私立探偵の悩みごと相談所｜リアクション

私立探偵の悩みごと相談所

「えー。私も行きたーい、プレゼント選びー」
　羽生碧南は不満を表明した。何しろ天利は三折部朝衣とフィリアのプレゼント選びに行くと言うが、その前に碧南を送って行くというのだから無理もない。
「ダメに決まってんだろ。学生さんがうろついていい時間じゃねえのさ」
　冬の日の入りは早い。ラーメン屋に入る前から空は暗かったが、ラーメンを食べた後はもう真っ暗だった。
　３人で並んで歩きながら、碧南は天利がいつもの調子を少し取り戻しているように感じた。
「あー……なんだ」
　碧南を送りながら、天利は明後日の方を見ながら呟く。
「相談したら多少は楽になった……ってことさ。サンキューな」
　それを聞いた碧南は軽く微笑んだ。
「そう。なら良かった……じゃ、この辺でいいよ。寮まで暗いとこもないし」
　碧南は天利と朝衣からちょっと距離を取って駆け出した。

「気をつけて帰ってねー」

　それを見送りながら軽く手を振る朝衣。

「やっと帰ったか……つーものの、こんな時間じゃ子供向けのプレゼントなんて……」
　と、朝衣と並んでなんとなく商店街の方を眺めた天利の表情が凍る。

「ん？　おじさんどうした……」
　朝衣が天利の視線の先をたどると、商店街の方から歩いてきた人物
目が合った。
　ミッシェル・ナイスゲイだ。
「あれ？」
　気付くと天利がすでにだいぶ後方を足早に立ち去ろうとしている。朝衣は身体ごと振り返ると、天利に声をかけた。
「あれ、ねえちょっと、プレゼントはどうするのよー！？」
「また今度なー！」
　天利の返事が辛うじて聞こえたかと思ったら、次の瞬間にはミッシェルが朝衣の横をすり抜けていた。
「ちょっと二十ちゃ～ん、今日こそモロモロのツケを払ってもらうわよ～ん！」
　あっという間に雑踏に紛れ込んでしまった二人を眺めて、朝衣は呆然と呟いた。

「ツケって……おじさんはもうちょっと仕事した方がいいんじゃ……」

☆

「いや、全然分かんないんだけど」

　明けて翌日、御剣刀は呟いた。というのも、偶然出会った天利とラーメン屋に入ったところ、天利の娘のプレゼント選びについて相談を持ちかけられたからである。ついでに、娘の実年齢と見た目の年齢の話も混みで。
「聞いてなかったのかよ」
「聞いていたから分かんないんだよ」
　刀の言うことも尤もだ。
「だって２０歳って……俺より年上じゃん！？」
　年上の女性に気の利いたプレゼントなどとは縁遠い人生を送ってきた刀にとって、あまりにも荷の重い問題すぎた。
「しかも実年齢と身体の年齢が違うって……」
　もはや刀の頭はパンク寸前だ。少しラーメンを食べたのちに導き出した結論は以下のものである。

「天利さん、俺たちだけじゃ駄目だ！　誰か応援を頼もう！」

☆

「今日はここでしたか。だいたい予想通りでしたね」

　綾辻綾花は天利に声をかけた。事務所を訪れたがる天利は不在。だいたい時間帯からしても昼食だろう……とすればおおむねラーメン屋と天利の相場は決まっている。いくつかの心当たりを回れば、すぐに見つかる――そして実際見つかった。
　ひとつだけ予想と違ったのは、天利がひとりでラーメン屋にいたわけではなかった、ということだ。
　天利はひとりの男子高校生となにやら話し込んでいる。気付けば、先日天利が娘から逃げ回っていた時と同じ面子だ。

　だから綾花も、その男子高校生――御剣刀にこう言われた時も、さほどの驚きもなく受け入れたのだった。
「あ、天利さん、応援が来たよ。娘さんの話ならやっぱ女子じゃないと」

「……娘さんの話ですか？　ならちょうど良かった。私もこの間のことを改めて聞きたいと思ってたんです」