【小萩のスーパーレジェンド伝説】

　本条 小萩。
　その非凡なる才覚の片鱗を、彼女は多感な高校時代から既に、いかんなく発揮しておりました。
　学生生活の花と言えば部活動。小萩はバドミントン部に所属し、一年時からめきめきと頭角を現すと、数々の大会に出場し輝かしい成績を残しました。
　また小萩は華道部にも所属し、当然のように部長の座を譲り受けると、文化部活動においても快進撃を開始。全国生け花選手権、華甲子園、花生けバトルコロシアムなど著名な華道大会において栄光の記録を打ち立てました。
　彼女のいわく、
「ぬー。隠し切れない小萩の才能が恐ろしいです」
　さらには小萩は部活動のみならず、委員会活動でも大躍進します。
　寝子島高校の文化祭、寝子祭ではその実行委員長を務めました。大成功を収めたその仕事ぶりは学校の内外にも高く評価され、その年の全国高校文化祭実行委員審査会においてＭＶＰを受賞したことは言うまでもありません。
　また、美化委員長としてもその手腕を発揮。彼女の在籍中、寝子島高校の校舎内ではホコリひとつ落ちておらず、床は隅々までぴっかぴか。全国美化委員大会決勝戦において披露した『連ね三段孔雀拭き』の動画は、累計再生回数１００億回を突破したそうです。
「小萩なら余裕だと最初から分かっていました」
　事ほど左様に、小萩の経歴は彼女がまだ若き学生であった頃から、燦然たるものばかりであったのです。



　彼女の名が初めて世界中に知られることとなったのは、高校三年生の終わりでした。
　そう、俗に言う『アガサラ・クライシス』です。
　南米大陸は東部にて蘇ったアガサラ神話における最高神『バド』が人類に告げた危機は、過酷なものでした。太陽と月の軌道のバランスが崩れ、世界中で地殻変動や重力異常が相次いだのです。
　この局面を乗り越えられねば、世界中のあらゆる生命が滅ぶ……そこへ立ち上がったのが、小萩の率いるバドミントン部の勇者たちでした。
「世界を救うのは小萩しかいません、なぜなら小萩にはそれができるからです！」
　最高神バドへ捧げる儀式の形を模した試練に、彼女らは臆することなく挑みました。聖痕を刻まれし勇者たちは手になじむ落欠人（ラケット）を掲げ、高波がごとき高さにぴんと張られた投網の向こうを目がけ、霊鳥ミンの羽と聖樹トンの実から作り上げた邪取（シャトル）を力の限り打ち込んだのです。
　試練は七日の間、ひとたびも休むことなく続けられたといいます。
　そして見事地球の危機を救ってみせた小萩へ、世界中から称賛の声が寄せられ、時の総理大臣は官邸へ小萩を招待し直々に謝礼を述べました。
　小萩の成し遂げた偉業を称えるため、彼女ただひとりのための『虹綬褒章』が設けられたのもこの時でした。栄典の映像は世界中で放映され、その視聴率はもはや計器を振り切り『計測不能』であったとのことです。



　高校卒業後の数年間は、小萩は各方面からの絶えないオファーを全て断り、魔法少女として活躍することになります。
　彼女自身が描いたベストセラー漫画『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy』さながらに、美しく可憐な衣装に身を包み、ステッキを振るい、オトモの魔法猫nya-coを連れて、弱きを助け強きをくじく！　痛快な活躍はいつだって人々の話題の的で、彼女の活動を追うMewtubeチャンネルが乱立し、報道番組はいつでも小萩一色となりました。
　地球より三倍も大きい巨大隕石が飛来した時も、人類誰しもが思ったことでしょう。小萩ちゃんがいれば大丈夫、と。
　もちろん危なげなく隕石を魔法でコナゴナに消し飛ばした後、集う記者たちに世界を救った感想を問われた彼女は、さらりと言いました。
「隕石ですか？　小萩にとっては、道ばたの石ころと変わらないですね」



　その後、魔法少女を卒業した小萩は、政府からの強い要望を受け入れ、最年少の内閣総理大臣として就任。政界においても如才なく敏腕を披露しました。
　小萩はただでさえ才能にあふれているというのに、若くて愛らしい（それもナイスバディな）総理とあっては、人気が出ないはずもありません。支持率はまたも『計測不能』となりました。
　とはいえ無論、小萩の活躍が狭い島国日本にいつまでも留まっていられるわけもなく。
「世界にはいまだに差別や貧困、争いごとが蔓延っています。そして小萩ならこれらを無くすことができます。よって小萩はここに、世界政府の樹立を提言します！」
　国家や民族の垣根を超え、人類が小萩を中心にひとつとなった瞬間でした。
　当然、初代世界大統領に選出されたのは、小萩自身です。
　詰めかけた記者陣が、ある時こんな質問を投げかけました。
「日本の一介の女子高生であったあなたが、今はこうして世界を導くリーダーとなっている。どうしてそんなことができたんでしょうか？」
　小萩は何を当たり前のことを、と言わんばかりにひと言、述べたのでした。

「小萩はすごいからです！」


　さて、完璧な才能を持って生まれた超人たる小萩にも、ひとつだけ弱点がありました。
「ぬー。ハイテクは苦手です」
　人々が宇宙をも居住地と定めてから、はや数年。宇宙連邦が樹立され、その長へと就任した直後、外宇宙調査団の巨大恒星間航宙船の進水式に出席した際のそのセリフは、誰もが彼女なりのユーモアだと受け取りました……けれど、これは彼女の本気の弁であったようなのです。
　宇宙。誰にも、そう小萩にとってさえも未知なる空間。そこへ、人類はこれより進出するのです。
　無限に広がる大宇宙、その片隅から出港した小萩が、これから何を成してゆくのか？　果たしてどこまでたどり着いてしまうのか？
　それは、後世が語るに任せるといたしましょう。
　小萩の伝説は、まだまだ始まったばかりなのですから！