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【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治(略
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5 ~年越し夜会へ行く前のネズミ達~
ガリガリと、灰色のネズミが壁を齧っている。猫鳴館の壁は古く、とても齧りやすい。伸びた歯に最適だ。
ガリガリ。ガリガリ。
「チュー――!(着いたぞ! 寝子島だ!)」
「チュチュ!(成功しましたね! ここはネズミと相性が良いです!)」
「ちゅ?」
壁を齧るのを止め、灰色ネズミは声のした方を振り向いた。何十匹という銀色のネズミが、突然現れた楕円形の空洞から姿を見せてくる。
「う、うわあ!」
灰色ネズミは驚いてぴゅっと物陰に隠れた。仲間のネズミ達も一目散に逃げていく。だが、銀ネズミ達はそれを見逃さなかった。
「誰だ! 出てこないとネズミにするぞ!」
「う、うう……それは全然いいですけど……」
隠れた場所から出ていくと、銀ネズミは拍子抜けだという顔をした。
「何だ、同志か。何をしているんだ?」
「え、普通に壁を齧ってたんですけど……」
獅子唐 ケンジ
は、猫鳴館の外を歩いて壁に穴を開けたネズミを探していた。
「なかなか見つかりませんね。この辺りのネズミはすばしっこいので、捕まえるのは大変そうですが……」
「チューチュー! チュチュチュー!」
「チューチュウ!」
「……!」
複数のネズミの声が聞こえて、ケンジは急いでそちらに向かった。草場の中に、十数匹のネズミの姿が見える。
「あれは……銀色のネズミ? 見たことがありませんね……」
気配を殺して様子を伺ってみると、先頭の銀ネズミが腕を振った。すると、「なぁ~ご……チュー!?」と、近くにいた猫が姿を変える。
「……!?」
「チュチュチュー! チューチュチュ!(よし、ここの猫をネズミにするついでに、壁も堪能していくぞ!)」
またネズミが腕を振ると、爪が飛んで壁に突き刺さる。直後、その部分の壁が破壊されて穴が開いた。
「チュチュ―!」
銀色のネズミ達は、とっかかりが出来て齧りやすくなった壁を齧り始めた。
「何という……」
ケンジは息を殺したまま、驚きの声を漏らしていた。
「妖術使いのネズミですか……」
今のケンジの実力では、あのネズミ達を倒すのは難しいだろう。
(超常の力を持たずして、正面から対抗するには無理な相手のようですね)
まずは自身を強化する必要があるだろう。幸いにも、今夜は大晦日だ。神秘満ちる夜には不可思議なことが起こるものであり。
(上手くいけば……)
その場から離れて、ケンジは近所の古寺に向かった。
「ここは、古猫に稽古をつけてもらわねば」
古寺に行くと、そこでは太った猫が丸くなって寛いでいた。ネズミ捕りの名人として有名な大猫だ。
「にゃー? なんにゃ?」
「しゃべった……」
大晦日の奇跡が起きたのだろうか。しゃべるデブ猫に、ケンジは弟子入り志願をした。
「ぐわーっ! 埒あかねーぞ! こないだから穴開けられる度に直してっけど、どんどんまた開けられちまう!!」
木板を穴に打ち付けていた
近石 簾
は、突然立ち上がって大声で叫んだ。溜まった不満が拡散し、何ともすっきりした気分になる。
猫鳴館に極稀に訪れるという「氷ちゅー期」らしいが、要するに、ネズミが壁に穴を開けまくって猫鳴館が氷河期のように寒くなるということらしい。
「氷ちゅー期か……」
先程からやけに目につくようになった銀色のネズミを思い出す。あれは、普通のネズミではなさそうだ。
「そういえば、あかずの間の取扱説明書に氷ちゅー期について書いてあったな」
どうやら昔からあるもののようだが、あのネズミと昔のネズミは同種だったりするのだろうか。
部屋に戻って取扱説明書を開き、追記の部分に目を通す。
『あかずの間に無数の風穴があく時、鼠の大量発生により……氷河期ならぬ氷ちゅー期が到来す』
ネズミの種類については書かれていないが、もしかしたら何か、昔の対処法等が役に立ったりしないだろうか。
「海原先輩に聞いてみっか」
簾が直接知ってる限りだと、
海原 茂
が一番古い自治会長だ。
「……というワケなんすけど、なんかネズミの大量発生について、昔の噂話とか、申し送り事項とかなかったすかね」
「無いな」
「即答っすか!?」
「あの追記分は俺も読んだが、個人的には、ネズミ被害に遭った当時の自治会長の愚痴を兼ねた日記のようなものに見えたな」
自分がひどい目に遭ったら誰かに知って貰いたくなるだろう、と茂は言った。
「あかずの間の扉に穴が開いた時にネズミが大量発生するのは事実なんだろう。だが、ネズミが出ればそれは扉も齧るだろう。必然じゃないか」
「そ、そういえば……」
そう考えると、何もフシギはないのかもしれない。
(でも……)
今回出てきたのは銀色のネズミだ。それが少し引っ掛かる。茂は知らなくても、もっと昔の先輩まで遡ったら何か判るのではないだろうか。
「海原先輩、古いOBの方の連絡先とか知りませんか?」
「二人知っているが……俺から近石の番号を伝えておこう」
「ありがとうございます!」
簾の考えを察したらしい茂の言葉に礼を言って通話を切る。やがて電話してきた元自治会長達は、氷ちゅー期についての体験談を聞かせてくれた。だが「普通のネズミだった」「悪魔が憑いていた」というもので銀色ネズミの事は知らなかった。
『けど、氷ちゅー期については口伝されてたから知ってたんだ』
『あかずの間の扉に穴が開いた時ってな!』
「…………」
通話を終え、簾は考える。
「……とにかく、あかずの間の扉の穴は塞いどくか」
「寒い」
寝袋の中に入った
北里 雅樹
は、ぶるぶると震えていた。防寒をしても、全く暖かくならない。
(氷ちゅー期だか何だか知らんが、このままじゃガチで凍え死ぬ)
雅樹の部屋はネズミ被害が多く、暖房をつけても暖かい空気は全て外に逃げてしまう。そして、外の寒さは容赦なく室内に入ってくる。
「このままじゃ、来年の大学受験を迎える前に凍死待ったなしだ!」
雅樹は、寝袋から跳ね起きた。
穂現 まう
は、猫鳴館で暖かい毛布に包まってぬくぬくと大晦日を過ごしていた。
(…………)
気持ちがいい、以外の感覚と思考を放棄してまどろんでいたが、ガリガリという音に瞼を開ける。
「……何の音!?」
音の方向を探ってみるが、原因は分からな――がさっという音がして、ネズミが飛び出してくる。壁に穴が開いていた。
「わっ! …………」
まうは憮然として廊下に出た。眠気は残っていない。ネズミを退治して、壁を直さないといけない。すると、階下から「ネズミが……」「壁が……」「氷ちゅー期が……」等という話声が聞こえてきた。
「寝子高1年喜矢武 あいおですわ!」
まうが合流した後、ほしびとの
アイオ・キャンドライト
はそう名乗った。集まった面々は特に疑うこともなく、よろしく、と挨拶を交わす。
「猫鳴館の危機とあれば、もちろん猫の手もお貸ししますわ……あ」
猫獣人であることからつい出てしまった台詞だったが、皆を見ても特に怪しい目は向けられていない。
「? どうしたの?」
「いえ、なんでもありませんわ」
訊ねてくる
神野 美野梨
に、猫耳隠しの帽子を深めに被り直しながらアイオは笑う。そこで、さて、と美野梨は本題に入った。
「相談して、対策を立てましょう。ネズミ退治と、あかずの間の穴塞ぎね」
「ネズミ……許せない」
何か危険な空気を漂わせながらまうが言う。皆がその怒りを肌で感じる中、雅樹は口を開いた。可能な限り着こめるだけ下着やら服やら上着やらを着込み、靴下も数枚は履き重ね手袋も装備した彼はすっかり着膨れしている。
「俺は穴を塞ぐ。ネズミは……猫に任せればいいんじゃないか? ネコ島だけに」
「ネズミに猫ってのは名案だな!」
明るい声で同意した簾が、美野梨とまうに視線を向ける。
「猫に関しちゃ神野と穂現が専門家だし任せるぜ。頼んだ!」
「…………猫は好き。一緒にいるのは好きだけど、ネズミを捕ってくれるかは分からない」
猫が嫌だったら無理に協力させるのも気が進まないとまうは思う。
「でも、穴も塞ぐし、ネズミも殲滅する」
「私はろっこんで猫と話してネズミを追い払ってもらうわ」
美野梨とまうが行動表明をし、アイオもはりきって「このツ……」と言いかけて口を噤む。「このツメでネズミ達なんて一撃で」という台詞が脳裏に展開されていたのだが、ほしびとであると隠していたと思い出したのだ。
(そういえば、今は人の姿でしたーっ!)
普通の人間はツメを出して戦ったりはしない。
(「ひと」とは不便なものですわ……)
ならば、ネズミを攻撃するのは諦めるしかない。
「あいおは捕獲に回りますわ」
「俺は壁を直す。分担はこれで大体決まったな」
簾の言葉に皆も同意し、猫鳴館VSネズミの最終?決戦が始まった。
「猫鳴館の攻防戦、頑張りますわ!」
雅樹は氷点下の寮内をまうと一緒に歩いていた。
(幽霊自治委員として、最後の奉公(?)をしないとな)
壁の穴を塞ぐ為の資材になりそうなものを探す。板切れでも良いし板切れでも良いし板切れでも良い。つまり、まあ木材が良い。
「穴塞ぎに使える素材はあるかな。木材とか、布とか……」
まうも同様に考えているようで、2人は空き部屋を覗いたり、普段は開けない倉庫などを回っていく。
「本格的な補修は年明けてからにして、まずは寒さを凌ぐこと、穴を塞ぐことを考えないと」
「ああ。本当はプロに任せるのが一番なんだろうけど、まあ今は難しいしな」
「うん」
意見の一致した2人は、また別の部屋を開けてみる。
「ここには何かないか? ……古着か」
布でも丸めれば通気性はほぼ無くなる。その上からパテや泥を塗れば壁っぽくなるかもしれない。
「とにかく持っていくか」
「うん。でも、これだけで足りるかな」
雅樹とまうは古着を回収し、その後、針金ハンガーや壊れた家具の一部なども集めていった。
「チュー!?」
猫獣人のアイオは、ネズミや虫を追うのは得意だし慣れている。壁穴を広げていた銀色のネズミを捕まえて、捕獲用のカゴにぽいっと入れた。
「チュー……(捕まってしまったか。まあ、良い壁を齧れたから良しとしよう)」
銀ネズミがそう言っているのだが、チューとしか聞こえず、相手が余裕であることには気付かない。
「まずは1匹! ですわ! ここに置いておきますわね」
「ありがとう」
捕獲して銀ネズミの研究するという美野梨は笑顔で礼を言う。ろっこん「友との語らい」で猫にネズミ退治をお願いしてから、彼女は壁の補修を手伝っている。雅樹とまうもフロアに戻ってきて、その中央には資材が置かれている。雅樹は必要そうな分だけ持って、あかずの間の扉を直していた。隙間に泥や資材を詰めるという、大雑把な作業ではあったが。
それが終わると、ついでに周囲の壁も修繕していく。ひゅーひゅーと冷たい空気が入ってきて、かなり寒い。
「出来るだけ外の空気が入らないようにしないとな」
厚着をしても寒さに震える状態からはいい加減に抜けたい。
「! またネズミか」
流石、氷ちゅー期と言うべきか。目の端にちょこちょことネズミが映る。だが、捕獲までは手が回らない。
「ネズミに関しては、皆に任せよう」
彼は、穴埋めにひたすら励むことにした。これが終わったら皆の方も手伝おう。
「ネズミが……」
一方、まうは自室の毛布を壁の穴埋めに利用していた。鋏を使って小さくした毛布をぎゅむぎゅむと詰めていく。その手を素早く虫取り網に伸ばし、振り回して捕獲した。
「チュー!」
網からネズミを掴み出し、無感情な瞳に怒りを滲ませて銀ネズミを睨みつける。
「反省しないネズミには、容赦しない」
銀ネズミはびくっとなり、そして――「チュー!」と叫んで手の中から消えていった。
「!」
驚いてしばらく手を見詰めていたが、銀ネズミには特殊能力があるのだと割とすんなり受け入れられた。超常現象には馴染みがあるからだろう。
「ちゅー」「チュウ!」
その間にも、灰ネズミや銀ネズミが目の前を駆け抜けていく。追いかけて虫取り網を振り上げるが、とても全ては捕まえられない。
「手が足りない……なら、手を足す!」
周りに人が居ないことを確認し、まうはろっこんを発動した。もう一人の自分である『まうまう』を召喚する。
「まうまう、任せた!」
「わかった」
虫取り網を受け取ったまうまうがネズミ退治を開始すると、まうは補修作業に戻ろうと踵を返した。前方からアイオが歩いてくるので、慌ててまうまうに合図を出して隠れてもらう。
(ごめん、まうまう……)
内心で謝っていると、アイオが声を掛けてくる。
「こちらにネズミが逃げ込みませんでした?」
「そっちに、逃げた」
まうは別の方向を指差して誤魔化した。
「ありがとうございます」
にっこりと笑って背を向けるアイオに少し申し訳なくなりながら、まうは毛布を穴に埋める作業に戻った。
そして、簾も穴塞ぎを続けていた。今の猫鳴館は、人が快適に過ごせる場所とはお世辞にも言えない。
(もちろんボロさも猫鳴館の魅力だぜ? だけど俺ら寮生が安全に過ごせねーと寮として失格、俺も自治会長失格だ)
簾は、塞ぎかけの穴を見つめて考える。
(堅い材に換えてみっか?)
パテを使うコーキングとかなら隙間風を防ぐし、齧りにくい筈だ。この時間にホームセンターは開いていないので年明けにはなってしまうが。
しかし、穴をしっかり塞いでもまた開けられたら猫鳴館に温もりは訪れないだろう。
「今までの穴から次に開けそうなとこに罠構えて生け捕りできねーかな」
確実にネズミを捕獲できる方法について考えていたら、それを聞いて美野梨が口を開いた。
「穴の前にネズミ捕りを置きましょう。倉庫に沢山あったわよね」
「そうだな。取りに行こう」
早速、ネズミ捕りを取ってきて設置していく。その時、美野梨の耳に「ちゅー!」という声が聞こえた。振り返ると、早くも灰色のネズミが捕まっている。早速仕掛けを外し、手でネズミを掴む。
その時、銀ネズミが駆け寄ってきて「チュー!」と鳴いた。灰ネズミの足の傷がみるみるうちに消えていく。
「え……!?」
驚いている間に、銀ネズミは逃げ去ってしまった。
「…………」
大人しくしている手の中の灰ネズミを暫し眺めてから、美野梨はとりあえずカゴに入れておくことにした。
「美野梨ちゃん」
そこで、足下から名前を呼ばれた。、同じ声で仲良しの猫の名乗りが聞こえた。目を移すと灰ネズミがちょこんと座っていて、え? と美野梨は混乱する。捕まえようかと手を伸ばしかけた時、灰ネズミが再び名乗った。
「僕だよ! ネズミに変えられちゃったんだ!」
「え!?」
銀色のネズミは猫をネズミに変える魔法が使えて、猫仲間が次々にネズミ化しているらしい。ただし、身体能力は猫のままで、銀ネズミを捕まえことは何とか可能らしい。
「猫の時より大変だけどね」
このネズミが元猫であるのは、ろっこんを使った美野梨と話が出来ていることからも確かだろう。外見がネズミでも中身は猫だから話せるようだ。ほっとした、と元猫ネズミは言った。
「もしかして、ネズミとも話が出来たりするか?」
様子を見ていた簾が話に加わる。元猫ネズミは大きく頷いて一声鳴いた。
「勿論だ、と言ってるわ」
「よし、じゃあそのネズミに話を聞いてくれないか? 何でこんなことしやがんだ!? ってな」
元猫ネズミは先程と同じ動作で了承し、美野梨の手に握られているネズミに尋ねた。
「ちゅーちゅちゅー、ちゅー!」
「チュチュ! チューチュチュ―!」
「ちゅ! ちゅちゅちゅ!」
怒りながら元猫ネズミが教えてくれたところによると、灰ネズミが普通に壁を齧っていると――
『普通に!?』
簾はつい声を上げ、作業をしていた皆も異口同音に驚く。だが実際、ネズミにとっては壁を齧るのは普通のことだったりする。
――で、普通に壁を齧っていると、突然銀ネズミの一団が現れた。ここの壁は齧り心地が最高なのだと伝えたら、彼等は目的を果たす前についでに齧っていこうと言い出した。目的地へ行く途中でコンビニに寄ろうくらいのノリだったらしい。
更に、ここは何なのだと訊かれたから猫鳴館という寮であり、その名の通り猫が根城にしているという話をした。
「そしたら、ちょうど良い。ここの猫をネズミに変えるぞ! って」
その結果、銀ネズミは灰ネズミ達と一緒に壁を齧り、猫をネズミにしていったという訳だ。共闘してはいなかったが、先程はネズミのよしみで傷を直してくれたようだ。
「全部白状したんだから離してください。もうこの廃墟の壁は齧りませんから。他の廃墟に移りますから」
「廃墟じゃねえ!」
簾が突っ込む。
「そうね……」
研究しようと考えていた銀ネズミではないし、少し考えてから美野梨はネズミを開放した。ちゅーちゅーと鳴きながら灰ネズミは仲間達の所へ走っていく。いつの間にかフロアの隅には灰ネズミが集まっていてこちらの様子を窺っていた。
「ちゅーちゅーちゅ! ちゅちゅちゅ、ちゅーちゅう」
「ちゅちゅちゅ、ちゅーちゅ!」
何らかの話をしてから、すっかり代表格となった灰ネズミが戻ってくる。
「皆で出ていくので、ネズミ捕りにかかった仲間達も解放してください。傷は銀色のネズミに治してもらいます」
「銀色……もう見当たらないみたいだけど」
そして、ネズミ対策に勤しんでいた皆も集まっていた。雅樹が周囲を見回していると、他のネズミがちゅーちゅーと話し出す。
「私達をみんなネズミに変えたら、居なくなったの!」
このネズミも元猫だったらしい。
「ちゅちゅにゃ……にゃー……!?」
突然、ネズミが猫に戻っていく。何があったのかは分からないが、銀ネズミが魔法を解いたらしい。
「では、これで解決ですわね」
ほっとした笑顔でアイオが言い、雅樹もストーブが効果を発揮しそうな寮内に満足そうだ。
「壁の穴も大体塞いだしな」
「じゃあ、ついでにこのまま大掃除をしましょうか」
そして、美野梨の言葉を聞いて、皆が「何ですと」と驚きを示した。
「今後、ネズミが来ないように綺麗にしないといけないでしょ? 対策もしないと」
掃除をしていると、帰ってきた寮生達も自然と手伝いに入ってくれた。アイオは掃除をしながら、いつもの年越しを思い出す。
(星幽塔では住み込み先のおかみさんや常連客のみなさんとパーティをするのですよね)
それも賑やかで良いものだが、忌憚なく過ごせるかと言えば、ちょっとばかり気を遣ってしまうものでもある。
「友達と集まって過ごすなんて初めてで……ネズミ退治に修繕、掃除の年越しになりましたが、これはこれで楽しいのですわ」
『使った食器はすぐに洗う』と書いた紙を壁に貼りながら、アイオは一緒に居た美野梨に言った。
「私も楽しかったわ。誰かと何かをするのは好きだから」
貼り紙を終え、ネズミの糞の掃除をする。更に、巣の材料と成り得る新聞紙や段ボール箱などを一か所に運んだ。
「来年になったら、生ゴミを入れるフタ付きのゴミ箱を買わないとね」
「そうですわね」
そんなことを話していたら、猫がにゃー、と鳴きつつ近付いてきた。
「そうだ、お礼をあげなきゃね」
台所まで戻り、煮干しをあげる。ありがとう、と言うと、猫はもう一度にゃーと鳴いた。他の猫も次々と寄ってくる。
「この煮干しを出汁にして年越しそばを作りましょうか。もう年明けそばかな」
「あら、良いですわね! 手伝いますわ」
沢山の猫に囲まれながら、二人は年越しそばを作り始めた。
「……年越しそば、2つもらってもいい?」
そろそろ完成という頃には、台所には匂いに惹かれた寮生が顔を出していた。まうもその一人で、そばを受け取る。その時、猫鳴館の壁時計の0時を告げた。
「あ、もうお正月ね。明けましておめでとう、今年もよろしくお願いします」
「……よろしく」
小さく頭を下げて挨拶して、まうは自室に戻った。そばの盆を机に置き、再び『まうまう』を召喚する。机の前に座ってどんぶりを並べて置くと、まうまうに言った。
「一緒に……年越しそば、食べよう」
こくんと頷く彼女と、隣り合って座る。壁を塞いだとはいえ真冬の室内はしんしんと冷え、まうは古い毛布を引っ張ってきて二人で使うことにした。一枚は壁に埋めてしまったが、予備が残っている。
「二人でぬくぬくしよう」
そばを啜りながら、まうまうはまたこくんと頷いた。
「来年も……今年も、よろしくね」
「……よろしく」
どんぶりを空にした後は、二人で肩から毛布を被る。
(……まずは、穴の本格補修かな)
新年最初にやることを考えていると、部屋に猫が入ってきた。
「にゃー」
「一緒に入る?」
「にゃー!」
真っ直ぐにやってきた猫と共に、まう達は毛布の温もりの中で眠りに落ちた。
「美味い……」
その頃、雅樹は自室でカップのそばを啜っていた。台所で年越しそばを作っていると知らなかった故ではあったが、これはこれで美味しい。
何より。
「温まる……」
身体の芯まで冷え切っているので、五臓六腑にカップそばの温かさが染みわたる。
至福のため息を吐いて、ボロい部屋を改めて眺める。
(来年、大学に合格したら、ここともお別れか……)
雅樹の志望大学は京都にある。猫鳴館の前を通ることすらなくなるだろう。そうなると当然、元カノの
椎井 莉鳥
ともお別れで――
「…………」
今度は、重さを含んだため息を吐く。
もう終わったはずの関係なのに。
「…………」
椎井 莉鳥
が自宅で目を覚ますと、部屋の中は真っ暗だった。大掃除を終えた時はまだ明るかったのだが、随分と長く昼寝をしてしまったらしい。
「晩ごはんよー」
暖房の効いた暖かい部屋でぼうっとしていると、母がひょこりと顔を出した。
「はーい……」
椅子の背に掛けていたパーカーを掴み、羽織りながら階段を降りる。リビングでは大晦日恒例の人気番組が流れていて、毎年楽しみにしているのに今日は頭に入らない。
「…………」
「どうしたの? 最近何か様子が変よ?」
ぼんやりする頭で年越しそばを食べていると、母が心配そうな声を出した。
「大丈夫……」
「……そう? それなら良いんだけど……。お風呂湧いてるから、食べたら入っちゃってね」
「うん……」
元々あまり喋らない方だからか、莉鳥が変だと気付いたのは母だけで、他の家族は楽しそうにテレビを見ていた。その後は特に話すこともなく食事を終え、着替えを用意して風呂に入る。
「ふう……」
熱いお湯に身を浸して、天井を見上げる。
(今ごろあいつ、どうしてるかな……)
唐突に、元カレの
北里 雅樹
の顔が思い浮かぶ。彼はこの時、莉鳥とは正反対の極寒の地にいたのだが、流石にそれは想像できない。
雅樹の顔は脳裏から消えず、莉鳥の中に徐々に怒りのような感情が湧いてきた。
(冗談じゃない。あいつとは終わったのよ)
幼馴染から恋人になったけれど、それはもう過去のことだ。今は腐れ縁だが、雅樹が京都の大学に受かったらそれもおしまいで。
(そう、それでおしまいなのよ。それなのに……)
そう思うと同時、今更何を言っているんだというもう一人の自分が居る。あれだけ愛を求め合っておいて、もう元も何もないだろうと。
けれど、それを認めたくなくて、高まりかけた気持ちを抑え込んで、でも抑えきれなくて、熱さを感じる度に苛立って。
「あの日……どうしてあんなこと……」
自らキスを求め、それを叶えてしまったあの日から、ずっとくすぶり続けているものがある。
膝を抱えて、ずるずると湯の中に身を沈める。
目をつぶる。
――自分の心に火がついている。
この感情に名前を付けるなら、それは「恋」。
(終わったはずの恋が蘇った?)
そうとしか思えない。だが――認めたくなかった。
「認めたくない……認められないわ……」
認めるのが、怖かった。
(どうして……?)
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ブロンズシナリオ(100)
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3人まで
シナリオジャンル
日常
動物・自然
NPC交流
定員
1000人
参加キャラクター数
56人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2020年05月10日
参加申し込みの期限
2020年05月17日 11時00分
アクション投稿の期限
2020年05月17日 11時00分
参加キャラクター一覧
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