振りかけろ、塩！｜リアクション

振りかけろ、塩！

　ナメクジを縮める一梅雨の物語は、終盤を迎える。上空は雲が消え始め、太陽が光の柱になって斜めに寝子島へ降り注いでいた。

「うん、かなり塩が集まりましたね。ナメクジに使うのがもったいないくらい、きれいに採取できました」
　塩の詰まった瓶を眺める五十嵐尚輝は、まるで虫かごのクワガタに食い入る少年だった。すぐ横で御巫時子が手を叩いて喜び、その場にいる全員が互いの労をねぎらう。
「……と、まだ終わりではありませんでした。第２グラウンドと九夜山のナメクジのところへ、塩を届けないと……」
　氷雨潤一は言い、神出鬼没を見る。首を横に振る没。すでにろっこんを一回使用している没が、正確な転送を再度行えるかは微妙だ。さらには九夜山のほうはどこなのか特定できていないため、場所をイメージできず、ろっこんは発動できない。
「安心して。私がヌメゴンのところへ届けるから」
　そう言って瓶を抱えて立つのは普堂しおり。
「五十嵐先生、ご協力ありがとうございました！」
「いえいえ、また課外授業をしましょう。そのときは亀頭さんもまた」
「ぜひぜひ参加させてください。浪人生のいい息抜きになります。それにしてもお腹が減りました」
「仕方ないですね、何かお昼を御馳走しましょう」
　最初からそのつもりだったのか、亀頭出がしてやったりという顔でにやついた。

　海岸を離れ、人目のつかないところへ来ると、しおりはろっこん「猫間飛行」を使用する。猫、もしくは猫の形のあるところへ、一瞬でワープすることができる。

「にゃ！」
　しおりの突然の登場に、猫化した猫村翡翠は体を捻らせてジャンプした。ねこったーのつぶやきを見た翡翠は、急いで九夜山からシーサイドタウンへと下りて来た。しおりのろっこんは、一気に遠くへ飛ぶことはできない。途中途中に、猫もしくは猫の形のものが必要だった。
「ありがとう猫村さん！　じゃ、行ってくるね」
　再びろっこんを使用するしおり。
「にゃ〜（猫のいるところに移動できるなんて、うらやましい能力だなー）」

「ふふ、来たわよ」
「わー塩がきたぁ！」
　第２グラウンドで大天使天吏と千鳥雅人が迎える。足元にはしおりの撒いた猫型の落ち葉が落ちていた。
「じゃあ、よろしく！」
　塩を分け与えると、しおりはまたすぐに去る。
「本当にこれだけで小さくなるのかなぁ」
　雅人が半信半疑で、海から採った塩を振りかけると……
「おおっ」
　ナメクジは触覚を嬉しそうに振るわせると、みるみるうちに体を縮ませていった。
「あんなにフツウの粉を使っても、小さくならなかったのに」
「海の塩には不思議な力がこめられてるのね」
　天吏が通常サイズに戻ったナメクジを切なげに見つめた。
「多分……このまま野生に放しても生きてはいけないわ。あとで五十嵐先生に、実験室で飼えないか聞いてみよう」
「そうだねぇ！」
「少し、休ませてあげて欲しいな」

「おっ」
　相変わらず扇風機にあたっていた刀が、しおりの飛行に最初に気づいた。足元で昼寝しているにゃーくんは全く気づかない。
「ここが最後のヌメゴンかな？」
「猫鳴館方面は、館生が自力でなんとかしたみたいだから、ここが最後だと思う」
　奈良橋博美が塩瓶を受け取る。
「私も投げよう」
「じゃ、僕もー」
　旅鴉月詠と桜庭円も加わり、ナメクジを囲った。
「せーの！」
　同時に塩を振りかける。
（ばいばい、ヌメゴン……！）
「おー」
　刀が目をしばたたかせる。塩を得たナメクジが、水を得た魚のごとく、活発に身をよじらせながら、体を小さくしていった。

　街を目指すナメクジ全てを元のサイズに戻すことに成功。フツウは死守された。

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