空飛ぶ秘密｜リアクション

空飛ぶ秘密

　千鳥雅人と雨崎荒太郎はシーサイドタウン駅近辺に買い物に来ていた。
「こーたろーくん、次駅ビルの方行ってみない？」
　千鳥のあほ毛が楽しげにぱたぱた揺れている。
「いいよー、ちょっとのど渇いたー」
「じゃぁ、何か飲もう……か？」
　ご機嫌に揺れていたあほ毛が疑問を表す？マークに形を変えて、千鳥はぼうっと空を見上げる。
「まさとくん？　どーしたの？」
「こーたろーくん、紙って空、飛んだっけ？」
　あれ、と指差す先を振り返れば、ごく自然に紙類が空を飛んでいた。
「へ？　な、なんじゃありゃー！！？」
　自由気ままにふわふわ、ひらひら、パタパタ飛んでいるのは、明らかに桃色系そうな光沢のある雑誌、封筒、スナップ写真と思しき複数の紙片、スケッチブックに漫画原稿、ハードカバーの本に、ファイル、そしてなぜだか高額紙幣。
「うわぁ……すごいねぇ」
　暢気な千鳥の言い様に突っ込むべきか、この異常事態に突っ込むべきなのか。
　判断に迷った雨崎の目の前にひらひらと一枚の紙が下りてきた。
「写真？」
　内容までは見えなかったが、独特の光沢ある長方形の紙に思わず手をのばす。
　空を飛ぶのに疲れた訳でも無いだろうが、その写真はあっさりと雨崎の手に収まった。
　なになに、と千鳥が手元を覗き込んでくる。
　何気なくぴらりと裏返してみると。
「ふあぁぁあ！？」
　ぼんっ！　と千鳥のあほ毛が爆発したように逆立った。
「……これって」
　印刷面には頬を染めて御幣を胸に抱き、今にも泣き出しそうな恥ずかしさに唇をかんでじっとこちらを見つめる（見る人の趣味によってはとてもクル表情の）年若い巫女が鳥居の前に佇んでいる。
「まさとくん？」
「ち、ちがうのっ！　こーたろーくん」
　違うも何も、写真のいたいけな巫女と千鳥はそっくりである。
　というか、明らかに同一人物だ。
　雨崎の目から写真を隠そうと、千鳥はわたわたと手を写真に伸ばすが今更である。
「じ、実家で無理やりっなんでこんな所にー！」
　パニックを起こした千鳥のあほ毛が、猫の尻尾のようにふくらんだままじたばたと動き回っている。
「えっと、まさとくんの、だよね？」
　違うと言いたい。
　だが、ちょっと困ったように眉を下げた友人に嘘がつけず、千鳥は小さく頷いた。
「昔、無理やり撮られたので、俺の趣味とかじゃなくてっ」　
　あわあわと説明する千鳥の声がうるさかった……訳でもないだろうが、雨崎の手の中で写真が暴れだした。
「わっ」
「ええっ」
　するりと雨崎の手から抜け出すと写真はあっという間に飛び立ってしまう。
「わわっ待ってよー」
　千鳥の声は泣きそうだ。
「おいかけよう、まさとくん」
　キャットロードへ飛び立った写真を、二人で追いかける！

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