私立探偵の悩みごと相談所｜リアクション

私立探偵の悩みごと相談所

「天利二十。私立探偵だ」
　次の日の昼食。二日酔いと悩みごとで疲労困憊の天利は、ラーメン屋で男子高校生に自己紹介をしていた。
「あ、志波武道っす。仲のいい友達はブドーって呼ぶことも多いんで、それでもイイッすよー」
　その元気のいい男子――武道は豚骨ラーメンを注文して、天利のテーブルに座った。
　休日に訪れた学校の用事は半日で終わり、生徒会室に寄り道した武道は、高校生らしく空腹を主張する健康な胃袋を黙らせるべくラーメン屋に立ち寄ったのだが、そこで二日酔いで頭を抱えながら深刻な顔で悩む天利に遭遇した、というわけだ。
「それで……訳アリな娘さんへのプレゼント？」
　普段は軽い口調でややふざけ過ぎなところもある武道だが、さすがに初対面で年上の人間への対応は心得ている。
「ああ、そうなんだよ学生さん……それに、この間娘がこの島に来た時に世話になった連中にも、結局会ってみないといけないと思ってはいるんだが……」
「複雑ですねー。自分なら……うーん……『相手が欲しいもの』と『自分があげたいもの』で違ってきますかねー？」
「ほう……」
　ちょっとした時間つぶしの気分で武道に相談をもちかけた天利だが、なかなかどうして鋭いなと思った。
　武道は軽く見えても元生徒会長。困っている人の相談に乗るのは慣れているところもある。
「それは考えなかった……なるほど、自分があげたいものか」
　もっともらしく頷きながらラーメンをすする天利。
「そうっすねぇ……えーと２０歳？」
「ああ……だが身体は１０歳ぐらいだ。まあ１０歳だと思った方がいいな」
「それなら天利さんが思う趣味のもの……例えば絵を描く子ならスケッチブックとか絵具とか。好きな動物とか……ちょっといいお菓子とか、その子が好きなものになぞらえて……ってどうしたんです？」
　武道は天利がさらに頭を抱えてしまったことに気付いた。その様子を眺めて、ひとこと。

「まさか……お子さんが好きな動物とか、趣味とか、全然分からないんじゃ……」
　ぎくぅ。
「いくら離れていたとは言っても、小さい頃の思い出とか……」
　ぎくぅ。
「今アメリカで暮らしてたんだったら、向こうでの暮らしぶりとか……」
　ぎくぅ。

　もうビクビクしすぎて痙攣し始めた天利を尻目に、武道は軽くため息をついた。
「いやー、さすがにそりゃネーッスヨお父さーん」
　天利のあんまりな体たらくに、思わず素が出る。
「あ、替え玉くださーい、かためで！！」
　もはや遠慮なしだ。
　とはいえ、相談に乗っておいて放置してしまう武道ではない。天利が困っていることに変わりはないのだから。

「まー、その辺が分かんないなら、ある程度こっちで方針固めた方がいいかもですねぇ。あ、髪飾りとかどうですかね？　やっぱ形に残ったほうが思い出になるだろうし」
「ああ……髪飾りか……いいねぇ……」
　うつむいたままの天利は応える。
「あとは石とかモチーフのもので、お父さんと娘さんの共通の意味を持たせるとか……」
「うーん……共通の意味かあ……そもそも共通で過ごした時間がなぁ……」
　武道は頭から煙でも出しそうな天利を横に微笑みを浮かべる。
「まあ何せよ、プレゼントって選んでいる時が一番楽しい時間だと思うんですよね、俺。こーして、誰かのプレゼント選びの話を聞くのも、すごく楽しいんですよ」
「……」
　天利は顔を上げた。そこには、頼りになる元生徒会長で、たかだかラーメン屋で頭を抱えていただけの男に、親身になって相談に乗っている、お人好しで、おせっかいな高校生の笑顔があった。