ガラスの中の小さな世界｜リアクション

ガラスの中の小さな世界

●瓶を選ぼう
　
「先生、これ使える？」
　光村千恵は、事前にネットで調べてから持って来たお気に入りの苺ジャムの空瓶を差し出す。
　蓋が閉まるボトルタイプの入れ物なので、ハーバリウム作りに使う分には申し分ない。
「この瓶にまたジャムを入れられるように煮沸……消毒とかいうのをしたから大丈夫だと思うんだけど……」
「殺菌されているのでしたら大丈夫ですよ。お気に入りの瓶で、好きなものを作ってくださいね」
　講師から大丈夫と言われたので、千恵は「やった！」と大喜び。

　入れ物は何にしようかねぇ……といろいろ見ていた万条幸次は、猫型の瓶があったのを見つけたのでそれに決めた。
「やっぱり猫グッズには弱いねぇ、俺」
　飼い猫の花遊みたいな顔の形だと、手に取って瓶をじっくり見る。

　水上桜は、色々なボトルがある中で球状のものを選んだ。
　電球型に丸スキットル型、フラスコ型があったので迷ったが球の形が整っている丸スキットル型を使うことにした。

（香水の瓶みたい。これで綺麗なものを作ろう）
　小山内海は何にしようか迷ったが、雫のように丸みを帯びたお洒落なデザインの瓶を選んだ。

　入れ物が決まったら、次は中に入れる花選び。
『オイルに色、付けることできる？』
　筆談用スケッチブックを見せ、海は講師に質問した。
「ジェルキャンドル用の染料や食用色素を使えば、色をつけることもできますよ」
　青、赤、緑といった様々な色があるので、好きな色に染め上げられる。
　オイルに色を付けることもできることがわかったので、下は濃いめの青、間に透明なオイルをはさんで、上を淡い青のオイルにしてみようと決めた。
　テーマは『水平線』。下層のオイルは海で、上層のオイルは空だ。
（オイルの下の層には貝殻や水草を、上の層には花びらとかドライフラワーとか入れてみようかな。雲っぽいのもあったら入れたいな）
　これちょうどいい、と雲として使うのは白いドライフラワーの花びら。

「先生！　カラーサンドありますか？」
　瞳を輝かせながら千恵が訊ねた。
「ありますよ。どのように使うのですか？」
「あのねあのね、白と青のサンドを層にして海辺をつくりたいの！　大きな太陽みたいな黄色の花をメインに」
　海辺を走っている日向お兄ちゃんみたいなの作りたい、と具体的なイメージも伝えた。
「それとカスミソウを少しと、ピンク花をポイントにしたいの」
　兄と妹をイメージしたハーバリウムに仕上げたいことを理解した講師は、カラーサンドの使い方を教えてあげますねと約束した。
「私、がんばる！」
　オイルの色は透明にし、カラーサンドの上にいろんな貝殻とビー玉を載せ少し爽やかさプラス。
「何だか縞々の貝殻コトラみたい。キラキラしてるのにしたいな」
　小物の貝殻を手にし、兄と自分、愛猫が一緒にいる気分になるハーバリウムを作ろうと千恵はイメージを膨らませる。

　光村日向は妹の千恵を探している途中、愛猫のコトラと遭遇した。
「千恵をしらない？」
　そう聞くと、こっち、と言っているかのようにコトラは鳴き、シーサイドタウン駅のほうへ歩き出した。
　コトラの後に着いて歩いていると、やや奥まった路地の向こうにあるレンタルスペースに着いた。
　レンタルスペースの窓越しに中の様子を見ると、そこでは何やら講座のようなことが行われていた。
（知り合いいっぱいだ……変なお店じゃなくて……よかった）
　猫の飼い主仲間の万条幸次と知恵がいたので、日向は一安心。
　妹の居場所がわかったので、そっと帰ろうとした時にレンタルスペースの窓が開いた。
「何か御用ですか？」
　窓を開けた講師に、声をかけられたので日向はビクッとした。
　どう答えたらいいのかな……と考え込む。

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