雪に願いを。／This bird has flown｜リアクション

雪に願いを。／This bird has flown

　季節外れのボーナスのような週末だった。
　朝衣が遥人と過ごした時間はそれほどに充実していたのだ。
　これまでないほど濃密に愛し合い、骨まで溶けそうなほどくつろいだ時間を過ごした。たくさん話もした。ここ数週間の騒動をたっぷり話して、自分のなかで一連の出来事を整理することもできた。
　日曜の午後まで、最低限必要な買い物以外は外出しなかった。そもそも外出など考えもしなかった。
　遥人は打ち合わせを短くすませたので、結局朝衣は月曜の朝まで彼の部屋ですごしたのだった。
　かくして、帰路についた朝衣の足取りは軽い。
　もし外が無人なら、傘を片手にくるくると回りたいくらい。そのまま浮き上がって空を飛んだとしても、まったくおかしくないだろう。
　雪は降る。一昨日ほどではないが散発的に降りつづけている。
　いまはこの雪が愛おしい。おかげで遥人と再会できたのだから。それもあんなにドラマティックに。
　遥人が部屋で流していたオーストラリアのロックバンドの曲、その一節を鼻歌しつつ川沿いに歩いていて、河川敷になにか大きな物が落ちているのに気がついた。
　なんだろう。
　ふわふわした気分はたちまち消し飛んだ。
　あれ……人だよね！？
　少しずつ近づいていた朝衣だが、そうと気がついたとたん駆け足になっていた。赤いレザーコートを着た女性だ。橋桁のそば、白い雪のただなかに倒れている。
　高校生、いや中学生だろうか。けれども服は大人びていた。
「大丈夫ですか！」
　朝衣の声はうわずった。少女が真っ赤な唇をしていたから。
　口紅じゃない。血だ。血の泡が浮かんでいる。口から血を流しているのだ。
　少女は口をぱくぱくと開け閉めしていたが、顔を近づけると何か言おうとしているのだとわかった。
「た……れた……」
「えっ！？」
「……撃た、れた」
　朝衣は視線を落とす。
　少女のコートをめくって、それが嘘ではないことを知った。赤いコートだから気付かなかったのだ。下に着ている白いセーター、そのわき腹にべったりと赤黒い染みがついている。
　パニックを起こしそうになるのをこらえ、朝衣は震える手で携帯電話を取りだした。二度取り落としたが三度目でようやく電話をかけることができた。
　救急車が到着するまで、朝衣はずっと少女の手を握っていた。
　
　朝衣も救急車に同乗した。少女が救急車に運び込まれる前に、少女のコートから転がり落ちたものを拾う。
　ふたつあった。いずれも電話だ。
　携帯が二台――？
　最新型のものと、それより少し型落ちする古いもの。
　救急車に同乗しながら、悪いと思いつつ手にとって調べた。彼女の身内に連絡しなければならない。
　ショッキングピンクのケースに入った最新型のほうはロックが外れなかった。
　古くてもっと地味なほうはロックがかかっていなかった。
　しかし登録されているデータは二件だけだ。
　ひとつは『プロムナード』という名称、固定電話だしおそらく店だろう。美容室だろうか。
　もうひとつは、女性らしい女性の名前だ。友達だろうか。
「これって、あさ……とり……って読むのかな」
　我知らずつぶやいていた。
　少女には尋ねようがないだろう。少女は救急隊員に応急手当を受けており、すでに意識を失っている。
　その『少女』がまみ子という源氏名のキャバ嬢で、自分より歳上だと朝衣が知るのは先のことである。

　――『雪に願いを。／This bird has flown』了

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　桂木京介です。ご参加ありがとうございました。

　今回は『雪』という言葉をたくさん書きましたね。
　それぞれの雪景色、雪模様、楽しんでいただけたでしょうか？　ぜひご意見ご感想をお寄せ下さい。

　今回ラスト、あるNPCがこういう事態におちいりました。
　実はこのキャラの生死は定めていません。次回『死ぬ』というアクションが来れば死亡し『死なない』というアクションが来れば生き延びると思います。両方来なければ……まあなりゆきで決めておきますね（汗）。

　それでは近いうち、新たなシナリオでお目にかかるのを楽しみにしています。
　桂木京介でした

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