にゃんぴーす！～黒猫海賊団が現れた！～｜リアクション

にゃんぴーす！～黒猫海賊団が現れた！～

　　　２

「……何、これ」
　瀬莉は、ぽかんと口を開けてその様子を眺めていた。
　十匹以上の黒猫が、
「にゃー！」
「にゃにゃにゃ！」
「うにゃー！」
「ぎゃー！」
「誰かー！」
　最後は人間である。――つまり、十匹以上の猫と人間が格闘していたのだ。異様な風景だった。
　助けを求められては、見捨てるわけにもいかない。それに、その人物は猫を追い払うために箒を振り回しているのだ。
　この寝子島で、猫を嫌う人間はほとんどいない。だが、店の品が襲われてはそうも言っていられないだろう。何しろここは、魚屋なのだ。
「こらっ、駄目でしょ！」
　瀬莉は猫を抱え上げ、店の反対側に連れて行った。店頭に戻り、また猫を抱える。素直に捕まる子もいれば、爪を立てる猫もいる。
「痛っ」
　手の甲を引っかかられて、瀬莉は傷を抑えた。
「お嬢ちゃん、大丈夫か？」
　魚屋の主人は箒を振り回して、その猫を追い払った。
「うん、大丈夫。……でも、何でこんな」
「分からないんだ。今まで、こんなことは一度もなかった。それに、見たことのない猫ばかりだ」
　魚屋ゆえに、猫たちに狙われることはしばしばあった。だが、ほんの少しのお裾分けで、猫たちはいつも満足していた。新顔に一匹や二匹盗まれることはあったが、大抵、その後は元通りになる。
「こんな、知らない猫ばかりたくさんなんて……」
　どこかの誰かが大量に捨てて行ったのかもしれない、と魚屋は言った。だからといって、仕入れた魚が盗まれて行くのを見ているわけにはいかない。
　が、黒猫たちは素早く、主人の箒を簡単に避けている。そして、その隙に別の猫が魚を奪う、といった様子だ。まるで訓練された軍隊のような動きに、瀬莉は目を丸くするばかりだった。
　やがて全ての魚を奪われ、主人がへたり込んだとき、瀬莉のスマートフォンが鳴った。

「――送信完了、と」
　万条幸次はスマートフォンをズボンのポケットに突っ込み、顔を上げた。
「……しまった。あいつら、どこ行っちゃった？」
　アパートの窓から黒猫たちを目撃した幸次は、手早くズボンとシャツ、それにダウンジャケットを着込むと、外へ飛び出した。飼い猫の「花遊(かゆう)」が寂しそうにしていたが、連れて行くわけにはいかない。
　後ろ髪を引かれる思いで、黒猫――先頭を走っていた二匹――を追った。
　その途中、ねこったーに情報を書き込んだ。
　百匹近い黒猫が寝子島に現れたこと、そのうちの二匹は人間の言葉を話すこと、にゃんぴーすという宝を探していることなどだ。
　そのせいで二匹を見失ったわけだが、ねこったーの拡散能力は予想以上だった。
　あちこちから、目撃情報が寄せられる。
　星ヶ丘の魚屋が黒猫たちに襲われた、魚市場が荒らされた、肉を盗まれた、水族館で大量の黒猫が駆け回っている、といった話だ。
　どうやら黒猫たちは、魚や肉をターゲットにしているらしい。
「にゃんぴーすって、食べ物？」
と、幸次は首を傾げた。しかし、「世界でたった一つの宝」とあの片目の猫は言っていた。
　うーん、と頭を掻き、再びスマートフォンの画面を覗き込むとねこったーの書き込みが更新された。
　黒猫が二匹、九夜山へ向かっているようだ、との情報だった。
「――よし！」
　幸次はその情報を信じることにした。

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