琥珀色の霙降る日　――出会いを取り戻せ――｜リアクション

琥珀色の霙降る日　――出会いを取り戻せ――

「いまのうちに」
「あぁ！」
　露草がヤクザの紋を確認しながら促し、巧は頷く。殿に鴻がつき、６人はもと来た道を駆けて行く。
　エンジンがかかったバイクをすべて爆破させたのがよかったのだろう。暴走族とヤクザは追いかけることができないようだ。
「それにしても、難儀だったな。因縁つけられてよ」
　さりげなく鴻が巧に言えば、彼は大いに苦笑する。
「中学んころ、ちょいと。それ以来なにかと因縁付けてきよってな。でも……」
　巧は、どこか真面目な顔で「こんなことを考える奴やなかった」と呟いた。
（違和感を覚えている、という事か）
　鴻は勘の鋭い子だな、と思いながらコートを指差した。
「そいつは、人目につかない所で脱ぎ捨てろ。目撃証言があっても、そいつから調べるはずだからな」
「せやけど……」
「遠慮するな」
　戸惑う巧の肩を軽く叩き、鴻は頷く。巧は、「おおきに」と申し訳なさそうに呟いた。
「このままで、終われば、いいけどっ！」
「そうデースネェ」
　息も絶え絶えな心に肩を貸しつつ撤収する露草だったが、彼はきゅっ、と表情を再び引き締めた。そこに、妙齢の女性が佇んでいたのだ。その目は、どことなく巧と似ていた。
「そこにいたのね、巧」
「……か、かあちゃん？！　な、なんで」
　その女性を見るなり、巧の顔が引きつり、次の瞬間には悲しみと怒りが混ざった顔になった。それでただならぬ物を感じた鴻は咄嗟に前に出る。
「あなた、邪魔」
　女性はそういうと、するりと鴻を交わし巧へと近寄る。が、露草が巧の前に出、すらすらとメモに何かを描く。同時に、女性の衣服に浮かび上がる羽が交差したような紋。露草がメモしたヤクザたちの紋である。その眩しさに女性は怯み悲鳴を上げる。
「こいつっ、敵だ！　奴らと同じ紋を隠してやがった！！　『俺等』をだまして処刑場まで連れてく役目の奴だ！！」
「！」
　露草が嘗ての口調で叫び、即座に鴻が修たちに走れ、と促す。
「ワイがやる！　おいちゃんたち逃げろ！！」
　巧の目に再び炎が宿り、踏み出そうとするも露草と鴻が首を振る。
「少年。悪いな……。そいつは俺たちの役目だ」
　そう言って鴻はにっ、と笑った。
「誰が何を言おうと、お前はお前だ。大切なもん見つけろ。守りたいもん守れ」
　言いたいことはそれだけだ、と一度だけ巧の頭を撫でる。そこに近づくパトカーのサイレン。
「てめぇら、逃げろ！早く！！」
「ほらっ！」
　露草に促され、碧南に手を引かれた巧は、修と心と共にその場を後にした。女性は巧を追いかけようとしたが、身長が１８９センチの露草と１９２センチの鴻に前を遮られ、見失ってしまう。
「あんたたち、よくも邪魔してくれたわね」
「てめぇ……何モンだ？」
　露草が過去の口調で問うが、彼女は肩を竦める。そのふざけた態度が気に入らない２人だが、どんな手でこようとも対応できるよう身構える。それを見た彼女はおかしそうに笑った。
「こんなか細い身体で喧嘩慣れした人にかなうとおもってるの？」
「そういうわりに、その身体捌きは喧嘩慣れした奴のもんだな」
　鴻の言葉に、女性はため息混じりにもう一度肩を竦めた。
「バレちゃったか。そうね、それなりに腕に自信があるわ。でもここで戦う意味もないし、退散するわね」
　彼女はくすっ、と笑った。
「あーあ。いいバタフライエフェクトの実験だったのになぁ？　じゃあね」
　そう言って彼女は赤い翼を広げ、姿を消した。辺りを見渡せばパトカーの姿が見える。自分達も撤収時だろう、と判断した２人はもやもやしたものを抱えながら頷いて走り出した。