決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来｜リアクション

決戦絶神！分かれ合わさる運命、絶望、未来

●月、コペルニクスクレーター、ハニーバニー戦（２）

　黒夜叉によって強化された肉体を繰る少女剣士美緒佳奈が、木刀を手にミニマム化したウサギの群れに突っ込んでいく。剣道の腕は悔しいけれど佳奈の方が上。身体の操作は伊藤道場の一人娘である佳奈に任せる。
「払捨刀！」
　払捨刀――江戸時代の剣聖・伊藤一刀斎が、刺客に寝込みを襲われた際に生まれたという秘太刀で、対多人数の一刀流の技を、いともたやすく佳奈は放つ。
　吹っ飛ぶミニマムウサギたち。
（反応も足の運びも美緒よりやっぱり早い。流石お姉ちゃん！）
　一体化してる今、美緒にはいつも以上に佳奈の凄さが解った。
（でも何時か必ず美緒が勝つ！）

「みみみみん！！」
　みみみんも犬の機動力を使って杵をがんばってよけつつ。
「犬パーーンチ！」
　そのうちウサギから杵を奪って、棍棒のように振り回しながら大立ち回り。
　ほかのみんながハニーバニーにたどり着けるよう、精いっぱいサポートする。

　ウサギ討伐で最も活躍したのは、疾風のように駆け抜けていく二人の御剣刀だ。
「俺達は分かれてしまったがとりあえず最速は俺です、俺なんです！」
「どちらが速くののこを助けるか、それで決着をつける！」
「同じ自分とか関係あるか、なおさら自分には負けられない！」
「＜加速＞して突っ走るぞ！」
　刀たちはお互いに最速の座を譲る気はなく、むしろ好敵手と捉えて張り合いまくっている。
　脳内で撃鉄を落とすのも同時なら、加速するのも同時。その速さも当たり前だがほぼ同じで、刃引き刀で斬り捨てるウサギたちの数もこれまたほぼ同じだ。
「おい付いてくんな！」
「そうはいっても自分だから行くルート一緒？」
「ですよね！！」
　ムッツルギと呼ばれることもある刀だが、今はセクシーなバニーには目もくれない。
　恋人がいるし自分に負けそうなので賢者タイム的に意識的にスルーだ。
　無双といってもいい剣（犬？）士たちの活躍で、ウサギたちは見る間に数を減らしていく。

◇

「はぁ」
　ウサギ無双を眺めつつ、ため息をつくのはふたりの屋敷野梢である。
　ひとりは普段通りの梢で、一応血と涙はある。もうひとりはピンク色の髪で、どことなく蛾――しかも毒蛾――っぽい雰囲気をした血も涙もない梢だ。
「なんです、梢センパイ」
　ピンク梢はなぜか梢を先輩扱いする。キャハッという笑い方がまた毒々しい。
　梢は自分の胸を見ながらまたため息をついた。
「私達って圧倒的に攻撃力が足りてませんよね」
「あの巨乳なバニーさんとか、結構いい装備してません？」
「倒したらドロップしませんかねー、胸のお餅とかも」
　たぶんドロップしない。仮にドロップしたとしても、たぶん梢には装備できない。
「そんなことはわかってますよ」
「じゃあ、まずはその辺のかうさぎさんから杵を奪い取って、武器しべ長者といきましょーか！」

◇

　杵を奪った梢たちが蝶に変じて飛び立ったころ。
　青山絢は分離した自分と対峙し、開いた口がふさがらなかった。
　自分は普段の自分のままだが、もう一人の自分は大胆妖艶なバニーガールの姿をしている。赤く塗ったルージュの口唇には凶悪狂暴な美を湛え、手には山賊が持つような巨大な曲刀マチェーテを持っている。
　血を求めるような好戦的な眼差しの自分――アヤの姿に、絢は言葉が出てこない。
「これがもう一人の私？　随分地味なのね」
　アヤは嫣然と微笑んで揶揄うように絢の顎を人差し指で持ち上げた。
「な、なんでその恰好なのよっ！」
　ようやく出てきた言葉はそんな動揺交じりのもので、それにアヤはふ、と鼻で笑って返す。
「バニースーツはいい女にのみに許された特権よ。その特権を拒否するなんて変わってるわね」
「そういうことじゃないのっ！」
「絢、あなた女優目指してるんでしょ？　女優なら与えられた役を拒否することなんてできないはず……違わない？」
「もうはぐらかさないでっ！」
　会話が全然かみ合わず、絢は心の中で地団駄を踏む。
　だがアヤは超然としたもので。
「くだらない会話をしている場合じゃないわね。あの女を倒せばいいんでしょ？」
　視線を流した先には、セクシーな体を黒いバニースーツに包み込んだハニーバニーがいた。