今日も愛すべき『フツウ』の日。｜リアクション

今日も愛すべき『フツウ』の日。

　午前七時。
　再び、星ヶ丘寮一室。
　目覚まし時計が鳴る。騒音。
　八十八旗信彦は迷わずベルを止め、再び夢の中へ。
　ドタドタとした足音が廊下から聞こえて来ても、八十八旗はすやすや眠っている。
「チャラ彦くん、起きるです」
　間違った敬語を使い、霧桐が主人の布団を引っ剥がす。
　ところが八十八旗は目をつむったまま、その布団を握り締め、離そうとしなかった。
「舞衣ちゃん、おはよう。寒いから早く布団を掛けてくれないか？　それとも、い」
「起きるっスっ！」
　霧桐は急いで言葉を遮り、強引に布団を剥ぎ取った。
「っしょに温まらないかい？」
「なんで無理やり最後まで言うんすか!!」
　なんでだろうねー。爽やかな笑みを浮かべ、八十八旗はするりと体を起こした。
「着替えたいんだけど、舞衣ちゃんは外で待っててくれるかな？」
「言われなくてもそうします！」
　鼻息荒く、霧桐は八十八旗の部屋を去る。当然、扉はがしゃんと閉めた。
「さて、もう一眠りだけしようかな」
　八十八旗は悠々とベッドに身を沈めるが、『ガチャっ』閉まったとき以上の勢いで扉は開かれた。
「起きるっス!!」
　毎度毎度のことなのだろう。
　霧桐は「またっスか！」と半泣きで叫ぶのだった。

　豆腐の仕込みを終えて、娘を見送った西野町圭吾は車に商品を積み込んだ。
　西野町は車に乗り込むと慣れた手つきでキーを差し込み、ハンドルを握った。
（豆腐を崩さないようにしないとな……）
　苦笑する。
（雨が降っているとはいえ、朝に車を走らせるのはとても気分がいいからね）
　スピードを出し過ぎないように気をつけながら、西野町は配達に出かけた。
　気をつけてはいたのだが、みるみる間に車のメーターが上がっていく。
　温厚な見た目からは想像しがたいが、西野町は元走り屋。
　今ではいい父親をしているのだが、ハンドルを握ると気分が高揚してしまうのだろう。
「お」
　西野町は、雨の中を走っている伊藤武正を見かけた。
　頑張っている人がいるものだと感心しながら、（水をかけたら申し訳ないな）と自戒する。
　少し減速して、西野町は配達兼ドライブを堪能するのだった。
　

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