古今東西スーパーレキシ的ジンブツかるた大戦｜リアクション

古今東西スーパーレキシ的ジンブツかるた大戦

　そのころ、選手の待機場所では……
「この紋所が目に入らぬかー！」
　葵の紋の印籠を見せる野々ののこ。周りも「ははぁーっ」と付き合ってみせる。
　ののこが助さん、雨宮草太郎校長が水戸黄門を演じる。
（えーと、格さんはこの時なんて言うんだっけ？）
チーム「水戸黄門」の格さんに扮するのは２年の佐藤英二。歴史的人物……というより歴史的人物を元ネタにした時代劇なのだが、細かいことは気にしない。
　英二にとって、１年生の時のクラスメイトだったののこは少し気になる女の子だ。彼女と一緒にチームになろうと、思い切って誘ってみた。黄門様の役は、見た目からして適役の校長先生にお願いすることにした。
「がんばりましょう、格さん！」
　助さんになりきっているののこが英二に声をかける。こういう時の明るい笑顔を見るのが好きだ。
「うん、一緒にがんばろう！」

　向かい合う八重崎五郎八と大田原いいなの間にあるのは、張り詰めた静寂のみだった。
（場数は五郎八部長……もとい前部長の方が上じゃ。決まり字とか札の配置とかを頭に叩き込んで、せめて知識面では互角にして勝負に出るのじゃ）
　緊張感で、いいなの手が心なしか震える。
（げ、餞別に勝たせてあげよう、とか思えないくらいガチでガッチガチ……）

　めぐり逢いて　見しやそれとも　わかぬ間に
　雲隠れにし　夜半の月かな

　最初に読まれたのは、奇しくも紫式部の歌。そして「め」一文字を聞いただけで取れる「一字決まり」の一つだ。
　スパーン！　と小気味よい音を立てて、五郎八の払い手が一閃する。
（て、手加減なしじゃぁ！）
　そう、五郎八に手抜きする気は一切ない。これからの部を背負って立つ新部長に花を持たせる……などとは考えない。
（持っている技術はすべて駆使するわ。ちょっとでもあなたが気を抜いたら、大差をつけて勝つつもりよ）
　五郎八の気迫を感じ取り、いいなは思わず息を飲み込んだ。
（これは辛勝を狙うくらいで行かないと……）
「私だって、潜り抜けた修羅場の数はそれなりにあるのよ。負けてらんない！」

　夜をこめて　鳥のそら音は　はかるとも
　世に逢坂の　関はゆるさじ

「取ったぁー！」
　いいなが五郎八の懐に飛び込むように手を出し、清少納言の歌を確保する。
（食らいついてくるわね。いい勝負になるわ。いいなちゃん、二年間で成長したわね……）
　後輩の成長を喜びつつ、五郎八はさらにギアを上げていく。五郎八がやや優勢ながら、いいなもなかなか崩れず、好勝負のまま終盤にはいった。
　
　ちはやぶる　神代も聞かず　龍田川
　からくれないに　水くくるとは

　お互いほぼ同時に手を出し、札が勢いよく飛んでいく。審判の判定は――「八重崎五郎八」。３枚差、五郎八の辛勝だ。
「ありがとうございました」
　両者が礼をして、試合終了となる。五郎八がいいなに手を差し伸べた。
「ん、お疲れ様……いい勝負だったよ」
　必死の勝負に息の切れかけているいいなも、応じて手を取った。
「ひい、はあ……し、辛勝ならぬ辛負、っていうのかな。お、お疲れ様でした」
「それを言うなら惜敗でしょ。それじゃ歌留多倶楽部、任せたね」
　すべてを出し切って「敵」から「仲間」に戻った二人は、さわやかにハイタッチを交わした。