心残りを食い尽くせ！｜リアクション

心残りを食い尽くせ！

●よーしわかった、あした俺ちょっと早く起きて、桜花寮に行ってくる

　桜の見頃を僅かに過ぎ、その日は眩しくも柔らかな日差しに包まれていた。
　桜花寮の寮母トシコの願いを受け、如月庚の呼びかけで集まった男子生徒達。
　普段は立ち入る事の許されない女子寮を見上げて、思わず立ちすくんだ。
　今日、自分達は間違いなくここに呼ばれたはずだが……。
　入ったらいきなりつまみ出されたりしないよな？

　屍骸も、そんな不安を抱く一人。
　しかし気持ちは、自然と舞い上がり。
　つい乙女の園に漂う、心なしかいいにおいの空気を、胸いっぱい吸い込んで肺を満たしてみたりする。
「先輩？　体調でも悪いのかい」
　贔屓の店で買い込んで来た野菜や、お茶を腕に抱えた御剣刀は、怪訝顔。
　骸は、ぐりんと上半身だけをひねって刀に振り返ると、一気にまくしたてた。
「いや、一部っつっても女子寮を開放しちまうのは、ちょいとばかし男子には刺激がつえーだろ？　別に俺が非モテ男子で女っ気が全くねぇからとか慣れてねぇからとか、そんな事じゃねぇぞ？　いち健康な男子として……ドキドキがワクワクになっちゃって、オーバードライブっちゃうヤツが出て来てもおかしくねぇよな？」
　健康かどうかはさておき。
　いくら骸が痩せこけて、死体然とした見た目をしていても、生きているんだもの。
　花も恥らう年頃の少女達の生活空間を前に、舞い上がってしまうのは、ある意味仕方がないと言える。
　刀はそんな骸を凝視し。骸が女子の事を気にしているのは、女の肉の方が柔らかくてウマイから気になるのだろうか、とちょっと思った。
　が、さすがに失礼なその考えを、どうにか振り払った。
「おい、こんな所で立ち止まるなよ。先輩も、後がつかえてるんスから」
　庚に促され、骸が日向を避けるように歩きはじめ、他の男子生徒も意を決したように、ゾロゾロと女子寮の敷地内に足を踏み入れた。
　青春だねぇ。
「りぃちゃーん！」
　出迎えに来た高尾日菜が、向こうで手を振っている。
「そうです、時は金なりですよーっ。さあさ、皆さんレッツゴー☆」
　今日も完全無欠の可憐な美少女ぶりを発揮している葛城璃人は、仲良しの日菜の姿を見つけると、自分も高く手を上げて振り返した。
「お待たせー、今いきますよーっ！」
　ふんわりと優しい風合いのスカートを揺らして、璃人は足取りもかろやかに、皆を追い越して行く。
　性別と言う現実を気にしなければ、まことに美しい。
　日菜と璃人は、ピンクの濃淡で色違いのお揃いの、桜のシュシュをしている。
　どちらからともなく自然に手を繋ぐと、陽だまりでたわむれる小鳥のように調理場へ向かった。

　時間は正午より、一時間ばかり早い。
　丁度、小腹が空いた頃だ。
　すぐに取り掛かれば、磯部や簡単なものはすぐにでも食べられるだろう。
「まあ、慌てる必要はないが」
　庚は一旦先に来て、調理場に餅の搬入を手伝ったから知っている。
　餅は大量にありすぎた。
　何も知らず、期待を胸に調理場に向かう仲間たちの背中を追いながら、肩をすくめる。
「何だか面倒事押しつけられちまったが……まあいい。折角タダで手に入った物だ。何とかするか」

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