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ンモ～っ♪ 新春☆初夢フェア２０２１！ ～茄子編～
腕の中に、人形がいた。
艶やかなシルクのドレスを飾るは華やかなリボンにフリル、甘やかな金色の髪を彩るフリルのヘッドドレス。球体関節の小さな小さな指先が、まるでほんものの幼子のようにその肢体を支える腕にちょこんと触れている。
思わず首を傾げる。肩先を滑り落ちてきた自身の栗色の髪は、部屋に溢れる金色の光を浴びて蜜の色をして見えた。
海と空の色した瞳を瞬かせ、小山内 海は自身の腕にいかにも大事に抱きかかえた金髪の人形を見遣る。指先に触れる人形の優しい重さと滑らかなドレスの感触、それから、覗き込んだまろい頬と金色の長い睫毛に縁取られた碧い瞳。
自分と同じ色したその瞳が、ぱちり、と瞬いた。
つくりものめいた動きではない、小さなこどもがするような細やかな動作に思わず瞠る海の瞳に映るのは、
「良い夜ね」
おしゃまに微笑む人形の白い頬。
瞬きを繰り返すばかりの海に、人形の少女は小さな掌を伸ばす。
陶器じみて冷たく小さな指先に頬を触れられ、海は小さく身を震わせた。
「今晩は、海」
名を呼ばれ、思わず取り落としそうになった少女人形をきゅっと抱きしめる。
何故ここにいるのか、何故見知らぬ少女人形と共にいるのか、それはちっとも分からなかったけれど、今腕の中にいる人形の少女がこの現象の鍵であるのは理解していた。
(こんばんは)
だから、海は明るく微笑んでみせる。
いつも持っているはずのクロッキー帳も鉛筆もなくて、幼い頃の病気の後遺症で喋ることの出来ない海は己の言葉を伝える術を持たないけれど、
「大丈夫よ、分かるから」
少女人形はくすりと小さく笑った。
(……ここは、どこ？)
「そうね、……夢の中、だと思って頂戴」
でも、と少女は続ける。
「外に出られなければ、永遠に目覚めることはできないわ」
頭には羊か山羊のような固い角が生えていた。その脇には艶やかな毛に包まれた三角耳も生えている。
(……！)
「大丈夫」
ぎくりと身を強張らせる海を、少女は静かな声で慰める。これは夢だからと。覚めてしまえばなんてことはないからと。
「だから、進みましょう」
幼い声に励まされ、瞳をもたげる。
目の前に広がるのは、夜露を集める蜘蛛の巣があちこちに掛かった廊下。幾何学模様の刻まれた石柱がどこまでも続き、その柱を飾る重厚でありながら半ば綻び緞帳がやはりどこまでも続いている。
蔦の這う石廊を歩く。
コツ、と響く足元を飾るのは黒いエナメルの靴。
少女人形と同じにフリルとリボンで飾られたドレスのスカートの裾を揺らし、海は足を進める。
冷たい石廊を照らして、アンティークな吊り下げ燭台が金色の光を揺らす。光に惑って、どこからか現れた影のような蝙蝠たちが音もなく飛び回る。
「大丈夫、……大丈夫よ」
抱きしめた腕の強張りか、背中に触れる胸の轟きか、あるいはその両方かを人形の身体に感じって、少女人形は穏やかに静かに海を慰める。だから進みましょうと言葉を続ける。
闇に沈み込むような階段の前に立っても、少女の言葉は変わらなかった。貴女は、ここを進んで外に出なければいけない。夢から覚めなければならない。
(……っ……)
蝙蝠たちが驚かしてきても、何処とも知れない不安があっても、それでも今までは燭台の灯りがあった。進む先を見通すことができた。けれどここより先は、僅かの光も見いだせない全き暗闇。先にナニカが潜んでいようとも、そのナニカが腐りかけた指で触れようとしてきても、見ることはできない。
「進みなさい」
いっそ冷たいまでの声で少女人形が告げる。
靴先が怖じる。進もうとした足をつい何度も踏みかえてその場にとどまろうとしてしまう。
腕の中にいてくれる少女人形にすがりつく動きで抱きしめる。
ねえ、と少女は囁いた。
「海は、進まなくちゃならないわ」
小さな指が持ち上がる。示すのは闇の果て。その先に待っていてくれるはずの光。
「だって、……逢いたいひとが、いるのでしょう」
行きましょう、と断固とした声に告げられ、海は踏み出した爪先さえも闇の色に染め上げてしまう深淵の中へと一歩、コツリ。
進めば進むほど怖くなってうずくまってしまいたくなる。それでも進むのは、歩き続けるのは──
(……)
逢いたいひとの名前を魔法の呪文のように繰り返す。そうすることで身体を押し包む闇を吹き飛ばそうとする。
(…………)
何度も何度も、彼の、彼女の名前を呼ぶ。その名前を踏み出す一歩の力に変えたその果て、──光が、見えた。
「さあ、」
腕の中にいたはずの少女人形の姿はいつか消えている。けれど声は聞こえた。笑って、光にも似た声で囁いてくれた。
「目覚めなさい」
艶やかなシルクのドレスを飾るは華やかなリボンにフリル、甘やかな金色の髪を彩るフリルのヘッドドレス。球体関節の小さな小さな指先が、まるでほんものの幼子のようにその肢体を支える腕にちょこんと触れている。
思わず首を傾げる。肩先を滑り落ちてきた自身の栗色の髪は、部屋に溢れる金色の光を浴びて蜜の色をして見えた。
海と空の色した瞳を瞬かせ、小山内 海は自身の腕にいかにも大事に抱きかかえた金髪の人形を見遣る。指先に触れる人形の優しい重さと滑らかなドレスの感触、それから、覗き込んだまろい頬と金色の長い睫毛に縁取られた碧い瞳。
自分と同じ色したその瞳が、ぱちり、と瞬いた。
つくりものめいた動きではない、小さなこどもがするような細やかな動作に思わず瞠る海の瞳に映るのは、
「良い夜ね」
おしゃまに微笑む人形の白い頬。
瞬きを繰り返すばかりの海に、人形の少女は小さな掌を伸ばす。
陶器じみて冷たく小さな指先に頬を触れられ、海は小さく身を震わせた。
「今晩は、海」
名を呼ばれ、思わず取り落としそうになった少女人形をきゅっと抱きしめる。
何故ここにいるのか、何故見知らぬ少女人形と共にいるのか、それはちっとも分からなかったけれど、今腕の中にいる人形の少女がこの現象の鍵であるのは理解していた。
(こんばんは)
だから、海は明るく微笑んでみせる。
いつも持っているはずのクロッキー帳も鉛筆もなくて、幼い頃の病気の後遺症で喋ることの出来ない海は己の言葉を伝える術を持たないけれど、
「大丈夫よ、分かるから」
少女人形はくすりと小さく笑った。
(……ここは、どこ？)
「そうね、……夢の中、だと思って頂戴」
でも、と少女は続ける。
「外に出られなければ、永遠に目覚めることはできないわ」
頭には羊か山羊のような固い角が生えていた。その脇には艶やかな毛に包まれた三角耳も生えている。
(……！)
「大丈夫」
ぎくりと身を強張らせる海を、少女は静かな声で慰める。これは夢だからと。覚めてしまえばなんてことはないからと。
「だから、進みましょう」
幼い声に励まされ、瞳をもたげる。
目の前に広がるのは、夜露を集める蜘蛛の巣があちこちに掛かった廊下。幾何学模様の刻まれた石柱がどこまでも続き、その柱を飾る重厚でありながら半ば綻び緞帳がやはりどこまでも続いている。
蔦の這う石廊を歩く。
コツ、と響く足元を飾るのは黒いエナメルの靴。
少女人形と同じにフリルとリボンで飾られたドレスのスカートの裾を揺らし、海は足を進める。
冷たい石廊を照らして、アンティークな吊り下げ燭台が金色の光を揺らす。光に惑って、どこからか現れた影のような蝙蝠たちが音もなく飛び回る。
「大丈夫、……大丈夫よ」
抱きしめた腕の強張りか、背中に触れる胸の轟きか、あるいはその両方かを人形の身体に感じって、少女人形は穏やかに静かに海を慰める。だから進みましょうと言葉を続ける。
闇に沈み込むような階段の前に立っても、少女の言葉は変わらなかった。貴女は、ここを進んで外に出なければいけない。夢から覚めなければならない。
(……っ……)
蝙蝠たちが驚かしてきても、何処とも知れない不安があっても、それでも今までは燭台の灯りがあった。進む先を見通すことができた。けれどここより先は、僅かの光も見いだせない全き暗闇。先にナニカが潜んでいようとも、そのナニカが腐りかけた指で触れようとしてきても、見ることはできない。
「進みなさい」
いっそ冷たいまでの声で少女人形が告げる。
靴先が怖じる。進もうとした足をつい何度も踏みかえてその場にとどまろうとしてしまう。
腕の中にいてくれる少女人形にすがりつく動きで抱きしめる。
ねえ、と少女は囁いた。
「海は、進まなくちゃならないわ」
小さな指が持ち上がる。示すのは闇の果て。その先に待っていてくれるはずの光。
「だって、……逢いたいひとが、いるのでしょう」
行きましょう、と断固とした声に告げられ、海は踏み出した爪先さえも闇の色に染め上げてしまう深淵の中へと一歩、コツリ。
進めば進むほど怖くなってうずくまってしまいたくなる。それでも進むのは、歩き続けるのは──
(……)
逢いたいひとの名前を魔法の呪文のように繰り返す。そうすることで身体を押し包む闇を吹き飛ばそうとする。
(…………)
何度も何度も、彼の、彼女の名前を呼ぶ。その名前を踏み出す一歩の力に変えたその果て、──光が、見えた。
「さあ、」
腕の中にいたはずの少女人形の姿はいつか消えている。けれど声は聞こえた。笑って、光にも似た声で囁いてくれた。
「目覚めなさい」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2021年01月03日
- 参加申し込みの期限
-
- 2021年01月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2021年01月10日 11時00分
