【８周年記念】ドレミファソラシド、８つの音の精を探せ！｜リアクション

【８周年記念】ドレミファソラシド、８つの音の精を探せ！

●九夜山探索隊・２

　どっしりとした大きな木の根元に一人の少女が背を預けて眠っている。
　眠る少女を見上げて、耳をぴくぴく動かしている白いうさぎが一羽。
　いま、眠る少女――春山小枝の意識は、眠ると近くにいる小動物に意識が乗り移るろっこん＜ちいさきもののゆめ＞の効果で、うさぎの中にある。
（これなら、人間が怖いっていうセシルくんも、怖がらせないで済むかな？）
　あたりを見回していると、どういうわけか急に泣き声が止んだ。
　ぴょんぴょん跳ねて泣き声がしていた方へ行ってみると、カサコソと微かに音がする。落ち葉の中だ。きっと人間の耳だったら気付けなかっただろう。小枝ウサギはそーっと近づいて鼻先で落ち葉を捲ってみる。
「わわ……」
　そこには小さな――ウサギの小枝にとってはそう小さくもなかったけれど――男の子がいた。
　きっとセシルだ。瑠樹のろっこんの効果か、彼はほわわんと夢をみているような和み顔をしていた。
　小枝ウサギは鼻先をひくつかせてそっと挨拶をしてみた。
『こんにちは。セシルくん？』
　想いはどうやら伝わったようで、セシルはこくりと頷いてみせる。
　小枝は人間は怖くないということを伝えるためにセシルを寝ている自分のところへ導き、すやすや寝ている身体に触らせてみる。
『人間も、よーく見たら怖くないんだよ。ほっぺを突いたりひっぱったりしても大丈夫だよ』
「ほんとうだ。やわらかくてあったかくて、なんだかいい匂いがするね」
『あ、あんまり触りすぎたら恥ずかしいけど～』

　そのとき、枯れた草むらを割って理緒と紗月が姿を見せた。
「声が消えたのってこの辺じゃなかった？」
「あ、見て。……セシルくんがいたわ。それに誰か寝てる」
　人間の声にセシルはびくっとして逃げようとしたが、理緒が慌てて声をかける。
「待って！　あたしたち怪しい者じゃないし、あなたをいじめようとか思ってないよ！」
　セシルは戸惑い顔になった。
　さっき人間は怖くないって教えてもらったけれど、本当にそうだろうか。
　逃げるべきか逃げざるべきか。迷って結局、セシルは小枝の髪の中に身を隠した。
「怖がられちゃった？」
　やれやれと理緒は肩をすくめ、ひとまず眠る少女の肩をゆすった。
　その瞬間、小枝の意識はウサギから人間の体へと戻り、目を覚ました。
　小枝の意識が離れたウサギは、不思議そうに鼻をひくつかせたかと思うと森の中へ消えてゆく。
　それを見送って、小枝は髪に隠れているセシルをそっと人の手で包み込む。
「セシルくん、びっくりしたかな？　私、さっきのウサギの小枝だよ～。こわくないよ～」
「こわく……ない？」
　そこにカプセルギアのラズちゃんに導かれるようにして、瑠樹と若菜もやってきた。
「あ、セシルくん、いたねぇ」

「独りで寂しかったね。セシル君。もう大丈夫だよ。泣かないで。
ここにいるみんなは、貴方を見つけたくてここに来たの。
セシル君の兄弟はこの島のみんなが探してくれているから、安心してね」

　皆が口々に優しく声をかけたおかげで、セシルもようやく怯えが取れてきた。
「みんなと一緒に行けば、お兄ちゃんたちにまた会えるの？」
　そうよ、と紗月が穏やかな声で言った。
「私たちはあなたのことを傷つけたりはしないわ。お姉ちゃんたちと一緒に他の兄弟たちの元へ戻ろう？」
「大丈夫……お兄さん達も、きっと見つかってるころだよぉ」
　瑠樹もにっこり微笑みかける。
　若菜は彼の腕に手製の小さな猫のぬいぐるみを抱かせてあげた。
「いっしょに行きましょう？　音楽にはときに言葉を超え、想いを伝える力がある。貴方たちが奏でる美しい音を、またみんなに聞かせてくれる？」
　セシルは頷いた。
「うん。ぼく、みんなと行くよ」
　もう泣き顔はなくなっていた。
　こうしてセシルは人間は怖くないと教えてくれた小枝の手に包まれて、皆と一緒に下山をしたのだった。