【８周年記念】ドレミファソラシド、８つの音の精を探せ！｜リアクション

【８周年記念】ドレミファソラシド、８つの音の精を探せ！

●ホースクラブで王子様

　迷い迷って幾星霜……。
　というほどでもないが、方向音痴な楡宮遠海はかなりの時間道に迷って星ヶ丘ホースクラブに辿り着いた。「『ラ』の精・アランはどこにいるんだろう……？」
　疲れた脳であたりを見回していると、麗しい若者が颯爽と馬にまたがり駆けてくる。

「馬にまたがる王子様……もしかしてこの王子様が、音の精？」

　たしかに王子様っぽい気品ある雰囲気ただよう若者だ。
　陽光の煌きを受け、淡い色の髪が風に靡いている。
　しかし馬は白馬ではなく栗毛だし、馬具もしっかり装着済み。
　王子様の顔もよく見れば学校で見たことがあるような……。
　

「王子と間違われるのは光栄だけれど違うよ。ちなみにこいつは俺の愛馬のラファール。元競走馬でね」

「わわ、すみません！」
　平謝りする遠海に、八神修は「いいよ」と言った。
「俺も音の精……アランを探しているところなんだ。白馬に乗っているという話だけれど……」
　そのとき女の子の声がした。
「あ、待って……」
　声を上げているのは灰色の髪をハーフアップにしてお団子にまとめた、物静かそうな少女だ。
　彼女の視線の先には、馬具もつけず駆け抜ける白馬がいる。
　さらによくよく目をこらせば、耳と耳の間に小さな人が乗っているではないか。
「もしかして、あれがアラン？」
「馬が興奮しているな……君はここで待ってて」
　修は遠海にそういうと颯爽とラファールを駆って白馬へと向かう。
　冷静に声をかけ、ラファールと一緒に併走するうち白馬も落ち着き、ゆっくりとした足取りになってきた。
　その間に遠海は灰色の髪の少女――嘉渡洲稀跡と合流していた。

　しばらくして、修とラファールは、白馬と一緒に遠海と稀跡のところに戻ってきた。
　稀跡が落ち着いた静かな口調で挨拶する。
「はじめまして」
「あなたがアラン？」
　どこか修に似た気品のある顔立ちのアランは、問いかけた遠海にキラッと笑顔で頷いた。
「ええそうです。お会いできて光栄です、キラキラした素敵なお嬢さん方」
　アランは馬から下りてくるりと宙で一回転し、優雅にお辞儀をしてみせた。
「一体何をしていたんですか？」
「馬上から見る木漏れ日のキラキラを楽しんでいたのですよ」
　聞けばアランはキラキラしたものに目がなく、修が胸元に着けていた水晶が気になっている様子。
　

「キラキラしている綺麗な石なら私も……」

　稀跡は布で覆ったケースを馬が驚かないよう配慮しながらアランに見せた。
　中には石好きな稀跡が集めた天然石コレクションの一部が納められている。
　オパールやトパーズ、アクアマリン、様々な色のクオーツ。
「おお、これは美しい」
「お気に召したものがあれば寝子島土産として進呈するわ」
「有難い申し出。しかしお待ちを……そちらのレディが身に付けているキラキラも見せていただけませんか」
「え？　このシルバーアクセですか？」
　遠海は腕に巻いたチェーン状のブレスレットをアランに見せた。
　自分が好きなバンドのオリジナルグッズで、ファンクラブ会員限定の逸品である。
「ああなんと素晴らしい！　キラキラですね」
　アランはこれも欲しそうにしている。
（どうしよう）
　遠海は悩んだが、ここでへそを曲げられても仕方ないので、ブレスレットを外してアランに差し出した。
「どうぞ。よかったら差し上げます」
　女子高生には高いものだが、これで世界から音楽がなくなることが回避できるのなら安いものだ。
　結局アランは、修の水晶の小片と、稀跡のコレクションから天然石をひとつと、遠海のシルバーアクセを貰って、キラキラした瞳で兄弟たちの元へ戻ることを快諾した。
「みなさん、素敵なキラキラをどうもありがとうございます」
「またピアノが奏でられるようになるなら安いものだよ」
「修殿はピアノを弾かれるのですか？」
「ああ。音が心の中に粒としてキラキラ届く。だから音楽は好きだ」
「そうですか。あなたのような方がいるなら、私も役目を果たさなければなりませんね」

　こうしてアランを伴った三人は、ホースクラブをあとにし寝子島神社へと向かうことにした。