Real Thing Shakes｜リアクション

Real Thing Shakes

　小休止してレモンティーを半分ほど楽しんだのち、解理は自分の仮説を述べた。
「現代の寝子島で起こった出来事と、野々氏が落ちてくるまでの間に起こったであろう言い伝えなどを比較することで、過去の言い伝えの謎を証明できる足がかりになるのではないかと僕は思うのです」
「うーん、野々氏、って野々ののこさんのことよね？　あの子が神様だという噂はたしかにあったけど、私にはピンと来ないかなあ」
「ええ、いまの野々氏は神的存在ではないでしょう。ですが野々氏が来たことが様々な事象のきっかけになったのではないか、とは言えるわけで」
　あいかわらず貴子は半信半疑、いや、信のほうが二割で残りぜんぶ疑みたいな顔をしているが口は挟まない。
「たとえば古来より日本では様々な怪奇現象を妖怪などで説明していたけど、それが実は全く別のモノだったとなればどうでしょう？」
　今日の解理は白衣ではないけれど、白衣の前をばっとはだけるようなアクションとともに声を上げる。
「あくまで寝子島という小さい範囲ではありますが、それでもこれまでの歴史がくつがえるような発見にもつながるんじゃあないでしょうかッ」
「ちょ……声が大きい」
　しっ、と貴子は唇の前に指を立てた。
　たしかに、店内は空いているが、解理のただならぬ様子は人の注目を集めていた。
「失礼しました」
　思わず立っていたので席に戻り、解理は小さく空咳をした。
「どちらか単体でなら誰かが調べてるだろうし同年代で僕より詳しい人間ならゴロゴロいると思います。でも」
「……でも、そのふたつを比較することをやっている人はいない、と考えるわけね」
「さすが貴子さん。ひょっとして僕の考えを読みました？」
「それくらい文脈から想像つくでしょ。まあ斬新だとは思うよ」
「でしょう？」
　斬新、という言葉に解理は光明を見たように思う。
　といっても不安はある。
　猫型有識者。
　これは解理的な表現であり、要はテオドロス・バルツァ（テオ）のことだ。
　あまり深入りするとあの猫が出てくる可能性がある。といっても、よほどのことでもない限りスルーするとは思うのだが。
　解理はふたび計画表を広げ、結論部分を指し示した。　
「ということで、落神が関わってるであろう昔の資料と、最近のろっこん絡みの事件を探すことから始めようと思ってるんですよ、貴子さん」
「ずっとこういうことを考えてたわけね、伊賀さんは」
　なるほど、と言うように貴子は口にして自分の紅茶を飲み干した。
「前にご両親の話をしたときから」
　静かに貴子は息を吐き出した。言い方から感情は読めないが、まさか怒っているのではないかと解理は危惧する。
「いえ秘密にしてたわけじゃなくて、ちゃんと僕の考えがまとまってから全部言ったほうがいいかなと思いまして……」
　それでも相談くらいしてくれたって、と責められるかと思いきや、貴子は微笑を浮かべてこう言ったのだ。
「それが伊賀さんらしいと思うわ。正直私には理解しきれないところがあるけれど、それだけ情熱を注げる研究であれば、ご両親にもわかってもらえると思う」
　褒めてもらえた！　貴子が認めてくれるのであれば百人力だ。　
「はい。せいぜい興味本位レベルだった落神伝説も、こう考えると割と本腰入れて調べてみるのも面白そうだと思いました」
　大切なのは情熱――両親に伝わってほしいと思う。
　でも伝説について調べるのも、その調査のため島に残りたいと主張するのも、解理にとって究極のところ目的はひとつだ。
　貴子さんと離れたくない。
　寝子島に残れば、貴子さんの近くにいられる。シンプル・イズ・ベスト、それが根本的な本音なのだ。
　そのためだったらと解理は思う。
　そのためだったら、『もう浪漫でいいんじゃね？』と現実逃避したくなる理屈づけの苦労だって逃げずにやってやるさ！
　そんな解理の心中を知らぬ様子のままに、
「ところでケーキでも頼まない？」
　と貴子は言った。