【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――｜リアクション

【卒業式】青い空に想いを解き放ち、私達は今――

　卒業パレードの間中、宇佐見望月は泣いていた。
「ううう、俺様のハンマーちゃん、お別れだ！」
　部室棟に向かって叫ぶと、大いに泣いた。卒業証書を収めた筒を握り締めて号泣した。在校生が制服の胸ポケットに造花を取り付ける時でさえ、泣き止むことはなかった。
　望月はぐしょぐしょに濡れた顔で辺りをうろつく。
　一瞬、笑顔となり、両腕を広げて駆け出した。
　志波武道と高梨煉の間に割って入って強引に肩を抱いた。
「うわぁああああん！！　武道ちゃん、煉ちゃーん！！　聞いてくれよぉ！！」
「どーったの？」
「どうした、望月？」
　いきなり背後から抱き着かれた二人は驚きながらも話の先を促した。
「どこを受験しても落っこちて、もう大学は無理だと思っていた俺様が、ウウ、やっと受かったんだよ！！　マタ大二次に！！」
「ダブルのおめでとうだね☆」
「マタ大は懐が深いな。まずはおめでとう。それで学科は？」
「よく聞いてくれた！　総合看護学科だ！　これでようやく介護福祉士の道に進めるって感じだな！」
　望月は白い八重歯を見せて笑った。直後に申し訳なさそうに頭を下げた。
「えっと、あれだ。最後の数ヶ月、付き合いが悪くてごめんな。最後の思い出づくりを俺様もしたかったんだが……」
「もっちーは元気じゃないとね」
　武道が回された腕をポンポンと叩いた。
「補修に補修が続いて補修になって、学校という監獄で囚人になっていたんだよぉおおおおお！！」
「保釈されて良かったな」
　煉は望月の頭に手を置いて力任せに撫でた。
「ぐしゃぐしゃになる！」
　言いながら飛び退り、必死に髪を撫で付けた。
「あまり変わらないと思うが」
　煉の言葉に、そうだねー、と武道が同調した。
「決まったな」
　本人は満足しているようなので二人は程々の笑顔で対抗した。
「そこで、だ。残念な数ヶ月を取り戻す意味で、今から思い出になることをしねぇ？」
「校舎の窓ガラスを割って回るのか」
「れんちゃん、本当にやりそうで怖い！」
　わざとらしく身を縮める武道に、ないない、と笑って手を振った。
「マジでやめろよ？」
「望月、俺を何だと思っている」
　三人は噴き出すようにして笑った。逸早く立ち直った煉が望月に言った。
「具体的には何をする？」
「んーと、そうだなぁ……校舎の屋上で卒業パーティーはどうかな。もちろん、言い出しっぺの俺様が食料や飲み物を用意する。ネコンビに行くからちょっと時間は掛かるが、どうだ？」
「もっちーの言葉に甘えて賛成ってことで」
　武道が手を挙げて歩き出す。透かさず、煉が声を掛けた。
「先約か」
「そういうんじゃなくて、最後に学校を見て回ろうかなーって」
「そうか。俺は妹に事情を伝える。一緒に帰る時間を調整しないとな」
「じゃあ、またここで！」
　望月は笑顔で走り出す。二人は軽く手を挙げて別々の方向に歩いていった。