Real Thing Shakes｜リアクション

Real Thing Shakes

　またテレビのリモコンの調子が悪くなった。
　ペン、と膝で一度叩けば大抵ついていたのに最近はあまり効果がない。電池を替えても同じだ。気まぐれに使えたり使えなかったりする。ちょっと直ってちょっと壊れたりもするのだ。女心と秋の空、なんていうけれど、このリモコンほどに移り気ではあるまいて。
　なのでそれほど期待せず電源ボタンを押したというのに、今日はとても素直にスイッチが入った。
　ニュース番組が映った。ちょうど見ようと思っていたのだ。
　志波武道は座ってテレビと向かい合う。
　ここ数日テレビで報道された中学生の事件。その続報だった。
　中学校の名前は伏せられていたものの、中継では見覚えのある寝子島中学がしっかりと映し出されていた。こういうところは報道も、配慮してほしいと思ったりする。
　武道は寝子島中の出身ではない。けれどもこれは寝子島の事件だ。現場となった河川敷だって歩いたことがある。それになにより、自分と同じ十代の事件ということもあって他人事とは思えなかった。
　――あっ。
　息を飲んだ。
　寝子中前で会った臨時講師の先生！
　テレビのインタビューを受けているのは、前に武道が会った女性教師だった。顔は映し出されていないが、ちらりと映った赤い髪に見覚えがある。声も記憶と同じだ。
　名前を聞きそびれていたけど、まさかテレビで見ることになるなんてな……。
「普通の子でした……」
　画面のなかで先生が言っている。苦しそうな、悔しそうな、そしてとても悲しそうな声で。
　ニュースはどこかの動物園で珍獣の赤ちゃんが生まれたとか、そういう話題に変わったのでテレビを消した。
　まずいものを観てしまったかもしれない。ほんの少しニュースをチェックして、それから受験勉強に戻るつもりだったのだ。
　木天蓼大学の受験日はもう間近だ。でも。
　……ダメだ、今日は集中できない。
　武道は想像する。
　もしかして事件を起こしたのは、先生が家庭訪問に向かおうとしていた生徒だろうか？
　まさかとは思うが、そうではないと断言もできない。
　もちろん先生は苦悩しているだろう。今でも自分を責めているだろう。
　だが最悪の想像の通りだとしたら――先生の苦悩は並大抵のものではないだろう。
　それでも迷いを振り切ろうと、机に戻りかけたところで足を止める。
　やはりだめだ。考えはじめたら止まらない。
　これは動いた方が引きずらないか。
　もう受験勉強といっても復習ばかりだ。頭を悩ませる思いを抱えたままではさほど進まないだろう。
　愛用の手帳を鞄に入れる。英単語帳も。
　そして上着に袖を通す。

　事件から数日経ったせいか、さすがにもう寝子島中学周辺に取材車やマスコミ関係者の姿はなかった。
　それでも周囲を警戒してから、武道は校門隣の壁に背中をあずけた。
　特に考えもなく出てきたけど――。
　ここで待っていて、あの先生に会えるという保証はない。
　すでに夕方だ。もう帰っている可能性もある。
　体調不良になって休んでいるかもしれないし。
　けどなあ、と武道は溜息をついた。出てきてしまったものは仕方がない。家でひたすら頭を悩ませているよりずっとましだ。
　英単語帳をめくる。覚え直しておこう。
　あ、この単語忘れてる。つづりが難しいんだよな、これ……。
　小半時は経ったろうか。いささか没頭しかけていたとき、見覚えのある後ろ姿に気がついた。あの先生だ。危ない。見逃すところだった。
　暗い声で話してどうなる。武道はつとめて明るい声を出した。
「どーも、先生！　お久しぶりデス！」