にゃんぴーす！～黒猫海賊団が現れた！～｜リアクション

にゃんぴーす！～黒猫海賊団が現れた！～

　　　４

　龍樹と巧もまた、展望台前駅で降りていた。ただし向かったのは展望台ではなく、山頂だ。それもわざわざ、登山道を外れて。
「本気！？」
「だってこの方が、宝探しっぽいじゃん？」
「宝探しって……」
　巧はげんなりとした顔になった。黒のパーカーにオレンジのダウンジャケットと、万全ではないが防寒対策はしてある。しかし、山歩きに向いているとは言えない。
　それは龍樹も同様で、青いフリースのジャンパーしか着ていない。うっかり迷子にでもなったら、遭難するのは間違いないだろう。
　ついていくのは嫌だが、子供を置いていくわけにもいかない。考えはしたが、後のことを想像してその選択肢は捨てた。かくして、巧は龍樹と共に山の中へ突き進むことになったのである。
「兄ちゃん、もれいびだろ？　宝探す能力とかないのかよ？」
「そんな便利なもん、あるわけないじゃん。そっちこそ」
「オレはただの人間だからさー。かあちゃんはもれいびだから、俺もそのうちなれるんじゃないかなー、って思ってるんだけど」
「え……？　ただの“ひと”……？」
　巧は唖然として目の前の背中を見つめた。
　寝子島に来て以来、様々なトラブルに巻き込まれてきたが、一緒にいたのは大抵、もれいびだった。何の能力もないのに、どんどんトラブルの中心に突き進む龍樹は、巧にとって理解しがたい存在であった。
「まあいいや、宝はオレが見つけてやるぜ！　オレのムテンは光るから、暗いとこも大丈夫だし！　早く帰りたいなら兄ちゃんも頑張って探してくれよ！」
　龍樹はポケットからムテンを取り出し、草むらに分け入った。
　――そこに、黒猫がいた。
「わあっ、びっくりした！！」
　ムテンを手の平でお手玉し、危うく両手で押さえこむと、龍樹は黒猫と向き合った。
　艶やかな毛並みの黒猫だ。胸の一房だけが白い。そして後ろ脚の二本で立っていた。
「人の子かにゃ」
「喋った！！」
　龍樹も巧も目を丸くした。予めねこったーで情報を得ていたとはいえ、実際に目にすると、衝撃的だ。
「何で猫なのに喋るんだ？　もしかして、もれいび？」
「危ないって！！」
　近づこうとする龍樹を、巧は後ろから引っ張った。龍樹は首を巡らし、「何で？」と尋ねる。
「だって普通の猫じゃないんだよ？　街で黒猫たち、暴れ回っているし……」
「やはりにゃ」
と、その黒猫は嘆息した。猫も溜息つくんだ、と龍樹は思った。
「あいつらは、ただの猫だからにゃ。あまり、言うことを聞かんのにゃ」
「お前は違うの？」
「俺は誇り高きニャッド海賊団の副長・ニャリファド。一緒にするにゃ！」
「海賊？　かっけー！！」
　龍樹は目を輝かせ、ニャリファドに近寄った。
「オレ、白石龍樹。よろしくな！　宝探してるんだろ？　協力するぜ。あ、海賊の掟とかってある？　決めゼリフとか必殺技とかは？」
「なぜ、宝のことを知っているにゃ？」
「だって、喋りながら走ってたろ？」
　それを目撃した人物――幸次である――の投稿を元にここに来たと答えると、ニャリファドは顔をしかめた。
「迂闊だったにゃ……」
　猫ってあほなのか、と聞いていた巧は思った。いや、この猫たちだけかもしれないが。
「……だが、他の人間は来ていないようだにゃ？」
「そりゃまあ、朝早かったし」
　面白がる人間は多かろうが、動き出すには億劫な時間だった。今はもう九時を過ぎている。後からやってくる者もいるだろう。
「ならば話は簡単だにゃ」
「？」
「お前たちの口を封じるにゃ！」
　ニャリファドが鋭い爪を出した瞬間、巧は龍樹の手を握って走り出した。