【マラソン大会】着ぐるみで仲良く走ろう♪　～妨害旅情編～｜リアクション

【マラソン大会】着ぐるみで仲良く走ろう♪　～妨害旅情編～

「はぁ……ついにこの日がやってきてしまったか……」

　と、ライオンの着ぐるみが憂鬱そうなため息をついている。中身は万条幸次だ。
　何故、幸次は憂鬱そうなのか？　実のところ彼は面倒な事は極力したくないタイプでこのマラソンも出たくて出たわけではないのだ。しかし、体育の成績が悪くそれを補う補講のような意味合いを教師より申しつけられた為に出るしかなくなってしまった。
　幸次も教室にそう言われてしまっては仕方ないと諦めているのだが、それでもやはり嫌なものは嫌なのだ。

「リタイアはダメって言われてるし、完走を目指さないとなぁ……」

　そんな風にぼやく幸次を置いていくように、マラソンは始まった。

「……さっそくすごいところに出たけどコースは合ってるんだよね？」

　幸次がそう言ってしまうのも仕方ない。何せ目の前に広がっているコースは大観覧車のゴンドラを飛び乗っていくコースなのだから。
　スタートしてから暫くは普通のマラソンのコースだった筈なのに、何で突然こんなコースが？　と、幸次が疑問に思うが体育の成績の為に立ち止まっているわけにはいかない。

「このコースなら猫になった方が有利かな」

　そう考えた幸次は早速自らのろっこんである【猫チェンジ】を使用して両手と両足を猫化させる。おまけに何故か猫耳と尻尾も生えてしまったが。しかも着ぐるみから爪と猫耳と尻尾が突き出てしまっているではないか。

「うわ、こうなっちゃったか。まぁでも仕方ないや」

　そして、ゴンドラからゴンドラへと次々にジャンプをしていく幸次。猫化した事による跳躍力は流石の一言である。
　だが、それでも事はそう簡単には運ばない。ゴンドラの一つに飛び乗った時、勢いが付き過ぎたのか滑ってしまったのだ。

「うわっ、落ちる落ちる！」

　慌ててゴンドラに爪をひっかけると、ガリガリとひっかくとても嫌な音が響くが何とか落下を阻止する事には成功する。

「あ、危なかった……」

　そう言って落ちかけたゴンドラの下の海を覗いて見ると、そこにはサメらしきものの姿が。

「いや、マジで危なかった……」

　こうして大観覧車のコースを抜けた幸次を待ち受けていたのは、猫達がいる寝子島街道だ。
　一見普通の街道のように見えてたくさんの猫達が集合しているこのコース。しかも構って欲しそうにジッと見てくるではないか。

「猫だー！　可愛い！　ダイブしたい！　もふもふしたい！」

　この猫達も恐らくはマラソンのコースのギミックなのだが、それに思いっきり幸次は引っ掛かりそうになっていた。
　だけど、ここでこのギミックに引っかかってしまうと何となくマラソンを完走する事ができなくなる。そんな予感が幸次の頭に過る。
　もし、そんな事になってしまえば体育の成績が大変まずい事になるだろう。もしかしたら、それこそ補講を受ける羽目になるかもしれない。そう思い直した幸次は、再び【猫チェンジ】を使用する。

「ウウゥ……シャーーッ」

　着ぐるみの頭をとって猫化した状態で牙をむいて威嚇する。しかも飛び掛かるフリまで行う。
　こうして威嚇する事で近くによって来ないようにする作戦だが、上手く嵌ったようで猫達は一目散に逃げていった。

「うう……みんなごめん、ごめんよ……」

　しかし、代わりに猫好きの精神にとても大きな傷を負ってしまったようだが。恐らく暫くは引きずる事だろう。
　体力を大きく消耗し、精神ダメージも負った幸次がゴールについた頃にはすっかり疲労困憊だった。そんな幸次を見て観客達は盛大に拍手を送ったそうだ。

「あ、ありがとうございます……」

　それに対して力なくそう答えるしかできないのが、今の幸次の状態を現わしている。だが、完走をする事はできたので何とか目的を達する事はできたのだった。