古今東西スーパーレキシ的ジンブツかるた大戦｜リアクション

古今東西スーパーレキシ的ジンブツかるた大戦

　人はいさ　心も知らず　ふるさとは
　花ぞ昔の　香ににほひける

「……ここは違ったか」
　佐藤英二は、教室の黒板のチョーク入れの引き出しをしまった。札は入っていたが、目標のものではなかった。やがてスピーカーから効果音が聞こえる。ほかの場所で取られてしまったようだが、さっき見つけた札の内容は、後で役立つので覚えておく。広い校内とはいえ、ヤマを張るだけだと心もとない。
「野々さん。『いにしへの……』の札を見つけたよ。２年５組の黒板のチョーク入れ。一緒に覚えておいて」
　野々ののこが英二の指示を聞くが、暗記は自信がなさそうだ。
「ありがとう、英二く……格さん。覚えられるかなぁ……」
「もちろん、僕も暗記しておくよ。自信があるから安心して」
　ののこに頼られることを内心うれしく思いつつ、英二は探索の手を止めない。
「小さなものを隠しやすい場所を探そう。スピーカーの上、黒板消しの下、それから壁の絵やポスターの裏側とか……」
　その矢先、次の歌が放送される。

　いにしへの　奈良の都の　八重桜
　けふ九重に　にほひぬるかな

「さっきのだ！」
　英二とののこは目配せすると、ついさっき探したばかりのチョーク入れを開け、札を取り出した。
「よし、一枚確保……」

「いったいどこ？　どこにあるのー！」
　初瀬川理緒は、イライラが最高潮に達してきた。相変わらず機動力が皆無の人魚姫の衣装では無理もない。
「校内全部……今度は普通の札だけど、探すのは大変ね。それでも、大きな札を運ぶよりはましかもしれないわ」
　白雪姫の佐和崎紗月がひとりごちた。眠り姫の串田美弥子も一緒だ。

　難波江の　蘆のかりねの　一夜ゆゑ
　身をつくしてや　恋わたるべき

「さっき見つけた札だよね」
　美弥子に言われて、紗月もうなずく。確か、北校舎にある校長室前に飾られていた花瓶の陰にあった。急いで戻ると、幸い残っている。
「もー！　全然前に進まない！　これじゃ探せないよー」
　人魚の尾びれで飛び跳ねながら、理緒が駄々をこねはじめた。
「まあまあ理緒ちゃん。少しは回収できてるわ。今はスピード優先じゃないから、落ち着いていきましょう」
　紗月がなんとか理緒をなだめる。この状態で、何枚か取れているのが不思議なくらいだ。

　思ひわび　さても命は　あるものを
　憂きに絶えぬは　涙なりけり

「もうやだ！　あたしちょっと休憩するわ」
　理緒は、来客用のふかふかのソファに寝そべってしまった。
「一回ここ使ってみたかったのよね。……あれ、下に何かある？」
　ふと、理緒は何かに気づいたように、クッションの下をまさぐった。
「ラッキー、本日二回目……」