【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　日付を超えた頃に参道にある待ち合わせ場所に行くと、七夜あおいは既にそこに立っていた。スマートフォンで時間を潰しているらしい人達の中で、彼女は真っ直ぐに八神修を見詰め、佇んでいる。
「あおい」
　声を掛けると、彼女は「修くん」と応えてにっこりと笑った。
「明けましておめでとう。修くん」
「明けましておめでとう。今年もよろしく」
　ふわりと笑い、修はあおいと歩き始める。二人で年初めを過ごせることに幸福を感じながら、修は改めてあおいの装いに注目する。明るい青地の花柄の浴衣は、闇の中で彼女の存在を際立たせた。
「その浴衣姿、良く似合ってるよ。すごく可愛い」
「そう？　ありがとう。お世辞でも嬉しいな」
「お世辞じゃないよ。俺が本心しか言わないことは知ってるだろ？」
「ふふ、そうだね」
　あおいは笑って、周りに目を遣る。
「待ってる間、待ち合わせてる男の人が同じこと言うのいっぱい聞いたから、つい、ね」
「確かに、浴衣姿の女性を前にしたら褒めるのは礼儀かもしれないな。本心かどうかは表情から判断してもらうしかないけど……」
「うん、修くんが私に見惚れてるの、分かったよ」
　あおいはまた、ふふ、と悪戯っぽく笑う。浴衣の所為か、普段よりも大人っぽく見える。
「あんまりからかうなよ。寒くないか？」
「うん、大丈夫。道行も着てるからね」
　自分は人混み側を歩き、いつも通りに優しくエスコートをする。
「修くんは、何をお願いするの？」
「そうだね、俺は……お願いというか、報告をするよ」
「報告……？　何を？」
　あおいが少しだけ首を傾げる。初詣では一般的に、夢の成就や健康等を願い、祈るものだ。だからよく分からないのだろう。
「去年の感謝と出来事、今年の希望と気持ちだね」
「今年の希望って、それはお願いじゃないの？」
「うん。これが希望ですって報告するんだ。決意表明みたいなものかな」
「そっか。じゃあ、お願いはしないの？」
「するよ。自分じゃない人の事を願うんだ。俺じゃ助けられない部分の力添えを……ってね」
　参拝に並ぶ列の動きが止まり、立ち止まった修はあおいを見詰めた。
「……？」
　どうしたの？　という表情の彼女に向かって、君の願いを叶えたいんだ、という想いを込める。
「ある人が、目標を達成できますように、とお願いするよ」
「……そっか」
　あおいは淡く微笑むと、正面を向いた。修が誰を思い浮かべていたのか――多分、伝わった。そう思うと、顔が耳まで赤くなる。
　――でも、知って欲しかったから。
「あおいの願いを、教えてほしいな」
「私の願い？　……んー、修くんの『希望』を教えてくれたら」
「俺の『希望』は、一番は受験で……同じく一番は、ある人が俺を好きになってくれること」
「私の願いも、まずは受験かな。後は……寝子島の皆の願いが叶いますようにって。ちょっと贅沢すぎるかな」
　でも、一人だけの願いじゃなくて、皆の願いが叶った方が幸せでしょ？　とあおいは言った。
「うん、そうだね」
　その『皆』に自分は入っているのか――訊かなくても入っていると分かっている筈なのに、修は確かめたくなる。
「あ、私達の番だよ」
　あおいは小銭を取り出して、賽銭箱に軽く投げる。
「俺からも、あおいの願いが叶うように神様に願うよ」
「うん、皆で幸せになろうね」
　二人で一緒に、手を合わせる。
　今年はきっと良い年になる――そう思いながら。