ガラスの中の小さな世界｜リアクション

ガラスの中の小さな世界

●それぞれの世界

　瓶に入れる前に、小山内海は花をハサミでカットしてボリュームと配置を考える。
　花は短くカットしすぎ。細かい花は細くカットしすぎるとオイルを注いだ時に浮いてしまい、逆に長すぎるとオイルから頭が出てしまう。
　瓶の高さに合わせて斜めにぴったり収まるようにカットするのがコツだ。
　授業とかでの経験を活かしつつ、集中して黙々と作っていく。
（こういう細かい作業結構好きだし。作るの、楽しい）

　光村千恵は、講師に手伝ってもらいながら花の長さを調節。
　黄色の花とカスミソウ、ピンクの花の用意ができたら、瓶の底にカラーサンドを詰める。
「初めてということですので、層の作り方は真っ直ぐにしてみましょう」
　講師の指示に従い、千恵は白と青のカラーサンドを交互にそっと瓶に入れる。
「上手にできましたね。次は、小物を入れていきましょう」
　カラーサンド入れが終わると、次は貝殻とビー玉をピンセットを使ってその上に。
（コトラが先に入っちゃった）
　小物を入れると、次はいよいよ花入れ。
　透明なオイルをビンに少量入れてから、黄色い花とカスミソウ、ピンクの花を押し込む。
「お花が潰れない？」
「オイルを注ぐと花びらがゆっくりと開いてくるので大丈夫ですよ」
　講師の言う通り、オイルを注ぐと花びらがゆっくり開いてきた。
「不思議……」
　その様子を、千恵はじっと見つめる。

　ハーバリウムを作っている妹を見て、光村日向は頑張っているなと微笑む。
「僕も頑張ろう」
　瓶の中に入れる花をハサミで切って長さを調節したり、入れる順序や配置を考えると頭が痛くなってきた。
　花を入れたり、オイルを注いだりという作業なので大丈夫と思っていたが、いざ作るとなると苦労する。
「どうしよう……」
　千恵の様子を見ていて作り方は理解できたが、上手くできるのだろうかと不安に。
「どの花から入れようか悩んでいるのかなぁ？」
　エノコログサを揺らしながら、万条幸次が日向に話しかけた。
「それもあるけど、僕に作れるのかなあって……」
「俺も作ったことがないから、ちょっと心配だねぇ」
　不安なのは自分だけじゃないとわかった日向は、やってみるかとハーバリウム作りに取りかかった。

　花を切り揃え終えた小山内海は、オイルの着色を。
　上下の色の濃さを分けることは決まっているが、やり方がわからないので講師に聞く。
「2層に分けたい時は、分けたい水位のところまでオイルを注いで、その部分を着色していきます」
　青色の染料と竹串を差し出し、実際にやってみましょうと講師は丁寧に教えながら海に染色をさせた。
　竹串に青い染料を少し付けオイルに溶かしていく。すぐに青く染まったので、海は早いと思った。
「思い通りの色ですか？」
『ちょっと薄い』
　色の濃さを見ながら、好みの濃さになるまで調節するといいですよと講師はアドバイスする。
『やってみる』
　思い描く濃さになるまで、海は調整しながらオイルを青くする。
「それ、海をイメージしたもの？」
　少し離れた席で、水草の長さを調節している水上桜が話しかけた。
『うん。空と海をイメージしたもの』
「私も海をイメージしたものよ。初めて作るから、ちょっと緊張するわ」
　同じものを作る仲間ができたようで、桜は嬉しくなった。

　アジサイの花びらを瓶に入れられるよう用意できたので、桜もオイル作りを。
　遠浅の海の色を演出するので、濃い青にはできない。どうしようかと悩む。
　食用色素を使いパライバトルマリンかネオンブルーに近い色になるよう、念入りに調整してオイルを染める。
「難しいわね……」
　悪戦苦闘しつつ、桜は透明感を少し残したネオンブルーの色のオイルをどうにか完成させた。
「パライバトルマリンもいいけど、やっぱりネオンブルーがいいわ」
　我ながら良くできた、とオイルの色に満足した。

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