決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来｜リアクション

決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来

●鈴島上空、空中戦

　遺跡の外の戦況は悪くなかった。特攻する恵御納夫妻をはじめとした仲間たちの善戦のお陰でヒヨコたちをなんとか遺跡に近づけないよう食い止めている。
　けれど、キリがないのも確かで、仲間たちの疲労は着実に積み重ねられつつあった。戦闘の合間には理沙の手作りクッキーが振舞われ、それは彼女のろっこん＜ささやかな手料理を＞の効果もあって疲労回復の一助とはなったけれど、圧倒的な数の差は明らかでこのままでは消耗戦だ。
　五十嵐時子（五十嵐尚輝＋御巫時子）は上空で悠々と翼を広げる巨大な鶏を見上げた。鶏に乗っている紅い上着の魔術師がヒヨコたちを指揮しているのだ。
「ヒヨコたちを操ってるのはあの方の様ですね」
「そうですね……魔術師トファルドフスキと言いましたっけ。彼を何とか出来れば戦局を楽にできそうですが」
　尚輝が答える。その通りに違いないと時子も思う。
　もう一度見上げると、丁度、二羽のカラスがトファルドフスキに空中戦を仕掛けたところだった。
「カァー！」
「カァー！！」
　ふたりの山田勘三郎が＜腹ぺこガラス＞で変身した烏だ。
　嘴を突き出し、ロケットのように身を細くしてトファルドフスキの頭を狙う。
（今の俺なら戦力も二倍、目ざとさも二倍、おまけにチームワークもバッチリだ。自分同士だからな！）
　……と、思ったが。狙う場所も、狙うタイミングも同じ過ぎて互いに衝突しそうになる。
　そのスキを突かれ、魔術師にステッキを振われる。
「なんです、うっとおしい烏ですね」
　まるで蝿を払うかのような仕草だ。ふたりはいったん退避すると作戦を練り直すことにした。
（思考も動きも同じすぎだ。危ねぇな、これは）
（じゃあ、お前は乗り手を、俺は鶏をそれぞれ狙うとしようじゃねえか）

「私たちも行きましょう」
　時子は＜鳥の囀り＞ヒヨドリに変身し、尚輝のろっこん＜バードサンクチュアリ＞で出現しっぱなし――つまり怪現象を察知しっぱなし――の鳥と、大空へと飛び立った。
「尚輝先生、大丈夫ですか？」
「何がですか？」
「普通じゃないフツウに混乱されていないかと」
「いやもう……夢だと思うことにします。それに、あなたがいますからね」

　攻撃対象を分散して改めて飛び掛かる勘三郎烏たちを援護するように、ヒヨドリと小鳥が空飛ぶ鶏の周りをぐるぐると飛ぶ。時子の狙いは意識をこちらに逸らせほかの仲間のためにチャンスを作る事であったが、しばらく魔術師の近くを飛んでいるうちに別のアイデアが浮かんできた。
（あの杖が怪しいですね……。尚輝先生、ちょっと聞いてください）
　脳内で作戦を説明すると、時子はトファルドフスキの頭上へ飛んでいく。
　魔術師は烏たちをけん制するのに忙しく、小さなヒヨドリの動きにまでは気を配っていないようだ。
（今です！）
　時子は突如、ろっこんを解除した。
　トファルドフスキから見たら、白衣の少女が突如空中に出現し、自分にのしかかってきたと思われただろう。状況を把握する間を与えず、時子は彼から杖を奪う。
（鳥に――！）
　時子は杖ごともう一度ヒヨドリに変じてトファルドフスキの手を逃れた。
「私の杖！」
　鬼の形相となりヒヨドリを追いかけようと鶏を駆る魔術師を二羽のカラスが食い止める。
「カァー！（追わせるか！）」
「カアァーー！（ここでくたばれ！）」

　勘三郎の協力により遺跡から離れた森の上空まで逃れた時子は、人に戻ると杖を振った。
「ヒヨコさんたち、大丈夫だよ。こっちへおいで」
　時子の声は＜鳥の囀り＞の力で鳥たちに届く。
　ヒヨコたちは急に我に返ったように、森の方へと引き始める。
「ぬうっ、こうなったら……！」
　直接遺跡を攻撃しようというのだろう。
　トファルドフスキは手綱を引き空中で鶏の向きを反転させると、遺跡の上空へ向かう――！