【マラソン大会】着ぐるみで仲良く走ろう♪　～妨害旅情編～｜リアクション

【マラソン大会】着ぐるみで仲良く走ろう♪　～妨害旅情編～

　楡宮遠海はマンボウくんの着ぐるみを実際に着てみたその感触に首を傾げていた。

（着用してみたけど、なんかまっすぐにしか進めなさそうな気が。しかもバランス悪そうだし、こんなので果たして完走できるのかしら？）

　その疑問は至極真っ当なものだ。そもそも着ぐるみを着てマラソンと言う発想が出てくること自体がおかしいと言えるだろう。だけど、実際にその案が通ってしまったのだから仕方ないのである。
　しかし、遠海は着ぐるみマラソン自体に疑問を抱きつつもそれでも出走自体を諦めるという選択肢は取らない。いや、取らないというよりも取るという選択肢がないのだ。何故なら、完走したら食べる事ができる善哉にすっかり意識を奪われているからだ。
　そう。スタート前の遠海は善哉のためならこの際、どんな困難でも割と平気で乗り越えられる、なんて思っていたのだ。それは間違いであったと後に思い知る事になる。

「……何で！？」

　コースが工事現場になっている箇所についた時、思わず遠海は叫んでしまった。
　極度の方向音痴である遠海はひたすらに前にいるランナーの後を追って走っていたのだが、何故かこんなところに着いてしまった。周囲を見れば他のランナーも困惑している。

「くっ、しかし、ここで諦めたら善哉が！　こうなれば……女は度胸！」

　度胸というか食に対する大欲が戸惑いを抑えつけただけである。
　だが、それこそが大きな力となったのか、遠海へと襲い掛かる鉄球や鉄骨をアクロバティックな動きをして四苦八苦しながらも何とかそのコースを乗り越える遠海。
　けれど、困難を乗り越えた先にはまた新たな困難が存在していた。
　今度は大観覧車のゴンドラの上がコースとなっているようだ。

「いつからマラソン大会はSA○○KEになったのよ！」

　アスレチックもビックリなコースである。しかもこれでいてきちんと持久力も問われるくらいにはコースが長いのだからとんでもないコースである。
　それでも遠海はけして諦めない。全ては善哉の為にとゴンドラの上をジャンプして攻略をしていく。

「おっと、ここから先は行かせないぜ！」
「善哉の邪魔！」
「ぐぇえっ！？」

　途中に邪魔をして遠海をゴンドラから落とそうするピラミッド男がいたが、遠海の善哉パワーの前には敵ではなくあっけなく吹き飛ばされた。
　こうして大観覧車のコースも抜けた遠海は次に寝子島街道へどうにか出る。

「何で、道がっ、凍ってるの！？」

　だが、ここもやはり普通ではなかった。つるつるに凍った上に急勾配で中々前へと進めない。しかもここでは時折熊の着ぐるみらしきものが出現してランナーを吹き飛ばしているのだ。

「ふぅ、ハァ、フゥ……」

　ただでさえ着ぐるみを強いられているのに、コースはやばいとしか言いようのないもの。すっかり遠海の息は切れ切れでヘロヘロだ。
　そんな遠海の目の前に現れたのは、それまでとは一風変わったコースだ。何と猫が撫でて撫でてと誘惑してくるのだ。
　あぁ、この猫達と戯れながらゆっくりしたい。疲れからそんな考えも一瞬浮かぶものの何かの香りが遠海の鼻をくすぐった事で意識が戻る。

「これは……小豆の、善哉の匂い……。そうだ、私は善哉を求めてここまでやってきたんだ！」

　まるで善哉を求めて長い旅でもしていたかのような雰囲気である。あながち間違いでもないかもしれない。

「ごめんね、猫さん達！　私は行くわ！」

　振り切るようにダッシュをしてその場を去る遠海。体力も尽きかけている筈なのに、何故そんなダッシュができるのか。
　いや、決まり切った話だ。遠海はただ善哉を求めているだけなのだから。
　そして、その後ゴールをした遠海はとても幸せそうな顔をして善哉を食べていたという。