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- 00月00日生 00歳
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雪に願いを。／This bird has flown
どうしよう、私のせいだ……！
真白は奥歯を噛みしめた。
また紅があの状態に入ってしまった。彫像のように立ち尽くし、雪の降る空を見上げて足を止めている。
目は見開いたままだ。まばたきだけはかろうじてしている。
これまで紅は徐々に言葉少なになっていき、ふっとこの状態に落ちてしまうのが常だった。それを考えればパターン通りとも言える。
けれど今回のはひとりでにそうなったんじゃない、私が招いたんだ。
真白は拳を握りしめた。
私が質問して、心を閉ざさせてしまったんだ。
人通りはそれほどないとはいえ、場所は往来のまんなかだ。突然立ち尽くす少女に気がついて、不思議そうな顔をしている通行人がいる。
「紅ちゃん……紅ちゃん……！」
黙って見ているわけにはいかない。真白は紅の肩をつかんで前後に揺すった。強くではない。眠っている子どもを起こす程度に。
「……え？」
真白は胸をなで下ろした。
ひどいときはどんなに呼びかけても三十分は返ってこない紅が、このときはすぐに呼びかけに応じたからだ。
いくらか落ち着いてから、真白は紅におそるおそる尋ねた。
「いきなりぼーっとしだしたから驚いたよ。もしかしてそうなってる自覚……ない？」
「なんの話？」
間違いない。紅は自分の状態を理解していないのだ。
「うーん、なんなんだろうね……」
考えごと、という漠然とした訊きかたが難しかったのかもしれない。
真白は問い方を変えてみた。
「不安だったり、嫌な気持ちだったりしてること、ある？ ほら、たとえば過去のこととか、将来とか家族のこととか」
紅はまた足を止めて空を見上げて、その向こう側を見透かすような目をしていたがやがて、ぽつりと言った。
「私さ……昔、援交狩りやってた」
歩き出す。
「……当時の塾の仲間たちとね。エンコー掲示板にエロオヤジ呼び出してボコボコにするやつ。こっちが子どもだって知っても平気で、いやむしろ喜んで買いに来るようなジジイどもだよ。腕とか足とか折っても、まったく悪いと思わなかった。カネを取ったりもしなかったから、どっちかって言うと正義の味方くらいのつもりだったし」
だけどね、と付け足す口調が寂しげだった。
「あとからわかったんだけど、車出したりして『狩り』に協力してた塾講師がさ、オヤジどもの財布からカネ、こっそり抜き取ってたんだよね。これって強盗じゃん」
事件は露呈し講師は逮捕されたらしい。未成年ということもあって紅たちは刑罰を免れたという。
だがこのことが、紅つまり芋煮 紅美の人生に大きな影響を及ぼしていることは想像にかたくない。
「そう……」
一拍おいて真白は言った。
「後悔してる？」
してる、と紅はこたえた。
「今でもあのてのエロオヤジは死ねばいいと思ってるけど、私のやったことはまちがってた」
真白は気付いている。すでに紅が、過去の彼女へと戻っているということに。
真白は音を立てず一度だけ大きく息を吸い、静かに吐き出して言葉を続けた。
「私としては、後悔はしてもいいけどそのことばかりに囚われない方がいいかなって思う。後悔しても昔は変えられないし、やる前には後悔するかなんてわからない」
紅にだけ語っている言葉のつもりはない。真白は真白自身にも言い聞かせているつもりだ。
「でも、そのことがあったから今ここにいるって思えば、少しは楽になるんじゃないかな――」
「そうかも」
紅は微笑した。最近の紅ではなく、かつての彼女の表情で。
「あと将来のことも不安。これでも前は成績良かったんだよね。私立のすっげーいい学校行くはずだったし……それなのに失敗しちゃって、引きこもりになって……」
「将来かぁ」
デリケートな話題なので、真白も言葉を選ぶようにして話す。
「私もちゃんと考えられてるわけじゃないからなぁ」
そういえば紅につきあってこのところ高校はサボり気味だ。
そのことは置いておこう。紅から『将来』という言葉が出たことそのものを評価したい。
「でもそうやって先のことを考えることそのものはいいことだと思う。自分がどう変わりたいのか自分で決めたいってことだから。ゆっくりでいいから考えていこう」
そしてこう締めくくる。
「よかったら私も一緒に。私は、一緒にいたいって思ってるから」
「ありがとう」
と回答したところまではかつての紅だった。しかしそれも間もなく終わる。
「ところで今日の晩ご飯は何にしよう？」
ふたたびあどけない表情で紅は言ったのである。
「私はピザがいいな。ね、ピザ取ろうよ」
真白は何か言いかけたが飲み込んで、うんと明るくこう返事したのだった。
「うん、そうしよう！」
また雪が降りだしていた。
真白は奥歯を噛みしめた。
また紅があの状態に入ってしまった。彫像のように立ち尽くし、雪の降る空を見上げて足を止めている。
目は見開いたままだ。まばたきだけはかろうじてしている。
これまで紅は徐々に言葉少なになっていき、ふっとこの状態に落ちてしまうのが常だった。それを考えればパターン通りとも言える。
けれど今回のはひとりでにそうなったんじゃない、私が招いたんだ。
真白は拳を握りしめた。
私が質問して、心を閉ざさせてしまったんだ。
人通りはそれほどないとはいえ、場所は往来のまんなかだ。突然立ち尽くす少女に気がついて、不思議そうな顔をしている通行人がいる。
「紅ちゃん……紅ちゃん……！」
黙って見ているわけにはいかない。真白は紅の肩をつかんで前後に揺すった。強くではない。眠っている子どもを起こす程度に。
「……え？」
真白は胸をなで下ろした。
ひどいときはどんなに呼びかけても三十分は返ってこない紅が、このときはすぐに呼びかけに応じたからだ。
いくらか落ち着いてから、真白は紅におそるおそる尋ねた。
「いきなりぼーっとしだしたから驚いたよ。もしかしてそうなってる自覚……ない？」
「なんの話？」
間違いない。紅は自分の状態を理解していないのだ。
「うーん、なんなんだろうね……」
考えごと、という漠然とした訊きかたが難しかったのかもしれない。
真白は問い方を変えてみた。
「不安だったり、嫌な気持ちだったりしてること、ある？ ほら、たとえば過去のこととか、将来とか家族のこととか」
紅はまた足を止めて空を見上げて、その向こう側を見透かすような目をしていたがやがて、ぽつりと言った。
「私さ……昔、援交狩りやってた」
歩き出す。
「……当時の塾の仲間たちとね。エンコー掲示板にエロオヤジ呼び出してボコボコにするやつ。こっちが子どもだって知っても平気で、いやむしろ喜んで買いに来るようなジジイどもだよ。腕とか足とか折っても、まったく悪いと思わなかった。カネを取ったりもしなかったから、どっちかって言うと正義の味方くらいのつもりだったし」
だけどね、と付け足す口調が寂しげだった。
「あとからわかったんだけど、車出したりして『狩り』に協力してた塾講師がさ、オヤジどもの財布からカネ、こっそり抜き取ってたんだよね。これって強盗じゃん」
事件は露呈し講師は逮捕されたらしい。未成年ということもあって紅たちは刑罰を免れたという。
だがこのことが、紅つまり芋煮 紅美の人生に大きな影響を及ぼしていることは想像にかたくない。
「そう……」
一拍おいて真白は言った。
「後悔してる？」
してる、と紅はこたえた。
「今でもあのてのエロオヤジは死ねばいいと思ってるけど、私のやったことはまちがってた」
真白は気付いている。すでに紅が、過去の彼女へと戻っているということに。
真白は音を立てず一度だけ大きく息を吸い、静かに吐き出して言葉を続けた。
「私としては、後悔はしてもいいけどそのことばかりに囚われない方がいいかなって思う。後悔しても昔は変えられないし、やる前には後悔するかなんてわからない」
紅にだけ語っている言葉のつもりはない。真白は真白自身にも言い聞かせているつもりだ。
「でも、そのことがあったから今ここにいるって思えば、少しは楽になるんじゃないかな――」
「そうかも」
紅は微笑した。最近の紅ではなく、かつての彼女の表情で。
「あと将来のことも不安。これでも前は成績良かったんだよね。私立のすっげーいい学校行くはずだったし……それなのに失敗しちゃって、引きこもりになって……」
「将来かぁ」
デリケートな話題なので、真白も言葉を選ぶようにして話す。
「私もちゃんと考えられてるわけじゃないからなぁ」
そういえば紅につきあってこのところ高校はサボり気味だ。
そのことは置いておこう。紅から『将来』という言葉が出たことそのものを評価したい。
「でもそうやって先のことを考えることそのものはいいことだと思う。自分がどう変わりたいのか自分で決めたいってことだから。ゆっくりでいいから考えていこう」
そしてこう締めくくる。
「よかったら私も一緒に。私は、一緒にいたいって思ってるから」
「ありがとう」
と回答したところまではかつての紅だった。しかしそれも間もなく終わる。
「ところで今日の晩ご飯は何にしよう？」
ふたたびあどけない表情で紅は言ったのである。
「私はピザがいいな。ね、ピザ取ろうよ」
真白は何か言いかけたが飲み込んで、うんと明るくこう返事したのだった。
「うん、そうしよう！」
また雪が降りだしていた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2020年06月27日
- 参加申し込みの期限
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- 2020年07月04日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2020年07月04日 11時00分
