【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略｜リアクション

【大晦日】自由に過ごしたり猫になったり鳥になったり鼠退治（略

　１４

　大晦日の夜、まだ年が明ける前。
（ここに来るのは二ヶ月ぶりだな）
　エノコロ岬を歩きながら、ヒュー・ヒューバートは、秋祭りに来た時を思い出す。
（あの時は丘には行かなかったな）
　あそこまで昇るのは少し辛い。城山水樹と二人で恋人繋ぎをして、ゆっくりと進む。彼女とは付き合い始めて随分経つが、相変わらず慣れずにドキドキとしてしまう。
『えー、それってちょっと変じゃね？』
　と、そう言われることもあるが、それが二人にとっての自然体である。
（それだけ好きだってことなんだよな）
　何度会ってもドキドキして、何度会っても新鮮で、こんな風に思える女性に出会えて幸せだと心から思う。
「暗いから足元に気を付けて」
「うん」
　水樹は少し頬を染めて返事をした。クリスマスに会ってから一週間しか経っていないのに、またこうして指を絡めて歩いている事に、彼女は喜びを感じる。
（彼と出逢って、もう一年か……）
　クリスマスでぴったり一年で、一週間前に感じた感慨にもう一度浸る。
（でも、全然慣れないな……）
　目と目が合うと、やはり胸の鼓動が高まって赤面してしまう。彼と同じ身長なのが恨めしい。
（でも、この感覚……）
　中学二年の時にファーストキスをした初恋の相手や、高校二年のクリスマスに初めてベッドに入った時やヒューと付き合う前の彼氏の時は、こんな気持ちにはならなかった。
（──なんで過去のことを思い出すのよ）
　引きずられるように、前の彼氏に浮気されていたことまで思い出してしまって内心で少し苦い気持ちになる。この時ばかりは、ヒューと居るドキドキを束の間忘れた。
「……？」
　握る手に力が込もった気がして、ヒューは水樹の様子がおかしいことに気が付いた。
　毎回同じパターンというか、傍から見たらじれったいであろう、いつまでも恋に戸惑っているヒューだったが、一年も経てば赤面はしつつも少しは相手を見る余裕が出来てきた。今の水樹の表情には、どこか陰があった。
「水樹、どうかした？」
「ううん。何でもないわよ」
　気取られぬようにと水樹は屈託のない笑顔を浮かべた。だがヒューは、何でもなくはない彼女の心の揺れを確かに感じていた。でも、きっとそれは話したくないことなのだろう。
「そうか。それなら良いんだ」
「うん」
　水樹は微笑み、ヒューと絡めた指をさらに深く絡めた。不思議と鼓動は高まらなかったが、彼女自身、それには気付かない。
（もう、過去にこれ以上流されたくないわ）
　そうこうしているうちに、猫恋の鐘を鳴らそうと待つ列に到着していた。他愛のない会話をしている間に順番が来る。
　鐘から垂れている紐を掴む時、水樹は不安にも似た緊張を覚えた。それが顔に出ていたのだろう。ヒューが優しく呼びかけてくる。
「水樹？」
「……ねえ、ヒュー。綺麗な音が出なかったら、永遠の祝福を授かれないのかな？」
　彼女の純粋な瞳が愛しくて、ヒューはふっと柔らかく笑った。
「大丈夫だよ。ほら、一緒に鳴らそう」
　ヒューも紐を掴み、タイミングを計ってから思い切って二人で鐘を鳴らす。カラーン、という、高めの音が響いて消えた。
「あ……今、いい音がした！」
　大喜びではしゃぐ水樹の可愛らしい横顔を見て、ヒューは胸が暖かくなった。
（彼女と出会えて良かったな……）

　鐘を鳴らし終えても、二人は丘の先に留まっていた。やがて新年を迎え、海岸で花火が打ち上がる。
（水樹……）
「ん……」
　花火の明かりに照らされつつ、二人はキスを交わした。