【マラソン大会】着ぐるみで仲良く走ろう♪　～妨害旅情編～｜リアクション

【マラソン大会】着ぐるみで仲良く走ろう♪　～妨害旅情編～

「は？　これから選べって言うのか？」

　響蒼留人がどの着ぐるみにするか悩んでいると、その横から蒼留人の姉が二つの着ぐるみを押し付けてきた。どうやらその二つのどちらかにしろという事らしい。

「いや、何だよ、この二択」

　姉が押し付けてきたのはニャンダムとニャンノくんとかいう足だけ出た怪しい鯛の着ぐるみだ。正直なところ走り易そうなのはニャンノくんの方なのだが顔の造形が何とも言えない気持ち悪さなのだ。
　これでは実質一択みたいなものだが、既に時間が押し迫ってきている。仕方なく蒼留人はニャンダムで出る事に決めた。

「剣道部なめんなよ、面と胴着で普段から着ぐるみ着てるようなもんだぜ！」

　強がるようにそう言う蒼留人だったが、この選択は間違いではなかったとマラソンがスタートした後に判明する。
　何せ走っていると道の傍から小さい子供を中心に応援が次々と飛んでくるのだ。これが正解と言わずして何と言う。

「な、なんだこのコースは？！」

　しかし、応援に気を良くしていた蒼留人の前にとんでもないコースが現れる。どう見ても工事現場としか思えないコースだ。
　何故か鉄骨の上を走っていかないといけない上に、どうも妨害ありなのか鉄骨の上から落ちては工事現場コースの最初に戻されるランナー達の姿が見える。
　最初はこのとんでもコースに戸惑っていた蒼留人だったが、とにかくここを行くしかないと覚悟を決めるとビームサーベル風の模造刀を竹刀代わりに振って突き進んでいく。

「キエーッ！」

　だが、雄たけびを上げるその姿はあまりニャンダムらしくないような気がする。
　そして、その次に蒼留人が挑戦する事になるのは大観覧車のコースだ。

「大観覧車のゴンドラの上を飛び移るって、マラソンじゃねえだろ！？」

　その通りである。しかし、突っ込みを入れつつもきちんと挑戦する辺り生来の生真面目さが現れている。

「くそっ、ヤケだ、飛べ、ニャンダム！」

　そんな事を言っても着ぐるみだからブースターは付いておらず当然飛べない。
　蒼留人は頑張って自力で跳んでいくのであった。

「おい、何だよこれ……」

　苦労に苦労を重ねて大観覧車をクリアした蒼留人は、呆然と急勾配な道を見上げている。
　ただ、急勾配なだけなら大変ではあるがまだ良い。だけど、何故か道が凍っているのだ。しかも――

「クマ……だと？」

　そう。何故か着ぐるみの熊がどこからともなく現れてランナーを妨害しているのだ。

「ええい！　こないだ戦った巨大イタチに比べたら大したことないぜ！」

　再びビームサーベルを片手に雄たけびを上げて突撃していく蒼留人。
　何と言うかその姿はニャンダムと言うよりも、どちらかと言えば落ち武者のように見えるのは気のせいだろうか。

「お仕置きされてたまるか！」

　どうやらマラソンを完走できなければ誰かにお仕置きをされてしまうらしい。
　苦労しながらもけして諦めないのはそのお仕置きを避ける為なのかもしれない。
　だが、その心境が功を奏したのか蒼留人は街道のコースを走り抜ける事に成功する。
　すると、何もない平坦な小道へとコースが戻る。

「やっと平和な道に戻った……ん、なんだこの猫たち？」

　だが、それは平坦なコースに見えていただけだ。
　この小道では大勢の猫がスタンバイをしていたのだ。彼らは直接的な妨害はけしてしない。ただ、愛らしくそこにいるだけだ。だからこそ、厄介なのだが。

「くっ、だめだ、今はレース中だ！」

　猫達に心を奪われそうになるが、猫達を全て不肖の姉だと思い込む事で蒼留人は突破を図る。
　しかし、そうしてこの小道を突破したことをその姉にバレたら果たしてどうなるのだろうか？　きっと蒼留人はバレないと思ってやった事だろう。だけど、何事も絶対はない。
　レース後の蒼留人がどうなったのか。それはまた別のお話である。