【ゲーマーゆえに】

　史越 奈津樹と鴻上 彰尋の関係……知り合いの友人同士。
　と書くと字面はいささかサミシイものの、実のところふたりは案外、しゃべれる仲だったりします。
「いいですね、シネマカフェ！　連れてきてくれてありがとうございます、あっきー先輩」
「気に入ってくれて良かったよ。まあ今日は休みだったけど……」
　『クランク・イン』は本日休店日。とはいえお店で上映する映画を選んでほしい、なんて特別なイベント？　に出会えたのも、ある意味では幸運と言えましょう。
「こういうのも楽しいですよ。好きな映画を選べるなんて、いいじゃないですか」
　奈津樹は地下倉庫にずらり並んだ映画たちを前にそわそわしていて、いてもたってもいられない！　といった感じ。彰尋は苦笑いしながらも、彼とより深く打ち解けられそうで嬉しく思います。
「あれ？　稲積さん」
「史越君も来てたのね。こんにちは」
　稲積 柚春とウォルター先生もやってきて、ふたりずつ手分けして映画を選ぶことになりました。
　たくさん人手が集まりまして、アルバイト店員エマもにっこりぴかぴかです。
「皆さま、よろしくお願いいたします～！」



　奈津樹が選んだのは、ゲームが原作の映画化作品縛り。パソコン部でゲームも自作する、なんとも彼らしいチョイスであります。


「まずはこれ！　『サイベリアンヒル』です」
「これは、ホラーかな？」
「そうです。原作ゲームはかなりやりこんだので、見てみたかったんですよね。先輩はホラー大丈夫です？」
「うん、少しなら平気。面白そうだね」
　情緒不安定な娘が錯乱して発する言葉、『サイベリアンヒル』……そんな名前の街が実在することを知り、両親は娘のため、狂気に満ちた街へ深く入り込んでいきます。そして姿を現す、もう一つの世界……。
「いろんなクリーチャーが登場するんですけど、どれもインパクトがすごくて印象的ですね。頭に三角コーンをかぶった巨漢とか、顔が無い看護婦とか」
「へえ。けっこう怖そうだな……」
「設定もちゃんと原作を踏襲してたり、丁寧な作りで評価も高いんですよ」
　グロテスクな演出と、ジャパニーズ・ホラー的な心霊描写の繊細さも相まって、ゲーマーからも映画通からも高評価を得ているのだとか。なるほど確かに、楽しそうです。
「これはまずキープかな。で、あっきー先輩は？　なにか良さそうなのありました？　やっぱり恋愛ものですか」
（やっぱりってなんだ……）


　彰尋の想い人をなんとなーく察しているらしい奈津樹のさりげない言葉に、むむっと眉を寄せつつ選んだのは、『被疑者Ｎの挺身』。原作は数々の賞を総ナメにした傑作ミステリー小説で、実写ドラマ版、そしてこの映画版も高い視聴率や評価を誇る名作です。
「天才数学者が仕掛けた完全犯罪……なんだけど、動機の根底には人の感情っていうか、その。愛情……があるんだよね。それがこの作品の一番のテーマなんだ」
「ほほう。あっきー先輩にぴったりの作品ですね」
「茶化すなよ……とにかく犯人の、文字どおりの挺身ぶりには胸が熱くなるよ。ラストシーンの、魂の慟哭っていうのかな。必見だね」
　奈津樹もふむっとうなずき、興味を惹かれた様子。彼もミステリーは好きなのだそうです。
　まずはそれぞれ一本ずつ選出し、推し候補とすることにしました。



「史越、ゲーム原作映画なら『グレイブハンター』もいいんじゃない？」
　彰尋がたまたま手に取ったパッケージには、凛々しい女性冒険家が二丁拳銃を構える姿が描かれています。
「あーそれ！　俺も見ましたよー、主人公のナナ・フロストがかっこいいんだ！　この映画はもうね、予告編だけでも盛りあがれる出来ですよね！」
　奈津樹はどうやらゲームを原作とする作品や、サブカル・オタク要素が盛りこまれた作品になると途端に食い付き良く、前のめりになってしまうようです。
　彰尋は微笑ましく笑いました。
「あとは、ゲームだけってわけじゃないけど……これも外せないですね。『ゴー・プレイニャー１』！」
「あ、これ話題になってたよな。テレビでもＣＭが流れて……」
「そうなんですよ、あらゆる方面からあらゆるネタが詰まってて誰でもひとつは知ってるキャラがいるはずです、見たことありますか？　無かったら見たほうがいいですよ絶対おすすめです！」
　と食い気味にかぶせてくる奈津樹の情熱は、とどまることを知らず。
　とはいえ無理もないかもしれません。『ゴー・プレイニャー１』にはコミック、映画、ゲーム、幅広いメディアの幅広いジャンルからのゲスト登場キャラクターがてんこもりでして、そのラインナップをざざざっと眺めるだけでもワクワクしてしまうというものです。
「ゴアラも出るし、ニャンダムも出るし、ネコリアンのフェイスハンガーやらスター・ニャーズのＶウィングやら……ニャイトライダーの人工知能のＣ.Ａ.Ｔ.Ｔ.がバック・イン・ザ・フューニャーのペロリアンに搭載されてるのは、アツイ演出だったなぁ」
「えっと、そっか。すごいんだなこの映画」
　彼の語る熱量によってか、彰尋もどんどん見たくなってきてしまいました。
「それじゃ、選んだものを嬉野さんに報告したら、それを見てみようか。史越の解説を聞きながら見るのも楽しそうだし」
「ああ、いいですね！　確かにこれは会話しながら見たほうが楽しいかも」
　楽しい鑑賞会になりそう！



　稲積 柚春の淹れてくれたお茶をいただきながら、みんなで『クリーム・スカイ』と『ゴー・プレイニャー１』を鑑賞することになりました。
「フレッシュフルーツアイスティを仕込んでおいたよ。みんなでさっぱりしよう！」
「ほわ～、良い香りなのです！」
　ホールにはちゃっかりこんとエマの姿もありまして、どうやらいっしょに鑑賞するつもりのようです。
　アイスティを揃ってひと口。ほう～っとして、まったり。
「どっちも僕は観ていないから、楽しみだねぇ」
　と観る前からほくほく顔で楽しそうなウォルター先生……隣の席にはおすまし顔の柚春。さきほどふたりの微妙な関係……？　なのかな？　う～ん？　ってなやりとりを聞いている奈津樹と彰尋（とエマ）には、なんだか気になってしまいましたけれど。
　ともあれ、
「あ、始まった！」
「ハム・クルーズはやっぱり、若い頃からイケメンだねぇ」
　素敵な香りとともに、名作を二本続けて楽しんだ面々でありました。