ガラスの中の小さな世界｜リアクション

ガラスの中の小さな世界

●中身は何にしよう

「どうも。えっと……そこにいる千恵の兄の……光村日向と言います。ここ、お店ですか？」
「お店ではなくハーバリウム作りの講座ですね。妹さんと一緒に作ってみませんか？」
「妹が真剣で……話しかけられそうにないし……見ててもいい、ですか……？」
　見学も大丈夫ですよと言われたので、そっと千恵の様子を見守ることにした。

　妹に見つからないよう、日向はそっとワークショップへ。
　後ろのほうで目立たないように……と光村千恵の様子を窺っていると、万条幸次に声をかけられた。
「光村君もハーバリウムを作りに来たのかなぁ？」
「い、いや……その……」
　妹の様子を見に来たんだと、日向は周囲に聞こえないよう小声で答えた。
　見つかったら、邪魔をしてしまいそうだし……という思いもある。
「せっかくだから、一緒に作ろうよぉ。先生がいろいろと教えてくれるからぁ」
　ここまで来たのに千恵の様子を見るだけはちょっと……と思った日向の様子を察した講師は、いくつか瓶を日向のところに来た。
「お好きな瓶を選んで作ってみてください。わからないことがあれば、遠慮なく聞いてくださいね」
　講師が瓶を持ってくるとは思わなかった。こうなっては、見学だけというわけにはいかない。
「俺も作ったことがないんだよねぇ」
　幸次がそう言うので、それじゃ……と日向は千恵の様子を窺いながらハーバリウムを作ることにした。

　瓶は千恵お気に入りのジャム瓶に似たようなものに決めたが、中に入れる花はどうしよう。
　服は大人びた色を好むけど、千恵は可愛いのが好きだということを日向は知っている。
「あの……可愛い感じのパステルカラーでまとめたいんですけど……」
　困った時の講師頼り、ということで、近くを歩いていた講師を呼び止めアドバイスをしてもらうことに。
　妹をイメージしたものを作りたい、ということを伝えると小さめのスターフラワーやハート型のハートリーフ、カスミソウを勧められた。
「オイルは淡いピンク色というのはどうでしょうか」
　講師が実際に作ったピンク色のオイルのハーバリウムを見せてもらい、これなら可愛くできそうだ……とアドバイスどおりの花を使うことにした。

　幸次は、中に入れる花を何にしようか考える。
「いっぱい並んでるけど、名前とか花言葉はあんまりわからないなぁ」
　その中に、見慣れた花、というか草を見つけた。
「あ、これ！　ねこじゃらし……。たしか正式名はエノコログサだったはず。あとは、ひだまりみたいな黄色い花を入れてみようかなぁ」
　花は決まったが、オイルの色を先に決めればよかったかな……とちょっと後悔。
　どれを使えばいいのか悩むので、講師に聞いてみる。
「雰囲気のイメージは温かい感じなんだけど、何色のオイルがいいかなぁ？」
　使う花を見た講師が勧めたのは、基本の透明なオイル。
　花の色を先に決めたのだから、オイルの色で違って見えてしまうのは勿体ないという理由からだ。
「って……なるほど。それは一理あるねぇ。アドバイス、ありがとう」

　水上桜は、花を決める前にオイル選びを。
　無色透明で、少し青を入れて遠浅の海の色を演出することは決めている。
　具体的な色のイメージは、まるでそれ自体が光源のようなイルミネーションブルーの鉱物の宝石、パライバトルマリンの色。
　さらに具体的に言えば、青味の強いネオンブルー。
　透明感を残したいので、あまり濃くならないように着色することに。
　中に入れるドライフラワーや水草は、決めかねるのでイメージに合うものを講師に選んでもらうことにした。
　アジサイの花びらで海と渦潮をイメージできますよ、というアドバイスされたので、それを使うことに。
　熱帯魚のデザインシールを入れ、瓶の底には白い砂、貝殻、沈没船の錨や宝箱などを詰め、海の中らしく作ろうと決めた。

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