【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　高梨煉は晴れやかな顔で正門を出た。隣には妹の高梨彩葉が寄り添う。やや下を向いている為、両目は前髪で隠れていた。
　煉はオレンジ色の空を眺める。
「色々とあった三年間だったな。今は楽しいことばかりが頭に浮かんできて、なんか不思議な気分だ」
　彩葉は俯いたまま、静かに歩く。
「旅立ちの時でもある。どんな日々が待っているのだろう。ドキドキとワクワクを同時に感じて、叫び出したい気分になる」
　彩葉が遅れ始める。少し早めて、また速度が落ちる。手が伸びて前をいく煉の制服の裾を掴んだ。
　引き留められた状態となった。
「急にどうしたんだ？」
　振り返って見ると彩葉の頭が小刻みに震えていた。只事ではない様子に煉は顔を覗き込む。
「……彩葉」
　瞬間、頭を上げた。前髪に隠れていた青い瞳は涙で濡れていた。
「行っちゃやだぁ！　料理の勉強なんて日本でもできるじゃん！　遠い海外に行く必要なんてないよ！　だから行かないでよぉ！！」
「……笑顔で留学を応援してくれていたから寂しくないのかと思っていた。そうじゃなかったんだな。ごめんな、俺の為に無理をさせて」
　煉は彩葉の頭を撫でた。涙は止まるどころか、決壊を起こした。大粒の涙が流れ落ちて歩道の一部を濡らす。
「俺も本音を言うと、彩葉や父さんや母さん、仲の良い友達達と離れるのは寂しいよ。でも、それ以上に叶えたい夢が俺にはあるんだ。すぐには無理かもしれないけど、わかって欲しい」
「兄貴でも、寂しかったりするの？」
「もちろんだよ。黙っていたけど、不安だってある。頼れる友達もいないし、言葉の壁だってあると思う」
「それでも夢を叶えたいんだよね」
　彩葉の涙が止まった。
「兄貴の覚悟も知らないで、ごめん。私、困らせちゃったよね」
「少しは驚いたけど、嬉しかったよ。兄貴思いの妹がいてくれるだけで向こうに行っても頑張れる気がする」
「今の涙と言葉は忘れて。最後はやっぱり笑顔で送り出したいから」
　スカートのポケットからハンカチを取り出した。目や頬の涙を拭って笑顔を浮かべる。
「兄貴、卒業おめでとう」
「ありがとう、彩葉。俺、向こうに行っても頑張るよ。正月には絶対に帰ってくるし、お土産も忘れないから」
「うん、楽しみにしてる」
　彩葉は煉と腕を組んだ。二人は仲良く夕陽の中を帰っていった。

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