Real Thing Shakes｜リアクション

Real Thing Shakes

「おっ、はじまった」
　ののこが手を叩いた。
　昔の映画特有の、なにやら大仰な作品ロゴが画面に躍る。
「本当は映画館で観るほうが、画面や音響の迫力が段違いだしお薦めなんだけど、こうやって自室で観るぶんには解説とか雑談もできるし、これはこれでいいかもしれないね」
「だよねー、ツッコミどころを指摘したり」
「低予算なのでそこは目をつぶって！　とか言ってみたり」
　あははと笑いあう。
　やがて画面に、頭とアゴが鋭く尖った銀色のロボットが登場した。般若の面のような顔つきもふくめ、当時の尺度はもちろん、現在の目で見ても相当に攻めたデザインだ。けれど怖さはなく、正義のヒーローという安心感もある造形だった。つまり味があるということだろう。
　これを楽しみにしていたらしく、
「出た！　ジェットニャガー！」
　早々にののこは拍手喝采した。ロボットと同じポーズまで取っている。
「ジェットニャガーが出てくる映画はこれ一作だけど、ジェットニャガーは国内はもちろん海外でも根強い人気があって、最近でも新作フィギュアが出てるんだよ」
「気持わかるなー。私も好きだもん」
　映画のストーリーはかなり単純だ。善悪がはっきりしていて安心感がある。
　だからこれは、頭からっぽにして観るのが正解かな。
　しみじみと英二は思うのだった。
　ゴアラもシリーズ初期や近作のように恐ろしい容貌ではなくギョロ目で愛嬌がある顔立ちだし、悪の怪獣も多少おっかないとはいえ、子どもの好きなものを合体させたようなユーモラスな要素のほうが強い。
「うわー、ゴアラがVサインしたー」
　かわいい、とののこが笑った。
「この時代のゴアラならではだね。ヒーローっぽくって賛否両論なんだけど僕は大好物だな」
　クライマックスは肉弾戦だ。善悪それぞれの陣営で怪獣やロボが二体ずつのチームを組み、プロレスのタッグ戦みたいなバトルを繰り広げるのである。
　どっすんばったんと騒々しく、しかもCGなんてない時代の作品だから着ぐるみ丸出しだ。それでも一生懸命エンターテインメントに徹しているところは間違いない。
　短い映画なので退屈する暇もなく終わり、よかったよかったとののこは満喫した風に言った。
「楽しかったなあ。私、子どもっぽいかもしれないけどこういうのが好きだよ」
「シリーズをつらぬく『反核』というメッセージはこの映画にももちろんあるんだけど、深刻になりすぎず楽しめるのがいいよね」
　好きなもののことになると、つい饒舌になってしまう。どんなところにメッセーがひそませてあったか、ということを英二が思い入れたっぷりに説明すると、ふんふんとののこは一通り聞いて最後に、
「それで次は何を観ようか？」
　と訊いてきた。
「え？　次？」
「うん、またいつかここでこうして英二くんと観たいな。映画」
　一枚ポテチを手に取って、ぱりっと一口してからののこは照れくさそうに言ったのである。
「だめかな……？」
　長い睫毛を伏せ気味にしている。
　かわいい。
　英二の心臓が激しくひとつ、高鳴った。
　小動物的なかわいさと言いたいところだが、本音を言えば本当に、女性として魅力的だと思った。
　もちろん彼の返事は、
「喜んで」
　だ。
　そのときまでにヨーロッパのホテル風味の珈琲、また用意しておかなくちゃね。

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