決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来｜リアクション

決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来

●第五階層、聖なる騎士のポーズを決めろ

「さあッ、もっとッ！　上腕三頭筋を輝かせるのだッ！！」
　第五階層、緑豊かで美しい『リブラス法王国』の聖騎士団訓練所に熱気の篭った声が響き渡る。
　クルセイダーと呼ばれる聖騎士たちの長であり、アステリズムの一人でもあるナイト・オブ・リブラスは、両腕をぐっとカブトムシの角のように力強く曲げて騎士団伝統の『聖なる騎士のポーズ』を取っている。ガッチガチのフルプレートアーマーをガキンと鳴る。フルフェイスの兜から鼻息と思しき蒸気が漏れ出てくる。
　リブラスは騎士団員と合体しているようだが、全身を覆う鎧で見た目には変化が分からない。
　彼（彼女？）の前には、ちょっと筋肉とは遠そうな少年少女が三人。
「はいッ！　一緒に聖なる騎士のポーズを練習するなの！」
「あかりたちは守護天使と守護悪魔だから、ポーズを学ぶのはきっと大切なことなの！」
　ノリノリでポーズを取るのは天使と悪魔な橘明里。
　逆に戸惑っているのは、ルーク・ポーラスターと合体して外見や服装は星幽塔での幸次のまま金髪碧眼な見た目となった万条幸次――ルウジだ。
「ナイトさん、カノン砲のパーツを持ってるって聞いたんですが……」
「うむッ！　しかしか弱き者に渡すわけにはいかないッ！」
「どうすれば……？」
「私に戦って勝てとは言わん。だがせめて『聖なる騎士のポーズ』をキメて見せろ！」
　幸次がこそこそと自分の中にいるルークに話しかける。
「ルーク君、どう？　俺あんなポーズ恥ずかしいんだけど……」
　すると、ルークは思いのほかノリノリだった。
「勇者の心得その２３、結局、筋肉！！」
「やる気なんだね」
　やれやれと内心ため息を吐く。
　しかしここで嫌がってても何も進まない。
「……やるしかないか、ボディビルになりきるんだ！」
「いい面構えになった！　よし、やってみろッ！」
「こうですか……ダブルバイセップス・フロントォ！」
「いいぞッ！　次はこうだッ！」
　むんっと掛け声をかけるとリブラスはポーズを変え、両腕を力強く腰に当て逆三角形のポーズを取る。
「フロント・ラットスプレッドォ！」
「うむッ！！」
　兜越しで分かりづらいが、リブラスは嬉しそうである。
「熱くなってきたあーーー！」
「ちょっとルーク君、邪魔だからって頭の装備取らないで……あっ」

『ガブッ』

　ルウジの頭に噛みついてきたのは、騎士の力で実体化したライオンのブロゥである。
「……ほら、うちのブロゥ、じゃれて頭に噛み付いてくるんだよ」
　見た目は大人の男が乗れるサイズの成獣でも、中身はまだまだ遊びたい盛りの仔猫のようなところがあるブロゥ。頭甘噛みでうわーな展開はすっかりお約束である。
　それを見たリブラス、妙に嬉しそうにビシッとルウジを指さし叫ぶ。
「ライオンに噛みつかれながらのサイドチェストォ！」
「ライオンに噛みつかれながらのサイドチェストォ！！！」
　一体全体どういう状況なのかわからないが、もう気合いだ！
　天使と悪魔のあかりもそれを見ておおはしゃぎ。
「わー！　ライオンさんなのー！」
「ガブガブなのなの！　あかりもあかりもー！」
　ブロゥは天使と悪魔なあかりたちもガブリ。少女ふたりとライオンが奇妙に絡まって、人知を超えたポーズになっちゃっているが、あかりたちは一生懸命。どったんばったんしつつも、いたって大真面目である。
「ライオンに噛みつかれながらのサイドチェストォ！」
「おお聖騎士よーフォーエヴァーソーファイン！！」
「勇者の心得その２３、結局、筋肉ゥゥウ！！」
「もー、いったいなんなのこれーーーー！」
　幸次の叫びがリブラス法王国の豊かな森にこだまする。

　――数刻後、満足したリブラスは『装甲板』を渡してくれた。

「ちょ、ちょっと休ませてーーーー！」
『ガブッ』