雪に願いを。／This bird has flown｜リアクション

雪に願いを。／This bird has flown

　ああ――。
　まさか天候が、志桜里の挑発に乗ってきたとでもいうのか。
　寒さはますます増すばかり。雪はますます降るばかり。風の勢いまで容赦ない。
　降るわ吹くわ、ヘルメットの向こう側は雪嵐だ。荒れ狂っている。
「最高だね！」
　志桜里はもう笑うしかない。
　気温に風を足しさらに直撃を浴び続けている雪を足す……いや、掛ける！　最高にお寒い状況じゃないか。走りながら凍りついて、単車乗りの氷像になってしまってもおかしくはない。
　じゃあアクセルを戻すか停車するか？
　そんなことはありえない。
「おかげかなんだかテンションがブチ上がって来ましたわァァァ！！」
　そればかりか志桜里はさらに加速した。これぞ自由というもの。
　風雪の荒野を飛ぶ黒い矢のように、直線コースを爆走する。
　もうクルーズなんていうものではない。その言葉からふたまわりは速いスピードだ。
　いっそ、雪と灰の別がなくなるまでこの中を走り続けたい！
　昔日の武将の言葉に『願わくば我に七難八苦を与えたまえ』というものがあるという。その将の心境は今の、志桜里の心境に近いものがあったのではないか。
　視界は不明瞭、でも道ははっきりと見えている。
　それだけで十分だ。
　周囲の情景はかすみ、ゆがみ、溶けだして雪の白と空の灰と渾然一体となっていく。
　我知らず志桜里は口ずさんでいた。
　即興のリリック。エンジン音がビートを刻む。
「違法合法問わないトビ方　心得たヤンチャ　要は天衣無縫厭わない乗り方　まさに悪ノリ
　そんなworldに居るのが良いのは餓鬼のうち　って言われるに決まってる？　うるせぇ今はキマってる　
　だから止めんな　ゴメンなaからiからyからoへ紡ぐ歌詞から折り重なるbeatに乗り高まる快感　ライカMs.Fahrenheitやっぱ止まれない
　支離滅裂？　でも支持熱烈それがM.C.440Reマジ神懸かり」
　ライミングは完璧だ。聴く者がないのだけが残念だ。
　いや待ているじゃないかここに。
　反抗者で共犯者で志桜里の愛車、最強最狂のDJが。