- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
ンモ～っ♪ 新春☆初夢フェア２０２１！ ～茄子編～
吐き出した息が思ったよりも白くて、思ったよりもたくさんで、
「……寒……」
ぽつり、零れた言葉はまたたくさんの白い息になって冬の曇天に流れて行った。
外に出た途端にかじかんだ指先で、コートの首元にぐるりと巻いたマフラーを顎先にまで引き上げる。冷たい鼻先をマフラーに埋める。
冷えた手をコートのポケットに突っ込み、踏み出す。
(寝子ヶ浜海岸は風があって寒そうだ)
寝子島街道を辿りながら、鴻上 彰尋は視線を上げる。小さく見える寝子島シーサイドアウトレットの大観覧車の向こうの空が雪の色に煙っている。この風向きでは、もうすぐこちらにも雪が降って来る。
(屋根があれば少しは温かいかな……でも、)
向かう場所を思案しながら歩を進める。
何にせよ、出来れば人気の少ないところが良い。
賑わう寝子島シーサイドタウン駅を横目に、交差点を折れて北上する。しばらく歩くうち、いつも通りの通学路を辿っていることに思い至って、思わずちょっと口元が緩んだ。
コートのポケットに入れた台本に指先が触れる。舞台役者であった祖父から譲り受けた、祖父が使い古した台本。たくさんある本の中の、これは好きな一冊。
古い紙の匂いが鼻先に触れた気がした。祖父の文字が書き込まれた台本は、暗誦できるほどに読み込んではいるけれど、それでもついお守りのように持ってきてしまう。
学校が終わって、世話をしなくてはならない弟妹たちが友達のところに遊びに行って、だから今はぽっかりと空いた時間で。たまに出来た時間をどう使おうかと考えて、今日は祖父の台本を読みたくなった。
(演劇部に入れば)
とは思うものの、父は実質居らず、母と兄は仕事で家事にまで手が回らずとなれば、必然的に次男である彰尋に家事仕事とまだ幼い弟妹の世話が回って来る。放課後に部活動をしている余裕はない。
だからこそ、不意に空いた時間は興味のある演劇のために使いたかった。
(……あの、場面)
雪が降りそうな今だからこそ、演じてみたい場面があった。
ふわりひらり、花のように雪の降る中を歩いて行きながらの、ひとりの男の科白。
──今日は僕が夕飯を作るよ。温かいものを食べよう
傍らには、愛する人。その役柄を演じてくれる演劇仲間はいないけれど、ひとりきりで演じるのはいつものこと。
──テーブルに花を飾ろう。きみの好きな花がいい
ひとしきり台本の内容を頭でなぞる。
となれば、向かう場所は屋根のないところがいい。多少の寒さは台本を読んでいれば忘れられる。
(公園かな)
たまに一人で台本を読む公園が近くにある。この天気なら人もそう多くないだろうと足を向けようとして、
「彰尋くん！」
ぽん、と背中に優しい掌が触れた。
「こんにちは」
軽い足取りで隣に並び、栗色のツインテールを揺らして笑う。大らかな空色の瞳にまっすぐ映る自分の顔がぱちりと瞬きをして、つられて笑う。
「こんにちは、あおいさん」
「おでかけ？」
「うん、そんなところ、……かな」
傍らに彼女が立っただけで、寒さに冷たくなっていた頬にふわりと熱が昇る。彰尋にとって、七夜 あおいはそんな存在だ。
「あおいさんは？」
「学校帰りにコンビニに寄って来ちゃった」
制服にコート姿のあおいは肩から提げた鞄をごそごそと探り、中から個包のお菓子をふたつみっつ掌に取り出した。
「買い食い？」
「うん」
彰尋の言葉に悪戯っぽく笑って、お菓子を──チョコレートを差し出す。
「これで共犯」
思わず出した彰尋の手にチョコを握らせ、あおいはくすくすと楽しそうにまた笑った。ふと、その空色の瞳が空を仰ぐ。掌がナニカを受け止めるように伸ばされる。
つられて空を見上げた彰尋の瞳に映ったのは、空一面を埋めて、花びらのように舞い落ちてくる白雪。
「雪だ」
「雪だね」
ふたり一緒に歓声をあげて、顔を見合わせて笑いあう。
掌の上で溶けて水になってゆく雪を眺めるあおいの横顔を盗み見ながら、彰尋は小さく深呼吸をする。
彼女と、一緒にやってみたかった。
「あおいさん」
「ん？」
「ちょっとだけ、付き合って欲しいんだ」
「いいよ」
僅かの迷いもなく頷いてくれるその仕草が嬉しくて、マフラーに半分隠した頬がまた赤くなる。
「練習というか、遊びというか、……」
ポケットから祖父の台本を取り出し、雪の中で演じてみたいと思った場面を開いてあおいに見せる。
「歩きながらで、相槌を打ってくれるだけで構わないから」
「うん、……」
彰尋の示す箇所を真剣に眼を通し、あおいはこくりと大きく頷いた。
「楽しそうだね──それじゃ、」
ぱちん！ あおいが両手を打ち合わせれば、──ふたりきりの寸劇の、はじまりはじまり。
「……寒……」
ぽつり、零れた言葉はまたたくさんの白い息になって冬の曇天に流れて行った。
外に出た途端にかじかんだ指先で、コートの首元にぐるりと巻いたマフラーを顎先にまで引き上げる。冷たい鼻先をマフラーに埋める。
冷えた手をコートのポケットに突っ込み、踏み出す。
(寝子ヶ浜海岸は風があって寒そうだ)
寝子島街道を辿りながら、鴻上 彰尋は視線を上げる。小さく見える寝子島シーサイドアウトレットの大観覧車の向こうの空が雪の色に煙っている。この風向きでは、もうすぐこちらにも雪が降って来る。
(屋根があれば少しは温かいかな……でも、)
向かう場所を思案しながら歩を進める。
何にせよ、出来れば人気の少ないところが良い。
賑わう寝子島シーサイドタウン駅を横目に、交差点を折れて北上する。しばらく歩くうち、いつも通りの通学路を辿っていることに思い至って、思わずちょっと口元が緩んだ。
コートのポケットに入れた台本に指先が触れる。舞台役者であった祖父から譲り受けた、祖父が使い古した台本。たくさんある本の中の、これは好きな一冊。
古い紙の匂いが鼻先に触れた気がした。祖父の文字が書き込まれた台本は、暗誦できるほどに読み込んではいるけれど、それでもついお守りのように持ってきてしまう。
学校が終わって、世話をしなくてはならない弟妹たちが友達のところに遊びに行って、だから今はぽっかりと空いた時間で。たまに出来た時間をどう使おうかと考えて、今日は祖父の台本を読みたくなった。
(演劇部に入れば)
とは思うものの、父は実質居らず、母と兄は仕事で家事にまで手が回らずとなれば、必然的に次男である彰尋に家事仕事とまだ幼い弟妹の世話が回って来る。放課後に部活動をしている余裕はない。
だからこそ、不意に空いた時間は興味のある演劇のために使いたかった。
(……あの、場面)
雪が降りそうな今だからこそ、演じてみたい場面があった。
ふわりひらり、花のように雪の降る中を歩いて行きながらの、ひとりの男の科白。
──今日は僕が夕飯を作るよ。温かいものを食べよう
傍らには、愛する人。その役柄を演じてくれる演劇仲間はいないけれど、ひとりきりで演じるのはいつものこと。
──テーブルに花を飾ろう。きみの好きな花がいい
ひとしきり台本の内容を頭でなぞる。
となれば、向かう場所は屋根のないところがいい。多少の寒さは台本を読んでいれば忘れられる。
(公園かな)
たまに一人で台本を読む公園が近くにある。この天気なら人もそう多くないだろうと足を向けようとして、
「彰尋くん！」
ぽん、と背中に優しい掌が触れた。
「こんにちは」
軽い足取りで隣に並び、栗色のツインテールを揺らして笑う。大らかな空色の瞳にまっすぐ映る自分の顔がぱちりと瞬きをして、つられて笑う。
「こんにちは、あおいさん」
「おでかけ？」
「うん、そんなところ、……かな」
傍らに彼女が立っただけで、寒さに冷たくなっていた頬にふわりと熱が昇る。彰尋にとって、七夜 あおいはそんな存在だ。
「あおいさんは？」
「学校帰りにコンビニに寄って来ちゃった」
制服にコート姿のあおいは肩から提げた鞄をごそごそと探り、中から個包のお菓子をふたつみっつ掌に取り出した。
「買い食い？」
「うん」
彰尋の言葉に悪戯っぽく笑って、お菓子を──チョコレートを差し出す。
「これで共犯」
思わず出した彰尋の手にチョコを握らせ、あおいはくすくすと楽しそうにまた笑った。ふと、その空色の瞳が空を仰ぐ。掌がナニカを受け止めるように伸ばされる。
つられて空を見上げた彰尋の瞳に映ったのは、空一面を埋めて、花びらのように舞い落ちてくる白雪。
「雪だ」
「雪だね」
ふたり一緒に歓声をあげて、顔を見合わせて笑いあう。
掌の上で溶けて水になってゆく雪を眺めるあおいの横顔を盗み見ながら、彰尋は小さく深呼吸をする。
彼女と、一緒にやってみたかった。
「あおいさん」
「ん？」
「ちょっとだけ、付き合って欲しいんだ」
「いいよ」
僅かの迷いもなく頷いてくれるその仕草が嬉しくて、マフラーに半分隠した頬がまた赤くなる。
「練習というか、遊びというか、……」
ポケットから祖父の台本を取り出し、雪の中で演じてみたいと思った場面を開いてあおいに見せる。
「歩きながらで、相槌を打ってくれるだけで構わないから」
「うん、……」
彰尋の示す箇所を真剣に眼を通し、あおいはこくりと大きく頷いた。
「楽しそうだね──それじゃ、」
ぱちん！ あおいが両手を打ち合わせれば、──ふたりきりの寸劇の、はじまりはじまり。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2021年01月03日
- 参加申し込みの期限
-
- 2021年01月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2021年01月10日 11時00分
