言いかけた言葉が萎む。ぱちぱちと瞬く漆黒の瞳に映るのは、ついさっきまで傍にいた夏服のこどもたちではなく、雪のように白い兎のようなナニカたち。夏色の寝子ヶ浜海岸であったはずの景色は、いつのまにか青い草原に変わっている。
「え、」
言葉を失うニナを赤い瞳に映して桃色の鼻をひこひこさせたかと思えば、兎もどきたちは文字通り脱兎のごとく散らばって逃げた。
「ええ……」
夏の太陽に照らされ額に浮いていた汗があっという間にひやりと乾く。どうしたものかとまだ片手に触れていた宝箱の蓋を見下ろした途端、錆びた木枠がギギギと軋んだ。蓋が勝手に開こうとしている。
中から何が出てくるのか確かめたい気持ちよりも、警戒心が勝った。緩い風に青々となびく草を蹴り、『宝箱』と距離を取る。
ガタガタと持ち上がった蓋は、ガタン、と一際大きな音を立てて後ろに開いた。ニナがいちばんに見たのは、ぴょこり、と中から現れた兎に似た長い耳。箱の縁にもふもふの毛に包まれた獣の手がちょこんと乗る。ついでにピンクの鼻が付いた顎も乗って、一瞬ののちに消える。
「たすけてーたすけてー」
宝箱の中から現れて宝箱から出られず、箱の底にひっくり返り、謎の獣は開口一番助けを求めてきた。
「えええ……」
謎の宝箱を開錠したばかりに訳の分からぬ状況に放り込まれ、ニナは困惑する。それでも困っているひと(？)を見て見ぬふりをするよりはと近づき、宝箱の底でじたばたする黒兎もどきを両手で抱き上げ外に出してやれば、
「ありがとう、君は命の恩人だ！ だから魔法少女になってよ！」
もふもふの両前肢で腕にしがみついてくるなり、獣は紅い瞳をキラキラ輝かせた。
「魔法、少女？ 誰が？」
御年二十八のニナが怪訝そうに眉を寄せても、
「君が！ 魔法少女になるんだよ！」
黒兎もどきは動じない。
「ってことで、さあ！ お試しでちょっと一回変身してみよう！」
「……いやあの、ちょい待ってくださいね」
腕にへばりつく黒毛玉を片手で引っぺがし、首根っこを持ち上げる。兎の耳は翼のよう。実際に羽のようにぱたぱた動かし風をまとわせつつ、謎の獣は前肢に光の珠を魔法じみて作り出した。
「衣装も武器も思いのまま！ 身体能力向上、魔法もチョッピリ使えるよ！」
「いやだからちょっと待っ──？！」
喚くニナを無視して、毛玉はキラキラ光る珠をニナへと投げつけた。
瞬間、光が虹色に跳ねる。夏場に自転車に乗るために動き易さを重視して着ていた衣服が謎の原理でふわりと解け、同じく謎の原理で色もかたちも質感も変える。瞬きひとつのうちに紅と黒を基調とした和風ゴシックロリータ風の衣装を纏い、ネイルを施した手には鍵のかたちをした魔法の杖を持つに至って、
「わあ、和ゴスが好みなんだね！ とってもよく似合ってるよ！」
「待て、って言いましたが」
首根っこを掴まれたままはしゃいだ声を上げる獣の首をニナは両手で掴み、がくがく揺すり立てた。
「はーい、ということでー」
兎耳をぱたぱた揺らし、毛玉はニナの背後を示す。
「……まさか」
「魔法少女と言えば！」
振り返って、ニナは見た。
「魔法生物退治！」
毛玉の言葉を背景に、狼を巨大化したようなナニカが出現しているのを。背中の毛を逆立て、牙を剥いているのを。
「なっ……」
見晴らす限りの草原で巨大な魔法生物と対峙しながら、ニナは唇を引き結ぶ。
「あのオオカミの背中に扉があるから、それをその鍵で開けば『世界の扉』は開かれる。元の世界に帰れるよ！ たぶん！」
「多分って何ですか！」
「多分はたぶんだよ！」
全ての元凶と思われる黒い毛玉の首を離さないよう片手できゅっと掴み、ニナは鍵の杖を握るもう片手に力を籠める。衣装にナニカ不思議な力が籠っているのか、いつもより身軽に、力強く動ける確信があった。
「まあ、とりあえず」
半ば強引に、唇に不遜な笑みを刻んでみる。やらなきゃ前に進めないのであれば、やってやる。それだけのこと。
「困ったときはお互い様、ってやつですよね！」
「……よし」
頬を伝い、顎で滴となって落ちそうだった汗を手の甲で拭い、渥美 ニナは唇に笑みを刻む。
「それじゃ、開けますよ」
古い錠前のその癖と言うべきかその為か、意外と苦労させられた『宝箱』の蓋に一度手を掛けてから、
「っと」
ニナは周囲で興味津々に覗き込んでいたこどもたちを振り返った。
『宝箱』を海岸で発見したのはこどもたちだ。好奇心に駆られてこどもたちを助けるかたちで『宝箱』の鍵を開きはしたものの、
「宝箱を一番に開く権利はあなたたちに、……あれ？」
言いかけた言葉が萎む。ぱちぱちと瞬く漆黒の瞳に映るのは、ついさっきまで傍にいた夏服のこどもたちではなく、雪のように白い兎のようなナニカたち。夏色の寝子ヶ浜海岸であったはずの景色は、いつのまにか青い草原に変わっている。
「え、」
言葉を失うニナを赤い瞳に映して桃色の鼻をひこひこさせたかと思えば、兎もどきたちは文字通り脱兎のごとく散らばって逃げた。
「ええ……」
夏の太陽に照らされ額に浮いていた汗があっという間にひやりと乾く。どうしたものかとまだ片手に触れていた宝箱の蓋を見下ろした途端、錆びた木枠がギギギと軋んだ。蓋が勝手に開こうとしている。
中から何が出てくるのか確かめたい気持ちよりも、警戒心が勝った。緩い風に青々となびく草を蹴り、『宝箱』と距離を取る。
ガタガタと持ち上がった蓋は、ガタン、と一際大きな音を立てて後ろに開いた。ニナがいちばんに見たのは、ぴょこり、と中から現れた兎に似た長い耳。箱の縁にもふもふの毛に包まれた獣の手がちょこんと乗る。ついでにピンクの鼻が付いた顎も乗って、一瞬ののちに消える。
「たすけてーたすけてー」
宝箱の中から現れて宝箱から出られず、箱の底にひっくり返り、謎の獣は開口一番助けを求めてきた。
「えええ……」
謎の宝箱を開錠したばかりに訳の分からぬ状況に放り込まれ、ニナは困惑する。それでも困っているひと(？)を見て見ぬふりをするよりはと近づき、宝箱の底でじたばたする黒兎もどきを両手で抱き上げ外に出してやれば、
「ありがとう、君は命の恩人だ！ だから魔法少女になってよ！」
もふもふの両前肢で腕にしがみついてくるなり、獣は紅い瞳をキラキラ輝かせた。
「魔法、少女？ 誰が？」
御年二十八のニナが怪訝そうに眉を寄せても、
「君が！ 魔法少女になるんだよ！」
黒兎もどきは動じない。
「ってことで、さあ！ お試しでちょっと一回変身してみよう！」
「……いやあの、ちょい待ってくださいね」
腕にへばりつく黒毛玉を片手で引っぺがし、首根っこを持ち上げる。兎の耳は翼のよう。実際に羽のようにぱたぱた動かし風をまとわせつつ、謎の獣は前肢に光の珠を魔法じみて作り出した。
「衣装も武器も思いのまま！ 身体能力向上、魔法もチョッピリ使えるよ！」
「いやだからちょっと待っ──？！」
喚くニナを無視して、毛玉はキラキラ光る珠をニナへと投げつけた。
瞬間、光が虹色に跳ねる。夏場に自転車に乗るために動き易さを重視して着ていた衣服が謎の原理でふわりと解け、同じく謎の原理で色もかたちも質感も変える。瞬きひとつのうちに紅と黒を基調とした和風ゴシックロリータ風の衣装を纏い、ネイルを施した手には鍵のかたちをした魔法の杖を持つに至って、
「わあ、和ゴスが好みなんだね！ とってもよく似合ってるよ！」
「待て、って言いましたが」
首根っこを掴まれたままはしゃいだ声を上げる獣の首をニナは両手で掴み、がくがく揺すり立てた。
「はーい、ということでー」
兎耳をぱたぱた揺らし、毛玉はニナの背後を示す。
「……まさか」
「魔法少女と言えば！」
振り返って、ニナは見た。
「魔法生物退治！」
毛玉の言葉を背景に、狼を巨大化したようなナニカが出現しているのを。背中の毛を逆立て、牙を剥いているのを。
「なっ……」
見晴らす限りの草原で巨大な魔法生物と対峙しながら、ニナは唇を引き結ぶ。
「あのオオカミの背中に扉があるから、それをその鍵で開けば『世界の扉』は開かれる。元の世界に帰れるよ！ たぶん！」
「多分って何ですか！」
「多分はたぶんだよ！」
全ての元凶と思われる黒い毛玉の首を離さないよう片手できゅっと掴み、ニナは鍵の杖を握るもう片手に力を籠める。衣装にナニカ不思議な力が籠っているのか、いつもより身軽に、力強く動ける確信があった。
「まあ、とりあえず」
半ば強引に、唇に不遜な笑みを刻んでみる。やらなきゃ前に進めないのであれば、やってやる。それだけのこと。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2021年01月03日
- 参加申し込みの期限
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- 2021年01月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2021年01月10日 11時00分
