――旧市街・牛瀬家
「あら、霙(みぞれ)やないですか……」
庭に出ていた牛瀬 イオリは夕暮れ時にふるそれに、あわてて洗濯物を取り入れる。そうしながらも、うっすらと夕暮れ色に染まる空を見て小さく笑った。
「こんな日やったな。巧さんと出会ったんは。まるで野良犬みたいな巧さん、今思うとちょっとかわいかったわぁ」
ねぇ、巧さん? とそこにいるであろう夫・
牛瀬 巧に声を掛けたイオリは、ふと家の中を見て言葉を失った。
さっきまでこたつでうたたねしていた夫の姿がない。それどころか、家の中にいた子供たちの姿すらないのだ。
「えっ? どういう……ことなん?」
イオリは、酷い眩暈を覚えながらその場に倒れた。なぜだろうか、遠くから酷い匂いと爆発音が聞こえる。
その日。
夕暮れ時に霙が降る。そして、次々に寝子島から人が消えていく。その光景をみていた貴方は、強力な頭の痛みを覚え意識を失った。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
――27年前・京都某所
「え? ……ここ、どこ?」
花厳 望春は、気が付くと見覚えのない場所にいた。潮の香がするところから、海辺の街なのだろうという事は解る。周りとみると同じように困惑する人の姿が……。
目の前には、2匹の猫がちょこんと座っている。
テオドロス・バルツァと
ミラ・ペプロメーノである。テオは困惑している望春に、いつになく真剣な声で言う。
「お前ら、緊急事態だ。今すぐ動いてくれ!
でなければ、寝子島から住人が消えてしまうし、ののこのフツウが脅かされる!」
信じられないような言葉に動揺していると、すぐさまミラが口を開いた。
「ここは27年前の京都です。何らかの力が働き、牛瀬先生夫妻がここで出会わなくなってしまいました。その為、牛瀬先生は15歳で生涯を終え、彼の他子供たちが消えてしまいました」
「それって……」
望春の目が、見開かれる。彼にとって牛瀬先生は担任であるからだ。
27年前のこの日。道に迷った『猪瀬 イオリ』は路地で不良に取り囲まれる。そこを通りかかったのは、喧嘩帰りで傷だらけの姿だった『牛瀬 巧』だった。彼はボロボロのままイオリを庇い、イオリの父に助けられる。そして、その際巧に素質を見出し「自分が経営するボクシングジムにこないか」とスカウトする。
しかし、神魂か何かによって歪められ『猪瀬 イオリ』は道に迷わず、『牛瀬 巧』は喧嘩でより酷い傷を負い路地裏で昏睡、そのまま凍死してしまう、という世界になってしまった、と。
その所為で歴史は転がるように変異する。
「ですが、ここが……
<時の特異点>です!」
ミラ曰く、牛瀬に反感を持っていた不良の一人がやがて木天蓼市長となり、寝子島は廃棄物処理場となる。そして……あの冬の日。ガス処理がうまくいかず大爆発が起こる。その所為で寝子島は沈んでしまう……、と。
「そんな……」
愕然となる望春に、ミラは口を開く。
「ここは、全てが始まる2時間前。牛瀬先生……いえ、巧さんは、少し離れた港で待ち構える不良たちの元へ向かいます。どうやら呼び出されたみたいですね。皆さんにはどうにかして本来の時代に繋がる『切欠』を作り修正してください」
ミラがぺこり、と頭を下げると、テオが僅かに苛立ちながら周囲を見渡した。そして、顔をしかめ、鼻を鳴らす。
「変な臭いがしやがる。お前たちを妨害しようとしている『ナニカ』があるみたいだな。今回ばかりは俺もミラも手伝うぞ。……と言ってもちょっとしたことしかできないがな」
そう言い、テオは、改めて貴方に向き直る。
「歴史が変わってしまったポイントと、異変を纏めてある。どう動くかは任せるし俺たちにやって欲しい事があれば指示に従う。これをしくじったら寝子島だけでなくののこにも異常があるかもしれねぇ」
「場合によっては日本中から人が消えることになる可能性もあるのです。どうか……どうか力を貸してください!」
テオとミラは望春たちへと頭を下げる。
潮騒が聞こえる中、いつの間にか霙が降っている。わずかに気温が下がった気がする。
ミラ曰く、
タイムリミットは午後5時30分。今から3時間半後に『猪瀬 イオリ』と『牛瀬 巧』を『路地裏で出会わせ』なければ元に戻らない。
貴方がたは、自分の存在を守るために、あるいは、牛瀬夫妻や寝子島の住人、ののこを守るために動きだすのであった。
菊華です。
今回は、ちょっと難しいかもしれませんが……なぜか代わってしまった過去を修復していただきます。
制限時間内で、貴方がたは一組の夫婦と、寝子島の運命を救えるか!
概要
ある2月の夕暮れ。神魂か何かの悪戯で牛瀬夫妻の過去が変わってしまい、
牛瀬 巧と5人の息子たちが姿を消しました。
同時に寝子島中から人が消え始めました。
というのも27年前の京都で出会うはずだった2人がすれ違い、
巧先生が15歳で死んでしまうという『歪み』が生じてしまったのです。
その上寝子島は産業廃棄物の処理場となり、やがて巨大ガス爆発で沈んでしまうことに!?
皆さんは複数発生した歪みを修復し、『牛瀬 巧』と『猪瀬 イオリ』の出会いを成立させてください!!
アクションでできること
◆発生した歪みと目的
1:巧が相手する人数の増加と変化
本来の歴史では、この日『巧は、1人で4,5人の不良と喧嘩していた』のでした。
しかし歪んだ事により『巧は、1人で30人以上の暴走族やヤクザと喧嘩していた』ことになっています。
その為怪我もより酷いものになってしまいました。
2:イオリへの影響
本来の歴史では、イオリは『引っ越したばかりで土地勘のなかったため、道に迷ってしまった』のですが、
歪みの影響を受けているようです。
ほおっておくと『午後5時30分』には帰宅してしまいます。
3:邪魔する者
本来の歴史ではなかった存在が、傷を負った巧に忍び寄りますし、イオリを手助けします。
巧の方では妙齢の女性が、イオリの方には15,6歳ぐらいの優しそうな青年が近づきます。
二人の正体は堕天使で、2人を合わせないよう工作に動きます。目的は不明です。
皆さんには、それらを工夫して排除ないし回避し、
『夕方5時 30分ごろに、猪瀬 イオリと牛瀬 巧を路地裏で出会わせ』て下さい。
◆持ち込みに関して
皆さんは、『普段から持っていてもおかしくない物』を、3つまで持ち込むことが出来ます。
(鞄やポーチなどは含みません)
まず、27年前なのでスマートフォンでのネット検索などができません。
ただし、不思議な力のせいか、スマートフォンはPC間でのみ通話できます。
その他の道具は、持ち込むものによっては『時代にあったものに変化』するか、
『持ち込めても使用できない』判定になる可能性があります。ご注意ください。
『星幽塔』のアイテムは『ほしびと』のみ持ち込む可能です。
◆注意点
テオから注意が1つ。
「すまん、1つ言い忘れた。ちょこっとぐらいだったら過去が変わってもいいが
『猪瀬 イオリ』と『牛瀬 巧』が『別の人間に惚れる』ような事は絶対にダメだぞ」
例えば、「イオリの髪型を変える」や「巧の傷の手当をする」といった事はやっても大丈夫ですが、
『2人の未来に大打撃を与えるような変化』は与えてはいけない、という事です。
また『星幽塔』の住人は、寝子島を訪れた時と同じ変化が起こりますのでご注意ください。
ただし、3回までなら星の力が虹以外も使えます(虹の方は使用制限がありません)
もれいびの皆さんは普段通りろっこんを使用できます。
それでは、宜しくお願いします。