決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来｜リアクション

決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来

●月、虹の入江にて（２）

　タナカが管を巻いている間に、ある少年の話をしよう。
　身の丈は小柄だが目の奥に大人びた色を湛えた少年だ。彼は獅子唐ケンジといい、もうひとりのケンジとともに虹の入江を見下ろす崖の上に立って、青い宝石の浮かぶ漆黒の空を仰いでいた。
「空に地球が見えるここは月面ですね？」
「ええ、周りにはのんびりしている方も居ますし安全地帯なのでしょう」
　彼らが気にかけていたのは宇宙空間にいたはずの先生方だった。
　この状況が夢か現かは分からない。
　だがもし現としたらどうだろう。
　先生によっては生徒を護ろうと無茶をして遭難しているかもしれない。その心意気は素晴らしいが、月面と言えば地球の1/6重力だ。呼吸や暑さ寒さは大丈夫なようだが、いつも通りの動きが出来ず思わぬ不覚を取ることもあるだろう。
「失礼ではありますが、可能な限りこちらに避難して頂くためお迎えに行きましょう。行けますね？　もう一人の僕」
「そちらこそ、別の僕」
　ふたりのケンジは崖から跳ぶ。
　地球とは違う浮遊感がケンジたちを速く、遠くへ運んでいく。
　ふたりは重力が小さいのを計算して跳ぶように捜索をしていった。地球からは平たんに見える月の表面は意外に凸凹している。二人分の上着を切ってつなげてロープにし、片方が地上で身体を固定しつつ重し役を引き受けると、もう片方が大ジャンプして大岩に乗る。
「オーライ」
　岩の上から地上のもう片方を引っ張り上げると３６０℃ぐるり見渡し捜索する。
「おや、あれは」
　片方のケンジが月の岩場の影で女性たちが固まっているのを発見した。近寄っていくと相原まゆ先生と鷲尾礼美先生、久保田美和先生と島岡雪乃先生はそれぞれ合体し、そのほかに分離した樋口弥生先生がいて、みなで歌を歌って勇気づけあっていた。
「先生方、大丈夫ですか」
「ええ、私たちは大丈夫。助けに来てくれたの？」
　いちばん落ち着いている樋口先生がほっとした様子でケンジに答えた。
「はい。あちらの虹の入江が安全地帯になっています。一緒に行きましょう」
　ケンジはこうして次々と先生方を捜索しては虹の入江の安全地帯へと誘導した。
　地下には敢えて近づかない。絶神とやらより、優先順位は捜索と保護が上だと考えていたからだ。
「おーい、こっちだ！　手を貸してくれ！」
　女性陣を送り届け再度捜索に出たケンジを呼ぶ声がする。見たところ、浅井幸太先生と桐島義弘先生が合体した男性のようだ。分離したふたりの吉田熊吉先生が、その巨体故に岩の隙間から出られなくなっているという。
「今行きます」
「絶対に全員助けて見せますとも！」

　こうして――。
　月に来てしまった先生方のほとんどが虹の入江に集められたのは二人のケンジの奮闘のおかげであった。