心残りを食い尽くせ！｜リアクション

心残りを食い尽くせ！

さて。杞憂成海も餅を食べるついでに、お年寄りの話を聞こうと、やって来た一人だ。
　こちらは更に用意周到。
　より色々な話を聞きだすためにも、気に入ってもらおうと、餅の搬入からせっせと手伝った。
　しかし……ボーイッシュでよく少年と間違えられる成海であるが、やはり女の子である。
「今の子は非力じゃのう」
　トシゾーが顎を撫でながら無責任に言い放つのに、言い返せずぐったりとするばかり。
　それでも頑張って、包丁を握り締め、料理を手伝ってはいたのだが。
　具材をまな板に押さえつけ、おかしな角度でガタガタと切り分けているのに気づいて、雪見大福と荒海藤吾がほてほてやって来て、手伝いを申し出た。
「よろしく。料理……は出来る、方だと思うけど。あんまり期待しないでな」
　口ではそう言っているが、大福の手つきはよどみなく見事なものだ。
「ていうか。なんだ、その切り方。それに、切る時は肉は後だろ」
　親と共に、世界を旅していたという藤吾も、成海のやりように苦言を呈す。
「こ、これは僕の郷土の切り方だっ！」
　負けず嫌いの成海は、思わずそう切り返すが。
「……で、でも。一般的な切り方も、興味があるぞ。教えてくれ！」
　そっぽを向いて唇を尖らせてるくせに、横目で藤吾と大福をチラッチラ！
　その目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
　藤吾と大福は顔を見合わせ、笑ってしまった。
　
「そうだ、白味噌とすまし、どっちがいいんだろ？」
　成海に包丁捌きを教えながら、大福は周囲を見渡す。
　どうやらすましを作っている者が、圧倒的に多い。
　関東だけに、需要としてはそっちなのだろうか。
「皆と同じものを作るよりも、白味噌の方が目新しくてウケルかもしれないぞ？　地方から寝子高受けた奴も結構いるし」
「ふむ……」
　考えあぐねた大福は心の中で謝りつつ、愛用のヘッドフォンをしたまま目を閉じる。
　ろっこん『リスニング』で、皆の心の声に耳を傾けた。

「……。あの、で、電子レンジでお餅を焼く網、ありますか…？」
　そう美星に尋ねたのは、笛吹音花だ。
「電子レンジ？　オーブンの事だよね」
　電子レンジに金物を入れたら、スパークしてしまう。
　小首を傾げる先輩に、音花はうろたえる。
「うう……す、すみません……じ、実家ではあまり、料理をしたことが無くて……。か、家庭科の授業くらいでしか……」
「あらあら。じゃあ、私と一緒に作ろうか？　材料も私が前に買いこんで、ストックしておいたものが一杯余ってるし～」
　耳まで赤くなって小さくなる後輩に、美星は実の姉妹のように、問題ないと優しい笑みを向ける。
「ほ、本当ですかっ。……ありがとうございます、よろしくお願いします……！」
「うふふ、たくさん作るよ～。まず磯部でしょ、そして出汁が決め手のお雑煮。あまーくとろけるあべかわ餅にお汁粉。チーズとの相性抜群もちピザ！　おろし醤油でさっぱり和風な揚げ出し餅」　
　食材の一つ一つを指差しながら、美星。
　美星が動くたびに、なんだかフローラルないい香りがして、安心すると同時にちょっとほわんとしてしまう。
「わぁー……、たくさんですね」
　こんなに作って、食べきれるでしょうか？