【８周年記念】ドレミファソラシド、８つの音の精を探せ！｜リアクション

【８周年記念】ドレミファソラシド、８つの音の精を探せ！

●九夜山探索隊・１

　音の八人兄弟の八男「高いド」の精・セシルの捜索は難航していた。
　九夜山山中で迷子になったというセシルの遠くまで響く高いドの音で泣き声は聞こえているのだが、なにぶん山が広すぎる。しかも木霊のように反響してどこから声がしているのか分かりにくいときていた。

「ああもう！　もうすぐ受験だっていうのになんでこんな面倒ごとが起きるのよ」
　時は一月。高校三年生の初瀬川理緒と佐和崎紗月にとっては大学受験が間近に迫ってはいたが、テオの声に異変を放ってもおけないと探索に来た。
「第一志望の木天蓼大学に落ちたらどうしてくれるのよ。おーい、セシルどこにいるの？　早く出といで！」

「まあまあ……セシル君は怖がりだって聞いたわ。そんなに怒鳴ってたら隠れちゃうかも」
　紗月は恋人の理緒が不機嫌そうになるのを何とか宥める。
「紗月……だってさぁ」
「確かにこんなことをしている場合ではないのはわかるけれど、なおさら早く事態を解決して受験勉強に戻った方がいいでしょ？」
「そうだけどさ。あんまり長引くと紗月の体力ももたないんじゃない？」
　冬の山の中での捜索は、寒さもあって体力消耗が激しい。
　身体は強張るし、息は上がって来ているし、これ以上捜索が長引いたら辛いのは確かだ。
「わかってる。だからこそ早めに見つけたいよね。とにかく声を頼りに探してみようよ」
「うん……わかったよ」

◇

　九夜山のまた別の獣道では、偶然出逢った小学生の曖浜瑠樹と小児科医の志鷹若菜がペアを組んで、やはりセシルを探していた。
「セシル君の泣き声、聞こえるよぉ……やっぱり怖いんだろうなぁ」
「そうだね……早く見つけてあげたいね」
　若菜にとって歌と音楽は、幼い頃からずっと傍にあった特別なものだった。
　思い出すのは実家にあった木漏れ陽差す部屋のピアノ。
　優しい光の中で、好きな曲を弾く時間が大好きだった。
　それに音楽は、病と闘う子どもたちにもたくさんの笑顔を届けてくれる。
　大切な音楽をまた奏でるため、そしてどこかで泣いているセシルのためにも、早く探し出してあげたい。

　一方、縫いぐるみの『ラピちゃん』とカプセルギアの『ラズちゃん』を抱きかかえた瑠樹は、セシルの泣き声にせつなそうにしている。
「人の気配がすると逃げてしまうかも……かぁ。せめて少しでも怖くなくなるといいんだけどねぇ」
　そう口に出してみて、瑠樹はふと思いついた。自分のろっこんが役に立つのではないかと。
　瑠樹は『ラピちゃん』と『ラズちゃん』を抱いて、思いっきり和んでみる。

（ラピちゃんもラズちゃんも……今日も可愛いねぇ、和むなぁ……
　……セシル君にも、たーくさん和んでほしいねぇ！）

　発動した＜ゆるゆる和みと恩恵の輪＞は人を和ませるものだ。
　怖さが消える訳ではないけれど、和むことで少しでも怖くなくなったら嬉しい。
　そんな瑠樹の想いが通じたのだろうか。
　泣き声が止んだ。

「あ……もしかしてろっこんが届いた？　案外近くにいるのかなぁ？」
「……セシルくん？」
　若菜は音や光の動きに注意しながら、優しく声をかけてみる。
　……返事はない。
「まだ人を怖がっているのかなあ。そうだ、ラズちゃんにも手伝ってもらおう」
　瑠樹はスマホを操作し、カプセルギアのラズちゃんを起動して放つ。
「大きさが近いカプセルギアなら、怖くない……といいなぁ」