【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　１０　

　愛猫萌々子は実家に帰らずに一人で星呼祭に参加していた。
　母が亡くなり、父も苦手な部類に入る彼女にとって、実家に帰ることに殆ど意味は無かった。皆無と言ってもいいくらいだ。
　兄である愛猫公英はアメリカにいる。駆け出しのシンガーソングライターとして、皆に知ってもらえるように頑張っている。彼と萌々子は仲が良く、今はタブレット端末のアプリを使ってビデオ通話で繋がっている。
「そっちは真っ暗だな」
「夜ですから。お兄様はまだ起きたばかりなのですよね」
　公英の周りはとても明るく、白い光で満ちている。
「うん。これからライブがあるからあんまりのんびりはしてられないけどね」
「拝見しますね。楽しみにしています」
　アメリカでは、夜にプロアマ問わずの年越しライブが開かれる。萌々子も帰宅後にネット中継で観る予定だ。向こうではテレビでも中継される。
「一気に注目される大きなチャンスだからな。頑張るよ」
「思い切り楽しんでくださいね」
　軽そうに見える兄だが、実際はかなり真面目で思い込みが強い。萌々子が考えている以上に緊張しているだろう。
　星ヶ丘マリーナには、沢山の人が集まっていた。列に並び、自分の分のスカイランタンを貰いに行く。
「お兄様、ちょっと待っていてくださいね」
　油性ペンをちらりと見せて、ランタンはカメラに映らないようにして願い事を書く。そして、完成してから公英にお披露目した。
「じゃーん！　見えますか？　スカイランタンです」
「あ、俺を描いてくれたんだな！」
「はい！　簡単にですが描いてみました」
　ランタンには公英の似顔絵と、「D.D.Leo 全米制覇！」という夢を書き添えた。D.D.Leoというのは彼のイメージにぴったりなひまわり――ダンデライオンからつけたアーティスト名だ。兄の夢は、萌々子の夢でもあった。
「萌々子の夢はいいのか？」
　けれど、公英からは彼の夢しか書いていないように見えるのだろう。それに事実、萌々子にも自分だけの夢がある。
「私の事は書かなくて大丈夫です」
　だが、萌々子はそう答えて微笑んだ。『フツウを守る。ののこ様を絶対死守する』と書こうにも、公英にはらっかみやもれいびのことは話していない。
「そうか。でも、あるんだろ？」
「はい」
「頑張ってな」
　公英の応援の言葉に、萌々子は「はい！」と元気よく答えた。
「では、飛ばしますね」
　片手でタブレットを持ち、片手でランタンを飛ばす。大きな星のようなそれは、闇夜に少しずつ昇っていった。
「綺麗だな」
「ええ。綺麗です……」
　有名な制作会社が作ったアニメ映画でもこれに似たシーンがあり、ＣＧでも美しいと思ったが、やはり本物の方が綺麗だった。
　カウントダウンも終わり、萌々子は公英に笑いかけた。
「ではひと足お先に、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。また夜に」